メンタルは、"気の持ちよう"だけでは強くならない。大切なのは、「視点」と「行動」をどう変えるか――。この記事では、誰でも、いつからでも実践できる"メンタル強化の習慣"を、公認心理士・臨床心理士の松島雅美がやさしく解説する『メンタル強めになる習慣』(フォレスト出版)から一部を抜粋して紹介します。
今回のテーマは「メンタルの状態を決めるのは“心“ではなく“脳“」
メンタルの状態を決めるのは“心“ではなく“脳“
“心の病““心療内科“という言葉があるように、メンタルの不調は“心“に起因していると思われがちです。
そもそも"心"はどこにあるのでしょうか。
日本人の私たちは、気持ちを表現するときに、“胸“という言葉をよく使います。
◎つらいときや悲しいとき=「胸が痛い」「胸が苦しい」「胸が張り裂けそう」
◎喜びや期待があるとき=「胸が高鳴る」「胸が躍る」「胸がいっぱいになる」
◎緊張や不安を感じるとき=「胸がドキドキする」「胸がザワザワする」
さらには、胸をさすったり、胸の前で手を合わせたりして気持ちを表現することもあります。
実際、緊張すると心拍数が上がって胸がドキドキすることはあります。でも、それは"心"が胸にあるからなのでしょうか? 胸のあたりにある臓器といえば心臓や肺ですが、それらがメンタルをコントロールしているのでしょうか?
実は、メンタルの状態をつくっているのは、“心”や“胸”ではありません。”脳”です。
人間はすべての行動を脳から指示されています。
快や不快を感じているのも脳。
そのため、メンタルの調子が悪いというのは、脳の調子が悪いということなのです。
日本では、“心“と言うと、胸のあたりを指すことが多いのですが、欧米では"心"に相当するものを“脳“だと考え、頭を指すことが一般的です。
この違いが、日本と欧米のメンタルに対する捉え方の違いを表しています。
このことからも、日本のメンタルについての考え方は、子どもたちの教育から見直す必要があるように思います。
感情をコントロールする中心は前頭前野
脳の中でも、感情コントロールの要となっているのが「前頭前野」です。
実際に、前頭前野の機能が低下すると、快・不快を感じる「扁桃体」という部分が不快を感じやすくなるという研究結果も発表されています(Arnsten,2009)。
頭の前方にある前頭前野は、“脳の最高司令塔”とも言われます。
感情をコントロールするだけでなく、意欲や発想力、判断力をはじめ、記憶力や思考力、コミュニケーションなど、社会生活に欠かせない働きを担っています。
前頭前野が機能していることで、私たちは日常生活で適切に判断し、行動し、対人関係を築くことができるのです。
たとえば、仕事でお客様に理不尽なことを言われて怒りの感情が湧き上がったとします。
しかし、そのまま怒りをぶつけてしまう人は少ないでしょう。
怒りが込み上げても、「お客様に対して感情的に反応するわけにはいかない」「ここで言い争いをしてしまうと、その後の仕事に支障が出るかもしれない」といった考えが瞬時に思い浮かぶからです。
そして、怒りを抑えつつ、適切なコミュニケーションを考え、行動に移します。
この一連の冷静な判断と行動は、まさに前頭前野の働きによるものです。
しかし、ときには感情を抑えきれず怒りを相手にぶつけてしまったり、些細なことでイライラしたり、なぜかいつも以上に感傷的になって涙がポロポロ流れたりするようなこともあります。
このようにいつもより感情がコントロールできないときは、前頭前野がうまく働いていない可能性があります。
私たちの身体は、いつも調子がいいわけではありません。
風邪をひいたり、お腹を壊したり、身体がだるかったり、さまざまな不調に見舞われます。
脳も同様です。調子がいいときも悪いときもあるのです。
また、体調が悪いと、前頭前野の調子にも影響を与えます。
前頭前野がしっかり働いていれば、そのときに適した判断や行動を取りやすくなります。
しかし、前頭前野の調子が悪ければ、感情をそのまま表に出してしまったり、冷静な判断ができなくなったりすることがあります。
もっと言えば、前頭前野の働きの波が大きければ、情緒不安定になりやすくなり、安定していれば情緒も安定しやすくなります。
前頭前野の働きが落ちているときは、まず休める
前頭前野がメンタルをすべてコントロールしているわけではありませんが、メンタル強めの土台となる重要な役割を担っています。
前頭前野はトレーニングを通じて、働きを向上させ、調子を整えることができます。
疲労感や緊張感があるときでも、感情をコントロールしやすくなるのです。
前頭前野が疲れていると感じたら、まず"脳を休ませる"ことを意識してみてください。
- いつもの仕事が思うように進まない。
- いつもは気にならないことにイライラしてしまう。
- 理由もないのに、とめどもなく悲しくて仕方がない。
そんなとき、それは気合いや努力だけで解決できる問題ではなく、前頭前野が疲れているサインかもしれません。
まずは、リラックスして休み、前頭前野を回復させることが大切です。
『メンタル強めになる習慣』(松島雅美/フォレスト出版)
「根性」や「ポジティブ思考」だけに頼らず、“ものの見方”や“日々の選択の仕方”を少し変えることで、自然にメンタルは強くなる。『メンタル強めになる習慣』では、支援現場で積み重ねてきた経験と、科学的根拠に基づいたシンプルで実践しやすい方法を紹介しています。ストレスや不安が強いときには、前向きに考えようとしてもうまくいかず、かえって自分を追い詰めてしまうことがあります。これは心理学や脳科学の先行研究からも明らかになっています。本書では、オリンピアンなどのアスリートや都内私立高校の必修科目としても導入されている「メンタルビジョントレーニング(R)」を、視覚機能に着目した、誰でもすぐに実践できるトレーニング法として紹介しています。