いまの場所にたどり着くまでに、どんな選択肢があったのか――。この連載では、道を切り開き始めた次代のお笑い芸人に、これまで歩んできた人生における決断と、その先に見据える未来について聞いていく。それぞれの選択がどのように現在をつくり、次の挑戦へつながっていくのかを記録していく試みだ。
本稿で話を聞いたのは、お笑いコンビ 例えば炎。ともに兵庫県宝塚市育ちのNSC大阪43期生で、タキノルイさんは1995年10月8日生まれ、田上さんは1995年5月3日生まれ。中学校の同級生で2020年にコンビを結成し、2024年、2025年のM-1グランプリでは準決勝まで進出している。吉本興業 東京本部にて話を聞いた。
偶然と逃げ道から始まった芸人への道
――お笑い芸人を目指したきっかけについて教えてください。
タキノルイさん(以下、敬称略):大学の3~4回生の頃に夜勤バイトをしていたコンビニで、松竹芸能の元パンドラの福田和真さんと一緒になったんです。それまで漫才なんてしたことなかったし、劇場なんて行ったこともなかったんですが、身近にいるお笑い芸人さんが大阪で賞レースの予選などに出ている姿を見て「格好良いな」と思ったのが最初のきっかけでした。
当時、まだお笑い養成所という存在も知らず、福田さんに「弟子にしてください」と頼んだんですが、まぁ「弟子とかやってないし」って断られますよね(笑)。そこで「松竹の養成所に通おうと思います」と相談したところ、「いやお前は吉本興業の方が合ってそうだ」と言われて2018年にNSC大阪41期生として入学したんです。その後に中退となり、2020年にNSC大阪43期生として入り直しました。
田上さん(以下、敬称略):ボクは大学4回生の頃に単位が足りず、あと4年間通わないと卒業できないことが分かっていました。そんなときに地元の飲み会で会ったタキノが「吉本興業に行く」と言っていたんで、「これや!大学から逃げられる」と思って(笑)。タキノについて行ってあかんかったら、うちの叔父さんのやっている会社に入れてもらおうという魂胆もありました。
タキノ:漫才は同級生とコンビを組むと良い、ということは色んなところで聞いていたし、田上は性格的にもめっちゃ良いヤツなので。ただ飲み会の席で決まったことなので、次の日、あらためて本人に「ほんまに行くの?」と確認しました。田上の親は厳しいやろな、とは思っていたので。
田上:ええ、飲み会の次の日、本気のLINEが届きました。ただあれはNSCに入学して最初の授業だったか、木村祐一さんの、キム兄の授業で「じゃあ、いまから1人ずつ前に出て面白いことやれ」って言われたときは「進路を間違えたんちゃうか」と後悔しましたね(笑)。そんなんするキャラじゃなかったので、うわエグいとこ来てもうたな、と思いました。
――憧れのお笑い芸人はいましたか?
タキノ:当時、そこまで追っかけていたわけではないですけど、ジャルジャルさんとかは本当に好きで。中学生のときは「爆笑レッドシアター」が流行っていたし、みんなでお笑いをつくっている番組を見て「楽しそうやな」という憧れはありました。
田上:ボクも「はねるのトびら」「笑う犬」「エンタの神様」とか、あとはダウンタウンさんの「ガキの使いやあらへんで!」とか、バラエティは人並みに好きでした。「誰かみたいになりたい」と思って見ていたわけではないんですが、ちっちゃい頃、お笑い番組は身近にありました。何回か、家族と一緒に吉本新喜劇を見に行ったこともあります。
――進路を考える際、ほかの職業も選択肢にはありましたか?
タキノ:ボクはゴルフをやっていたんで、プロゴルファーを目指す道もありました。研修生になりプロテストを目指しながらキャディなどの仕事をやる、あるいはゴルフを教えるティーチングプロになる、どっちかになれたら良いなと思ったこともあります。
田上:ボクは弁護士を目指して司法試験の予備試験を受けたりしていました。でも「こっから、まだまだ勉強することあるんやろな」と、億劫な気持ちにはなっていたんですけど。中学、高校の頃くらいからずっと「弁護士になるのかな」とは思っていましたね。
――お笑い芸人を目指す選択に、周囲の反対はありましたか?
田上:両親は、はじめ「なに言ってんの?」って感じでした。「そもそも、お前をオモロいと思ったことないわ」「そんなキャラでもないやろ」と(笑)。でもまぁ、いまは好きなことやっても良い、叔父さんの会社もあるし、というニュアンスで許してくれました。
タキノ:親には何も言わずにNSCに入りました、言ったら絶対に怒られると思ってたんで。はじめは「バイト先の社員になった」って嘘ついてたんですが、いつまでもバイト先の制服を着ているので「お前、社員になってもまだ制服着てんのか」って言われて。それでも騙し騙し続けていたんですが、結局はバレてしまい、めっちゃ怒られました。その後は応援してくれています。中学校の同級生たちも喜んでくれているようです。
田上:同級生は「頑張れよ」というよりかは「ああ、オモロいやん」って感じ。そんな、どうなるか分からない職に就いてんの、って嘲笑っている感じはあります(笑)。
――これまで、芸人を辞めたいと思ったことは?
タキノ:辞めたい、と思ったことはないです。でも、先輩たちの話を聞いていると「ずっと続けていくのはしんどいんやろな」と思うことはあります。毎日、ネタを考え続けながら、劇場でウケたウケてないということを受け止めながら、40歳とか50歳になっても続けることを想像したりして。まだ売れてもないんで分からないんですが、もし劇場を卒業してテレビの仕事をやり始めたとしてもテレビに出ることの悩みもあるだろうなとか、もうずっとしんどいんじゃないかと思って。現在、賞レースではUNDER5 AWARD(芸歴5年目以内の若手芸人が対象)、キングオブコント、ダブルインパクトも始まっています。しんどいは続くんですけど、楽しいことを楽しんでやっていけたらと思っています。
田上:ボクも辞めたいと思ったことはないですね。芸人の仕事が始まったのが最近のような気もするので。そもそも休みだらけで週1回の習い事の感覚で漫才をしていた時期もあり、ほんまに毎日仕事があるのはここ最近のことなので、しんどいはしんどいですけどやりがいもあるし。ネタも全部、相方に考えてもらっているのでタキノほどの責任も背負ってないし、言われたことをやるだけって感じです(笑)。
迷ったときの判断基準は「あえて厳しい方へ」
――迷ったときの選択肢で、大事にしていることは?
タキノ:たとえばネタ選びであれば、自分が面白いと思っていること、お客さんが面白いと思っていること、袖の芸人の反応、という判断材料があります。営業であればお客さんの反応が10割ですが、賞レースで審査員が芸人やったら芸人も笑かせないといけないので、自分が面白いと思うことを2にして、お客さん4、芸人4、みたいな感じにしています。
人生における大事な選択肢ということでは、厳しい方を選ぶようにしています。NSCに2回も入る、というのもとんでもない決断でした。はじめにNSCを辞めたとき、そのまま大阪でフリーでお笑いを続けるという選択肢もありました。その頃、松竹芸能の方からお声もいただいていましたし、東京に行く選択もあったでしょう。それぞれにしんどいとは思いますが、NSCの養成所に入り直して1年間を過ごす、というのが一番厳しいかもなと思ったのでそちらを選びました。人生の分岐点で敢えて辛い方を選ぶことで、後々に話のネタにもなると思うんです。
でも結局、2020年に入学したら世の中がコロナ禍となり、授業はZoomになって、めちゃくちゃ楽な道に変わったんですが(笑)。本当に、何が起こるか分からないですね。
田上:NSCを退学後、タキノがまたNSCに入ると言い出したときは「マジでヤバいな」と思いました。あの同期やった人が2コ上の先輩になって、後輩やと思ってた人が1コ上の先輩になって。社員さんも残ってるから「またコイツら来たで」と思われる恥ずかしさもあって、行く前は辛かった。でも実際、行ってみたら全然そんなこともなくて、なんならちょっとやってたから、みんなからヨイショされたり、アドバンテージを感じました(笑)。
もともとお笑いを始めた動機のひとつに、地元のオモロかったヤツがどこまで通用するか見たかった、ということがあるので、NSCに入り直すと言われたときも「タキノがやりたいようにやったら良いんじゃないか」とは思っていました。まぁそのせいで、プラス40万円の学費がかかったわけですが(笑)。
タキノ:とんでもない決断を下すとき、身近な人には相談せず、1人で決めるのも大事なことやったりすると思うんですよね。たぶん、田上に相談してたら止められてたと思う。
田上:僕は楽な方に流されやすいんで、タキノについていって「なんでそんな選択すんねん」って思ったことはありますけど、その結果、間違った方向に行ったことはあまりないんで、今後も「ついていったら良いか」と思っています。NSCに入り直したことで、結局、M-1グランプリも人より多く出られますし(笑)。今後も、大失敗のない限りはついていこうかなと思っています。
――相方に対して「さすがに、その選択は間違っているだろう」と思ったことは?
田上:タキノが、太っているのにロングコートみたいなのを着てきたことがあって。「それは身体がバカデカく見えるけど、大丈夫か?」って言ったことはあります(笑)。肩幅があるんで、肩からこうズドンと下りてきてるように見えるんで、お布団着てんのかなって思って。でもほんま1回着てきてすぐやめたな。
タキノ:あのあと、なんか破れちゃって。でかく見えてた?コントの出番を待つ演者みたいだったかも。こういうときは皆さん、周りからはどう見えてるか身近な人に相談してください(笑)。
M-1は名刺代わり、毎年波乱を起こすような活躍をしたい
――仕事上では、どんなことを相談していますか?
タキノ:たとえばM-1グランプリ2025にはネタを5本くらい用意してて、その中から仕上げていこうと思ってました。どれを選ぼうか、テーマが被っている先輩がいらっしゃるからネタを変えようか、なんてことは田上と相談しながら決めています。
田上:実際、やったのは焼肉屋のネタで、「うわこれ選ぶんか」とは思いましたね。いまYouTubeにはロングバージョンをアップしてますが、正直なところゴミ箱行きのネタだと思ってた(笑)、そのネタ選びは衝撃的でした。11分もあるし、ウケどころも弱いし。M-1前の単独ライブでやったときも「こんな大事な時期に、なにをどうでもいいネタやってんねん」と思っていて。結局、M-1当日になってあの焼肉屋のネタをやることが決まったんです。
タキノ:ほかに用意していたネタのテーマが先輩と被り、お客さんにもウケていたので、まだ皆さんの頭の中に残っているだろうなと思って、ネタ被りのない焼肉屋にしました。
田上:結果としては勝ち残れなかったんですが、めっちゃ大事な舞台の直前にネタを変更できるようになった、ってことで「力がついてきたな」と実感しました。何も怖くなくなったというか、根性がついたというか。以前なら、本番に向けて1本のネタを仕上げていくしかなかったから。
――普段は、どうやってネタをつくっていますか?
タキノ:コント漫才が多いんですが、昔は、例えば”ドーナツ王国”とか、変な設定のネタをつくっていました。でもあまりウケなかったので、最近では転校生、医者、刑事、ドラえもんとか、みんなが知ってる設定を選んでいます。すでに先輩たちがやっているから、教科書もたくさんある状態。その中で、どれだけボケられるかを考えています。はじめは7分くらいの長さで台本をつくって、田上と掛け合いながらブラッシュアップさせています。
――2人にとって、賞レースはどんな位置づけですか?
タキノ:まだ劇場に来ていない、ボクたちのことを知らない人に発見してもらえる、そんな場だと思っています。名刺代わりになるし、いま一番面白いネタを提供したい、そんな考えでやっています。
田上:...受験ですね。何回戦まで行った、というのが1年限りの学歴になります。そう考えると劇場で、内々でやるバトルライブは期末テストでしょうか。そんなイメージがあります。
――2年連続でM-1準決勝まで進出したことで、周りの反響はいかがでしたか?
タキノ:反響はありました。SNSのフォロワー数とか、YouTubeの視聴数とかが増えて、影響力の大きさを目に見える形で感じています。マヂラブさんら先輩のライブにも呼んでもらえて、一気にブーストがかかった印象です。M-1準決勝に1回行っただけだと「1発当てただけのふざけた奴ら」って思われたかもしれませんが、もう1回準決勝に行けたことで「応援して良い人らなんや」って安心してもらえたというか。ほんまは決勝に行きたかったし、優勝したかったけど、及第点はもらえたかなと。親も喜んでくれています。そんなにお笑いを知らない人なので「今年も頑張りや」みたいな、部活の試合を応援するような感じで声をかけてくれます。
田上:うちは親戚でLINEグループをつくっているんですけど、叔母さんが「今日はこんな番組に出るよ」って宣伝してくれたりしてて。昨年2月には妹の結婚式があったんですが、前年(2024年)にM-1で準決に行けたので間に合ったというか、堂々とはできないまでも「エントリー1万組の中の30やぞ」って顔はできました(笑)。たまたま、結婚式の次の週にテレビ番組の放送も決まっていたので「来週、テレ朝にも出ます」と。ドラ息子じゃないぞ、という感じにはさせてもらいました(笑)。
――今後は、どんな活動をしていきたいですか?
タキノ:現在は、頂いている仕事を全力でやっています。その中で、向いている、向いていない仕事が分かってくるのかもしれません。まだロケにも行ったことがないんですが、商店街の人と喋るのが面白くなったりするかも知れないし。いまは劇場とM-1で、毎年波乱を起こすような活躍がしたいです。
田上:今後、活動を続けていく中で見つけられたら良いですね。
――同級生ならではの友情、揺るがない信頼関係のようなものが感じられるインタビューでした。お忙しいなか、ありがとうございました。
取材:葉山澪
構成/撮影: 近藤謙太郎
stand.fm新番組「スタメンっ!!!」 火曜日「例えば炎の沼沼沼沼」
【出演】
例えば炎(田上、タキノルイ)
【配信日時】
毎週第1~第3火曜日23:00更新(毎月最終火曜日はメンバーシップ限定配信)
【番組URL】
https://stand.fm/channels/6077f3fabe8d4428b9047abb
例えば炎なんばグランド花月初単独ライブ「ひざる」
【日時】
3月5日(木)19:00 開演|20:00 終演予定
【会場】
なんばグランド花月
【出演者】
例えば炎
【チケット】
料金:配信 2,000円
チケット販売:FANY Online Ticket(配信)
※会場チケット完売



























