ホンダが2025年9月に発売する予定の新型車「プレリュード」とは、どんなクルマなのか。ハイブリッド車(HV)と聞くとエコカーのイメージだが、クルマの紹介文には「スペシャリティスポーツ」とあって、いまいち実態がつかめない。開発責任者に聞いてみた。
新型プレリュードにノスタルジーあり?
ホンダが初代「プレリュード」を発売したのは1978年のこと。今回の新型は6世代目となるのだが、5世代目が販売終了となってから約25年が経過しているので、この車名になじみのない人も多いはずだ。
新型プレリュードは過去のプレリュードを知る人たちのために作った、ノスタルジー満載のクルマなのだろうか。過去のプレリュードを知らない人たちは、もしかすると相手にしていない? 開発責任者の山上智行さんに聞いた。
「そんなことはなくて、過去のプレリュードを知らないという若い方にも、ぜひ乗ってもらいたいと思っています。プレリュードっていい響きだな、と思っていただける方もいらっしゃるでしょうし、今はデジタル社会なので、スマホで調べて昔のプレリュードをご存じの方もいらっしゃると思います。実は、親御さんが乗っていたプレリュードを直しながら乗っている若い方もいらっしゃるんですよ」
ベースはシビックタイプR?
新型プレリュードは「いろいろなものを組み合わせて」作ったクルマだそうだが、基本的にエンジンは「シビック」のHV、シャシーなど土台の部分は「シビック タイプR」をベースとしているという。走りに関するソフトウェアは、プレリュード専用にチューニングした。
ハイブリッドシステムはシビックのHVと全く同じものではなく、シビックのHVが出て以降に獲得した技術開発の結果を盛り込んでいるとのこと。ちなみに、ホンダは「ビジネスアップデート2025」で次世代のハイブリッドシステムを開発・投入すると発表済みだが、新型プレリュードが搭載するのは次世代のハイブリッドシステムではない。
なので、プレリュードの中身はシビックと同世代のハイブリッドシステムではあるものの、シビックと全く同じではなく、この間の進化を取り入れたシステムとなっている、ということになる。
プレリュードはスポーツカーであるものの、ハイブリッドカーなので燃費は良好だという。すでに試験走行を繰り返しているという山上さんも、「こんなに、ガソリンが少なくていいんだ」と感じるほどだそうだ。スポーツカーの走りが楽しめるのに燃費は良好。そんなクルマに仕上がっているとすれば、かなり魅力的だ。
「S+」モードでエンジンが覚醒?
新型プレリュードには「S+」「スポーツ」「GT」「コンフォート」というドライブモードがある。ドライブモードは基本的に、センターコンソールのスイッチを上下に操作して変更するが、S+にのみ、専用のボタンが付いている。
S+にするとどうなるのか。山上さんによれば「パワーユニットが変わったような」感覚を味わえるそうだ。例えばメーターは「タコメーター」付きの表示に変わり、それまで鳴りを潜めていたエンジンは存在を主張し始める。S+のボタンは「パワーユニットを載せ換える」ような働きをするので、このモードでは「エンジンの鼓動を感じ」て、「五感でクルマを操って」くださいというのが山上さんのメッセージだ。
ホンダのハイブリッドシステムである「e:HEV」では、エンジンは基本的に発電の役割を担う。タイヤを回すのは主にモーターだ。なので、エンジンを必ずしもアクセルペダルに連動して回す必要はないわけだが、踏んでも回らない、あるいは踏んでいないのに回るクルマというのは気持ちが悪いし、逆に、アクセルの操作とエンジンの動きがリニアにシンクロすれば気持ちがいい。プレリュードのS+ではクルマのリニアな反応が存分に楽しめるので、「クルマと向き合い、対話できる」(山上さん)とのことだった。
乗り心地はどう作り込んだのか
スポーツカーといえば一般的に足回りが硬く、乗り心地としては路面の凹凸を敏感に拾ってゴツゴツするのが定番だが、新型プレリュードは乗り心地がいいクルマだ。テスト走行を行ったF1ドライバーの角田裕毅さんがそう証言していたので、間違いない。テスト走行の模様はオフィシャル動画で確認できる。
新型プレリュードのドライブモードでは、普通のクルマであれば「ノーマル」とするところをあえて「GT」としている。GTはグランドツーリング、つまり、長距離のドライブ旅行を快適にこなせるというイメージだ。
旅行に出かける場合、助手席に座る人のことを考えると、乗り心地が良好であることは必須となる。新型プレリュードでは前席のシートを作り分け、運転席はスポーツ走行に適したホールド感、助手席はほどよく包み込まれるような快適さを追求したという。
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新型「プレリュード」にはシートの位置や傾きを電動で調整できる「パワーシート」の機能が付いていない。荷室にアクセスするリアのハッチゲートも開閉は手動だ。理由は、このあたりを電動にするとクルマが重くなってしまうため。クルマの俊敏な動きを実現するためには軽く作ることが重要だった
実際のところ、売れるのか!
こだわり満載の新型プレリュードだが、気になるのは売れるかどうかだ。そもそも、2ドアクーペは数がどんどん減っている絶滅危惧種。その分野に登場する新型車なので、心配にもなる。そのあたりについて率直に聞いてみると山上さんは、「(たくさんは)売れないと思います」と切り出し、こう続けた。
「ただ、喜んでいただける方は、間違いなくいると思います。いろいろな方に振り向いてもらえるのではないでしょうか。『ニーズ』を調べれば『絶対にない』んですけど、お客様の心の中をのぞきこめば『絶対にある』。そういうクルマです」