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ルンバの社長に聞く、人と組織の成長 -「好きなこと」「得意なこと」「社会に価値のあること」の交点

Updated MAY. 30, 2025 14:59
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市場の成長も、人の成長も、いろいろな段階が同時に進む

―― 先ほど“子どもを育てるような気持ちで”というお話がありましたが、それを聞いて人材育成の話にもつながると感じました。ルンバが日本で成長してきた過程と、新入社員が一人前になっていく過程には、どこか共通点があるように思います。成長していくうえで、大切なポイントは何だと思いますか?

挽野:そうですね。子育てでも、たとえば0歳~3歳、3歳~10歳、そして10代〜20代と段階があるように、企業や製品の成長もステージごとに求められる力が変わってくるんです。

当社の初期メンバーは「0歳〜3歳」にあたる時期を得意とする人が多くて、何もないところから市場や仕組みを立ち上げていく能力に長けた人たちです。私がアイロボットジャパンに来たときには、すでにある程度市場が育ってきていて、「3歳〜10歳、15歳に育てる」――、つまり、さらに市場を広げていく段階でした。そこでは販売チャネルの整備やオンライン強化、サプライチェーンの最適化など、よりシステマティックな運営が求められるようになります。

そういった部分は、社外から加わったメンバーが持つ専門性が生きてきます。ただし情熱も非常に大事なので、創業期からのメンバーの想いと、新しく加わったメンバーのスキルをうまく融合させていくことが重要なんです。私たちは「共に作る」という姿勢を大切にしています。これは創業者のコリン・アングルもずっと言い続けていることですし、私自身もとても共感している考え方です。

たとえば「0歳~3歳」を見ている人も、「15歳」を育てるプロセスから学べることはたくさんあるんですよ。質問に戻りますが、人の成長も市場の成長も、直線的ではなく、いろんな段階が同時並行で進んでいるというイメージを持つことが、ポイントかもしれません。

―― ロボット掃除機の市場を広げる取り組みとして、長期・短期のサブスクリプション事業や、ふるさと納税への返礼品としてルンバを提供するなど、新たな取り組みにも次々と挑戦していますね。

挽野:アイロボットはとてもフラットな組織だと思います。社員の数もそれほど多くないので、現場の声や若手の声がすぐ経営に届きますし、「やってみたい」と思ったことは基本的に否定せずに挑戦してもらう方針です。

実際、「ロボットスマートプラン+」(編注:アイロボット製品のサブスクリプション)の取り組みや、ふるさと納税への提供、花王さんの「マジックリン」とのコラボレーションも、すべて現場からのアイデアがきっかけです。「面白そうだからやってみよう」「ダメだったら別のことを考えよう」くらいのスタンスで、とにかく前向きにチャレンジしていく文化が根付いています。

  • ルンバの公式整備済リユース品を、千葉県東金(とうがね)市のふるさと納税返礼品として提供

挽野社長が海外赴任で痛感した、文化や思考プロセスの違い

―― フラットな組織を作るうえで、上司の人柄も重要だと思います。そこで今までのキャリアについてお伺いしたいのですが、アイロボットジャパンの社長に就任するまでの過程で、ターニングポイントとなった出来事や、自分がワンランク上にステップアップするためのきっかけを教えてください。

挽野:一番のターニングポイントは、日本ヒューレット・パッカードに入社して4年目に、フランスに赴任したことです。ちょうどWindows 95の登場でパソコン市場が急成長している時期でした。フランスのグルノーブルにあるHP(ヒューレット・パッカード)のグローバル事業拠点で、世界中から集まったメンバーと一緒に仕事をすることになりました。

初めての海外赴任だったので、言葉や文化の違いに苦労しましたね。特に、日本と異なる文化の中で働くことは大きな経験でした。たとえばオランダ人の同僚は、仕事の進め方で日本的な「イエスでもノーでもない中間の答え」では通じず、白黒をはっきりつけたがるんです。思考のプロセスが違うんですよね。さらに同じ欧州でも、オランダとフランスとドイツでもこの思考プロセスは異なります。苦労はしましたが、異なる国の文化や考え方を理解する重要性を実感し、視野が広がったことが自分の大きな成長につながったと思います。

  • 初めての海外赴任でさまざまな価値観に触れたことで視野が広がったと話す挽野社長

―― その後、ボーズ(BOSE)の社長を経て、アイロボットジャパンの代表執行役員社長に就任されます。当時を振り返ってみて、やってよかったことや、逆にこれはやっておけばよかったなと思うことはありますか?

挽野:私はアイロボットジャパンに中途で入社した立場だったので、ルンバの歴史や文脈を知らない部分がありました。ただ、その「知らないこと」自体が価値になることもあります。製品に深く関わってきた人は熱量が高く、それを知らない人との間に温度差があります。そういった温度差をどう融合させるかを常に意識していました。

就任した2017年当時は、まだロボット掃除機を使ったことがない一般消費者も多く、その人たちにどう価値を伝えるかが課題でした。熱量が高すぎても引かれてしまうことがあるため、私はフラットな視点を意識して、お客さまの気持ちに寄り添いながら伝えるように心がけていました。

ゼロから市場を立ち上げる段階では強い情熱が重要ですが、拡大するフェーズでは、価格設定やサポート、需要創出の工夫など、もう少し戦略的なアプローチが必要になります。だからこそ、情熱と冷静さ、そのバランスが大事だと感じています。

アイロボット入社当時、失敗とまでは言いませんが、学びとして印象に残っているのは「合理性と感情のバランス」の重要性です。外部から入った優秀なスペシャリストたちが、合理的に正しいことを推し進めすぎると、もともと大切にされてきた価値観を壊してしまうことがあります。組織がうまく機能するには、合理性だけでなく「情緒性」も大事。その両方を理解し受容し合う「受容力」が必要です。

―― 組織の中で「受容力」はどうやって育まれていくのでしょうか。

挽野:採用の段階で会社のミッション・ビジョンに共感できるかを重視し、HR(Human Resource:人的資源)チームと連携して価値観の一致を確認するようにしています。さらに、社員同士の相互理解を深めるためにメンター制度も導入し、特に人数が多い営業本部の中堅層が他部署のメンターとして関わっています。同じ部署同士だと仕事が同じなので業務の延長になりがちですが、他部署だと物の見方が広がりお互い「気づき」があり、それが「受容力」を育むきっかけとなっています。


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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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