トヨタ自動車は5月21日、SUV「RAV4」の新型を発表した。1994年の初代デビュー以来、30年間で1,500万台が売れた人気モデルで、現在は180の国と地域で販売しているトヨタのワールドカーだ。世界中で愛されている定番SUVの新たなデザインには、どんな意味が込められたのか。実車を見て考えた。
ひとつのボディで3つのスタイル
トヨタは5月21日、新型「RAV4」のワールドプレミアを東京で行った。日本での発売は今年度中ということで、この日は詳細は語られなかったが、デザインやメカニズムの概要は明らかになった。
会場には1989年の東京モーターショーでお披露目されたプロトタイプを含む歴代RAV4が展示されていた。初代が発売された1994年から、約30年にわたる歴史をアピールしているようだった。
プレゼンテーションのオープニングでは、世界のさまざまな場所で、いろいろな使われ方をされているRAV4が紹介された。発表会に登壇したトヨタ取締役執行役員 Chief Branding Officer デザイン領域統括部長のサイモン・ハンフリーズ氏によれば、RAV4の走行距離の合計は地球6,000万周に及ぶという。
舞台上に登場した3台の新型RAV4は、5ドアのパッケージングは共通としつつ、「CORE」「ADVENTURE」「GR SPORT」の3つのスタイルを用意していた。
ひとつの車種で複数のスタイルを用意することは、軽自動車では以前から行われてきたことで、プレミアムブランドではBMWの「M SPORT」などが早くから取り入れていた手法でもある。ユーザーの多様化に合わせて、それまで上下関係にあったグレード構成を左右に展開したものだ。
RAV4も「ADVENTURE」については先代で登場しており、「GR SPORT」は欧州など一部の市場では販売していた。今回は残る標準車に「CORE」というサブネームを与え、3つのスタイルをグローバル展開するようだ。
具体的には、ADVENTUREは冒険心をさらに掻き立てる武骨で力強いデザインが特徴で、GR SPORTは走りの楽しさを機能とともに表現したスポーツ志向のモデル、そしてCOREは、洗練された都会的なアピアランスが特徴となっている。
エクステリアは大ヒットした先代をアップデート
では、3つのスタイルに共通する全体的なフォルムはどうかというと、筆者は先代(5代目)の進化形という印象を受けた。
これは2019年に発表された5代目が、歴代の中でも好評だったことが大きいだろう。RAV4の累計販売が1,000万台を突破したのは、5代目に切り替わって間もない2020年4月のこと。約5年で500万台を、この代だけで上乗せしているのだから。
歴代のスタイリングを眺めると、ボディ下半分をグレーの樹脂で覆った初代はオフロードの匂いを感じさせたものの、2代目から日本未販売だった4代目までは、オンロードっぽさを強調していった。
しかし、ハンフリーズ氏も「中途半端な存在になっていく恐れがあった」と話したように、急増するライバルの中で埋もれつつあったことは否めない。そこで、5代目で一気に逞しさを強調したところ、ヒットに結びついた。よって新型も、この路線を踏襲したのではないかと考えている。
先代と明らかに違う部分もいくつかある。ひと目でわかるのはフロントマスクで、「クラウン」や「プリウス」などと共通する「ハンマーヘッド」をイメージした「コ」の字型ヘッドランプとバンパー内グリルからなるフェイスを取り入れた。
そのうえで3つのスタイルごとに顔を作り分けているが、ボクシーなフォルムとの対比を考えると、グリル風のブラックパネルを埋め込んだADVENTUREが、もっともまとまりがあると感じた。
逆にリアまわりは、GR SPORTのリアスポイラーが大型化される以外は、3つのスタイルで大きく違いがあるというわけではない。
共通のポイントとしては、上下に薄く左右が連続したコンビランプになるが、これは今のカーデザインのトレンドであり、RAV4もそのトレンドを取り込んだと解釈している。
インテリアはツールっぽい空間に一新
新型のエクステリアで、フロントマスクとともに先代と大きく異なるのが、ボディサイドの後半だ。リアドア付近で駆け上がるキャラクターラインとリアフェンダーの張り出しは、先代でも存在していたが、新型はここを一気に強調した。
実はこれ、ラゲッジスペースと関係がある。新型では実用的な荷室空間の確保を目指し、リアゲートの角度を垂直に近づけ、荷室幅を拡大した。車両サイズはそのままに、容量を従来の733リッターから749リッターに拡大している。
しかし、工夫なしで作ると、箱を背負ったようになってしまう。そこでリアフェンダーを張り出させた。ハンフリーズ氏もプレゼンテーションで、「荷室を広くすると平板に見えてしまうので、リアの張り出しを強調するアイデアを出した」と説明していた。
インテリアデザインはエクステリアとは対照的に、大きく変わった。先代のインテリアは乗用車らしいエレガンスを残したものだったが、新型ではエクステリア以上にツールっぽい造形になった。
インパネは水平のラインを強調しており、センターディスプレイだけでなくメーターも角形として、センターコンソールやドアのアームレストも意図的に段差を設けたりして、オフロードカーらしい力強さを表現している。
前方視界についても触れておきたい。新型はインパネ上面の高さをこれまでより約40mm低く設計したそうで、たしかに見晴らしが良くなったからだ。これはオフロードでも重宝するだろう。
面白いのは、センターパネルのドライブモードの切り替えスイッチを左右から飛び出すように配置したこと。ドライバーから手が届きやすいだけでなく、視覚的なわかりやすさもあって、好感の持てるディテールだった。
新型RAV4はハイブリッド車とプラグインハイブリッド車が用意される予定で、現状では純粋なエンジン車は設定されないようだ。よってマニュアルトランスミッションは存在しないが、ドライブセレクターは2種類あった。
唯一の左ハンドルだったADVENTUREが大きめのノブを持つ機械式だったのに対して、残る2台は最新の「ミニ」を思わせる小さなトグルスイッチとなっていた。ワールドカーということもあって、車種だけでなく仕向地によっても使い分けるのかもしれない。