マネタイズに挑戦できる土壌は整った

TBSラジオがポッドキャストを始めた2005年には、ウェブ経由でラジオを聴く方法は存在しなかった。ポッドキャストは「ラジオ離れ」の状態にある1人でも多くの人に、ラジオの魅力を伝えるための「試供品」(萩原氏)のようなツールとして導入したのがそもそもの始まりだ。開始当初、ここまで人気が出るとは考えていなかったという。

TBSラジオクラウドの登場で重要なのは、ポッドキャストでは不可能だった音声コンテンツ配信サービスの収益化が可能になるかもしれないという点だ。新サービスではサイトを訪れるユーザーのcookie情報やユーザー登録情報により、一定の範囲内ではあるが聴取者の属性を把握できる。広告媒体として考えた場合、聴いている人がどんな人か、全く分からないのと一部分でも分かるのとでは価値が大きく違ってくる。

TBSラジオクラウドが広告を獲得できるかどうかは今後の話だが、少なくとも「マネタイズに挑戦できる」(萩原氏)土壌が整った部分は大きな前進とみてよいだろう。ポッドキャストでもストリーミング配信でもコストと労力はかかるが、おなじ労力を音声配信サービスの「維持」から収益化への「挑戦」に振り向けたことにTBSラジオの決断の本質的な意味がある。

音声コンテンツ配信の収益化に挑むTBSラジオ

新たな広告手法がラジオの未来を拓く?

TBSラジオは「プログラマティックオーディオアド」という広告手法をTBSラジオクラウドの収益化に活用する方針を示している。これは聴いている人の属性に応じた音声CMを配信する仕組みで、広告を出稿する企業は狙い通りの聴取者に情報を届けることができる。

米国などではインターネットラジオが一般的なものとなっている。聴取者は数多くの放送局の中から、自分好みの放送を選んで無料で聴くことができる。インターネットラジオの無料放送を可能としている仕組みの1つがプログラマティックオーディオアドだ。TBSラジオクラウドは日本に革新的な音声広告手法を根付かせるきっかけとなるかもしれない。

ラジオの広告費はピーク時に比べると半分程度に減っており、現状のままでは以前の規模に戻る見込みも薄い。TBSラジオクラウドは、ラジオ広告に新たな可能性を提示する画期的な取り組みといえる。TBSラジオが“ラジオの未来”のための挑戦と位置づける新サービスは成功するか。今後の行方に注目したい。