「ボートとクルマは切っても切れない関係にある」と思う。この場合の“ボート”は日本で言うところの“クルーザー”のことで、マリーナに停泊している40フィートとか50フィートくらいのラグジュアリーな船を指す。デッキではシャンパン、キャビンはシャンデリアが似合いそうな雰囲気のアレだ。
ボートとレンジローバーに共通点?
この2つの乗り物の親和性の高さを知ったきっかけは3世代目「レンジローバー」だった。そのプレゼンテーションでデザイナーは、「ダッシュボードは『リーヴァ』からインスパイアされました」と語った。要するに、高級ボートの操縦席をお手本にしたらしい。
恥ずかしながら、今から30年くらい前の私は「リーヴァ」を知らなかった。それが歴史あるボードビルダーであり、イタリアンデザインをまとっていたことを。なので、それをきっかけにボートの世界を知ることにつとめた。船舶免許をとり、マリーナやマリン系の取材をし、ネットワークを構築するようにと。
それが実をむすんだのか、およそ10年後にはリーヴァから逆指名で取材依頼をいただき、ボートの試乗をした。「アクアリーヴァ」の操船をする機会など滅多にあるものではないので感激だ。その後、2014年にはイタリア北部の避暑地コモ湖を訪問し、桟橋に停まっているたくさんのクラシックアクアリーヴァを見た。「コンクールデレガンス・ヴィラ・デステ」での出来事で、なんとも印象深い眺めだったことを覚えている。マホガニーのデッキと高級レザーをふんだんに使ったキャビンは、まさに贅沢の極みである。
クルマとボートの深い関係
ボートに触るようになって増えた知識は、それ以降のクルマの取材でも役に立った。私にリーヴァの話をしたドン・ワイアット氏の後を継いだジェリー・マクガヴァン氏は、「レンジローバーのフローティングルーフはボートからインスパイアされた」と説明し、ジャガーのイアン・カラム氏は、「『XJ』のリアピラーの角度はボートから取り入れたものだ」としてプリンセスヨットの写真を見せた。
何を説明したいかと言うと、業界は異なってもターゲットは同じだということ。つまり、ジャガーやレンジローバーの購買層と、リーヴァやプリンセスの購買層はリンクしているのだ。マイボートを乗りにマリーナに行くのにクルマは必須だからね。当然そうなる。
事実、モナコやカンヌ、マヨルカ島やイビザ島でそんな光景を何度か目にしている。彼の地のマリーナの駐車場にはエクスクルーシブなクルマばかりが並んでいる。ロールス・ロイスやベントレー、AMGなどなど。地中海の温暖な気候のせいか、SUV以外はオープントップモデルが目立つ。駐車場を眺めているとモーターショーが開催されているのかと錯覚してしまうほどだ。きっとカーメーカーのデザイナーは、こんなシーンを見ることで、ボートとクルマの親和性の高さを実感しているのだろう。
F1のモナコグランプリなんかはそれを象徴している。富裕層の観覧席はバースに停泊しているメガボート。クルマ好きの世界中のセレブリティがそこに集まり、マイボートからレースを観戦する。バースに船を着けられない人はモナコヨットクラブのビルからだろう。リーヴァルームからは坂道を駆け上がるF1マシンをほぼ正面から拝むことができる。
ということで、まだボートの世界に足を踏み入れていない方はぜひ一歩、踏み込んでみてはどうだろう。そこには映画『007』で描かれているような世界が広がる。片手にボランジェを持ちながらボウタイを緩めるような。でもって、その傍にはアストンマーティンのキー。カッコいいカーガイのライフスタイルがそこに凝縮されている。