ホンダが「プレリュード」を復活させる。1980年代には「デートカー」と呼ばれて注目を集め、2001年に販売終了となっていたプレリュードは、どんな新型車として生まれ変わるのか。2025年秋の発売を前に内外装の事前撮影会があったので、じっくりと見てきた。
エクステリアは歴代プレリュードとはひと味違う雰囲気に。インテリアは今回が初公開だ。
プレリュードを復活させる気はなかった?
ホンダ「プレリュード」は「アコード」をベースとしたスペシャルティカーとして1978年に初代がデビューしたが、当時の「シビック」に似たスタイリングとボディサイズであり、あまり注目を集めなかった。ところが、4年後に送り出された2代目は、若者を中心に多くのユーザーから人気を博した。
ボディは1.3m未満の全高はほぼそのままに、全長と全幅を大幅に拡大することでワイド&ローを強調。新開発のダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションを投入することで、ノーズは前輪駆動車とは思えないほど低くなり、ホンダ初のリトラクタブル式ヘッドランプが与えられた。
それでいて、独立したトランクを備えたトラディショナルなクーペスタイルであり、インテリアを含めて落ち着いた雰囲気でまとめられていた。これが、大人っぽい装いに憧れていた当時の若者に受けて、「デートカー」と呼ばれるまでになった。
次の世代はキープコンセプトだったものの、4代目は北米市場を重視して、ダイナミックなスタイリングの3ナンバーに変貌。5代目で原点回帰を目指したものの、社会状況の変化もあって2001年に販売を終了した。
なので、2023年の「ジャパンモビリティショー」でコンセプトカーが初登場した今回のプレリュードは6代目ということになる。
エクステリアデザインは、ショーに展示されたものと基本的に同じだ。ヒットした2/3代目とはかなり雰囲気が違うが、事前撮影会でエンジニアに聞くと、理由が分かった。そもそも当初は、プレリュードを復活させようというプロジェクトではなかったのだ。
戦闘機ではなくグライダーを目指した?
世界的に2ドアのスポーツモデルが少なくなり、ホンダでも「NSX」や「S660」が販売終了となる中、販売台数を気にせず、操る喜びが味わえるクルマを作らなければいけないという気持ちから、同プロジェクトは始まったそうだ。目指したのは「戦闘機」のような尖ったモデルではなく、気持ちよさやときめきを感じるようなスポーツカーだ。
そこで思いついたのが「グライダー」だった。そこから「UNLIMITED GLIDE」というグランドコンセプトを決めていく過程で、プレリュードの名前を起用することになったそうだ。
そんな経緯もあって、開発ではヘリテージ性にとらわれすぎないよう気をつけたという。想定ユーザーも、若い頃に2代目や3代目に憧れた層よりも、親子で服をシェアするような人たちを想定。世代を超えて共感できるモデルを目指した。
エクステリアデザインのコンセプトは「GLIDING CROSS STANCE」で、グライダーの高揚感をイメージしたとのこと。戦闘機っぽくなく、華美でもない、機能の進化を感じさせるフォルムを追求した。
かつてのプレリュードのアイデンティティだった低いノーズは、現在は歩行者保護などの要件があるので実現が難しくなっているものの、実車を見ると、伸びやかなフォルムを実現していると感じた。
キャビンまわりでは、フロントウインドーを立ち気味として、リアに向けてスムーズに流していくシルエットが目につく。これはグライダーの機体をイメージしたもので、前後とも寝かせるより勢いが出る造形になるということだ。
ボディサイドはクリーンな印象。はっきりとしたキャラクターラインは、サイドシルにあるだけだ。ただしその中に、ノーズからリアデッキに向けて駆け上がるラインと、後輪からノーズに向けて伸びるラインがX字型に隠されている。この2つの流れによって、ダイナミックな雰囲気をプラスしたそうだ。
フロントマスクとリアエンドは、どちらも一文字のグラフィックとすることでワイド感を演出した。加えて前後フェンダーの張り出しを強調し、かつてのプレリュードの特徴だったワイド&ローの安定したスタンスを表現している。リア中央の筆記体のロゴは、4代目のそれを思わせるものだ。
インテリアの随所に「らしさ」を発見
「GLIDING COCKPIT」をコンセプトとしたインテリアは、ブラックのベースにブルーとホワイトを織り交ぜた、最近のクルマではあまり見られないコーディネートに目を奪われた。青い空を滑空する白いグライダーをイメージしたものだ。
ちなみにブルーはエクステリアでも、フロントのアンダーグリル中央のアクセントやブレーキキャリパーに起用している。スポーツカー=赤というイメージが強い中で、この色使いは新鮮だ。
水平基調で低めのインパネは、かつてのプレリュードのイメージと合致。助手席側にはリアエンドと同じ筆記体のロゴが入っている。シビックやアコードでは全幅にわたっていたメッシュのアクセントはエアコンルーバー部分のみとして、上質に見せようという配慮も伝わってくる。
縦長のヘッドレストを組み込んだハイバックタイプの前席は、ダークブルーとホワイトのコントラストにまず目を奪われるが、よく見ると運転席と助手席で形状が少し違うことにも気づく。
運転席はホールド性を重視して、サイドサポートの部分を高くしてワイヤーを内蔵したりしたのに対し、助手席は乗り降りや乗り心地を大切にした結果、ふっかりした形状としたという。ファブリックの部分には一部に千鳥格子も入れて、クラシックとモダンの融合を狙っている。
後席は見た目でもわかるようにプラス2の空間。その後ろの荷室は、プレリュードとしては初めてハッチゲートでアクセスすることになった。剛性を取るか機能を取るかは議論があったそうだが、多用途性にも配慮してハッチバックを選んだそうだ。
グライダーイメージのエクステリアと比べると、インテリアにはかつてのプレリュードを思わせるディテールがいくつもあった。名前をよみがえらせつつ、新たな価値を提供する。過去と未来の絶妙な融合に感心した。