最近はいろいろなタイプのお酒を嗜む機会が増えてきた。若い頃はビールとサワー、バブルの頃はバーボンソーダといった具合だったが、ワインをはじめとするシャンパーニュの深さを知ってから、その辺をグラスに注ぐようになった。その延長線上に待ち構えていたのが、コニャックとの出会いだった。
シガーのように楽しめるお酒
特別な日はもちろん、特に何もない日であっても、ベッドに入る前にコニャックの香りを感じたくなることがある。ほんの少しグラスに注ぎ、顔にグラスを近づける動作を繰り返すだけで、何か得したような心地よい時間を過ごせる。
こうした時間の使い方はシガー(葉巻)に教えてもらった。吸い口をカッターで切り、火をつけて燻らせるとそんな時間がスタートする。太いボディを指元でガシッとつかみ、何度か息を吸って燻らせると、あたり一面に心地よい香りが広がる。思わずニヤけてしまう瞬間だ。
知っていますか? シガーのこと。市販の紙タバコとは違い、シガーは天然素材だけでできているオーガニック製品である。その証拠に、市販の紙タバコは吸わなくても灰皿に置いておけば着火剤が機能して全て燃えてしまう。フィルター部分を残して。ところがシガーは、置いておくとすぐに火が消える。余分なものが入っていないので、口に咥えてブローしてあげないと火種が続かないのだ。映画などでシガーを燻らせているシーンを観ているとわかる。彼らは常に口に咥えているか指に絡ませていて、灰皿には置かない。
話がそれたが、そんなシガーのような時間の使い方ができるのがコニャックだと思う。気心の知れた友人とワイワイ語りながら飲むお酒ではなく、ひとり想いにふけるときの相棒といった感じだ。
コニャックってどんなお酒?
そんな味わい深いコニャックは、主に白葡萄からできている。そこから生まれたオードヴィー(フランス語で命の水)をブレンドし、カスク(樽)で寝かせて熟成させる。何十年も。調合するのはそれぞれの蔵のセラーマスターで、彼らがブランドの味を守るといった図式だ。なので、セラーマスター自身が自分のブレンドしたコニャックを口にするのは難しい。何年寝かすかにもよるが、100年なんてのも珍しくない。
先日、知り合いに頼まれてコニャックの試飲会を開いた。コニャックはマーテル。メインとなる「ロール・ド・ジャン・マーテル」を味わい、気に入ったら購入してもらうという小さなイベントだ。価格は数十万円。特殊なシェイプのボトルはリアルレザーにダブルステッチの入ったカバー付きで売られる。
その小さなイベントの場所の選定から、当日の司会進行までをつとめた。イタリアの高級ファニチャーショップを定休日にお借りしての開催だ。イタリアらしいキレイな色に染まったレザーのソファは、ラグジュアリーな雰囲気を醸し出す。100万円を超えるソファとともに、200万円クラスのシングルチェアも顔を連ねる。フランスのお酒とイタリアの家具というコラボレーションだが、違和感はなし。そこにはヨーロッパの伝統と良い物を知る大人の嗜好品があるといったところだ。
会の進行は私だが、コニャックについてはアンバサダーのフランス人が流暢な日本語で語る。言うなれば語り部。コニャックもフランスの伝統文化のひとつと考えれば、こうした語り部が重要に思える。彼らの口から出る言葉で伝統と歴史、ブランドとその価値が綿々とつながっていくのだ。
ということで、お酒を呑むのに「いつもの」とか「とりあえず」もいいが、たまには時間を楽しむお酒を手にしてはいかがだろう。歳を重ねると、そんな思考が生まれる。コロナ禍以降、外へ出る機会も減ったし。きっとコニャックは、いい相棒になるに違いない。