カスタマー・ハラスメント(カスハラ)が、企業経営に深刻な影響を与える社会問題となっています。大手企業を中心にカスハラのガイドラインを公表する動きが広がり、厚生労働省もカスハラ行為の定義や防止対策を企業に義務付ける方針を公表するなど、官民一体での取り組みが進んでいます。
本連載では、カスハラの基礎知識から、最前線のAI技術を活用した対策までを詳しく解説します。前回の記事では、企業に求められるカスハラ対策やAI活用の可能性について紹介しました。今回は、カスハラの未然防止やエスカレートするのを防ぐために従業員に求められる対応スキルについて深く掘り下げて解説します。
AIの活用が進むことで、一部の問い合わせやカスハラ対応の負担を軽減することは可能ですが、最終的に顧客と直接対峙するのは従業員です。そのため、従業員の対応スキルは依然として重要であり、その質が企業の評判や顧客満足度にも大きく影響します。適切な対応スキルを身につけることで、カスハラの被害を最小限に抑え、顧客との円滑な関係を築き、ひいては企業のブランド価値を守ることにつながります。
カスハラが発生する要因を理解する
カスハラが発生する要因は大きく二つに分けられます。一つは顧客に起因するもの、もう一つは従業員の対応に起因してカスハラに発展してしまう場合です。
顧客に起因するパターンとしては、顧客の過剰な期待、社会的背景によるストレス、そしてSNSの普及等による発信力の増大などが考えられます。
一方、従業員の対応が起因となるパターンとしては、従業員の対応力不足や、企業文化や方針により顧客に寄り添った対応を行うことが難しい場合などがあげられます。従業員の対応力不足に起因するカスハラについては、従業員の対応力を向上させることで軽減できると考えられます。
AI時代に従業員に求められるカスハラ対応力とは?
- エスカレーションスキル
従業員が対応が困難な状況に直面した際、上司や専門部署に迅速に相談し、適切な判断を得ることで、トラブルの深刻化を防げます。また、ヘルプサインや録音機能等、従業員保護につながるツールも併用すると従業員の安心感が向上し、冷静さを失うことなくカスハラに対応できます。
- 共感力
顧客の不満に共感し、誠実に対応することで、トラブルの悪化を防ぎます。顧客に「自分の意見を理解してくれている」と感じてもらうことで、円滑なコミュニケーションを可能にします。
- 交渉力
カスハラが発生した場合、感情的にならず、冷静かつ公平な交渉力が求められます。相手の要求を正確に把握し、論理的に説明し、双方が納得できる解決策を模索するスキルが必要です。例えば、従業員が交渉できるように、「~万円以内であれば自己判断で補償対応しても良い」などの基準を明確に設けることがあげられます。
- 期待値調整
顧客にサービス内容、料金、提供範囲などを事前に明確に伝えて過度な期待を抑制し、後々のトラブルを防止します。曖昧な表現を避け、具体的な情報を提供することで、顧客の期待値を適切に管理し、信頼関係を築き、トラブルにつながる不満や誤解を減らせます。
- ストレスマネジメント
心理的な負担を軽減し、健全なメンタルヘルスを維持するためには、適切なストレス管理が不可欠です。十分な休息を取り、趣味や運動でリフレッシュするなど、自分に合ったストレス解消法を見つけることで、長期的に業務を遂行できます。
- 信頼関係構築力
顧客との信頼関係を築くために、丁寧なコミュニケーションと誠実な対応が必要です。一貫した対応や問題解決の姿勢によって、顧客の安心感を高め、結果としてカスハラの発生を抑えられます。
カスハラ対応力を伸ばす方法
従業員が上記の対応力を伸ばし、カスハラを抑制するためには、企業側がカスハラ分析に基づいたマニュアル作成や研修内容の見直しを行うことが不可欠です。具体的な研修内容としては、下記があげられます。
- 傾聴トレーニング
コミュニケーションスキル向上のため、アクティブリスニングの技術練習を行う。
- ロールプレイング
実際の顧客とのやり取りをシミュレーションするため、ロールプレイングを行う。
- フィードバックセッション
自身のパフォーマンスについてフィードバックを受け、強みや改善点を特定する。
- メンタルヘルス研修
やり取り中に冷静さを保つためのストレス管理技術を学ぶ。
このような研修を通じた従業員のカスハラ対応力向上に加え、企業側がヘルプサイン機能、録音機能、文字起こし機能などの防護ツールを導入することで、従業員の安心感を高め、より安全な接客環境を構築できます。
次回は、AIを活用したカスハラ分析の手法とその活用方法について、解説します。