A4/S4がフルモデルチェンジを機に「A5/S5」へと名前を変更したが、当然ながら変わったのは名前だけではないはず。中身はどう進化したのか、横浜で試した。
4から5に名前を変えた理由
「4」から「5」への改名は、2024年にアウディが打ち出したルールにのっとった動きだ。現在は車名に偶数が付くモデルは「電動車」、奇数が付くモデルは「内燃エンジン搭載車」という分け方で車名を付けている。
新しくなった「A5」にはセダンの「A5」とステーションワゴンの「A5アバント」という2つのスタイルがある。その高性能版が「S5/S5アバント」だ。
内燃機関搭載車用の新世代プラットフォーム「PPC」(プレミアムプラットフォームコンバッション)を初採用したボディは、全長4,835mm、全幅1,860mm、全高1,455mm(アバントは1,470mm、スポーツサス装着車は-20mm)、ホイールベースは2,895mm。いわゆる「Dセグメント」の上限(というか少し超えている)といえる大きさだ。年々のボディサイズ拡大路線は変わっておらず、先代よりさらに大きくなってホイールベースも70mm伸びている。
A5が搭載するパワートレインは2.0L直列4気筒直噴ガソリンターボTFSIエンジンとMHEV plusテクノロジー採用の2.0L直列4気筒直噴ディーゼルターボTDIエンジン(マイルドハイブリッド車)の2種類。ガソリンエンジンは性能違いで最高出力110kW(150PS)/最大トルク280Nmと150kW(204PS)/340Nmの2種類をそろえる。ディーゼルは150kW(204PS)/400Nmだ。
TFSIエンジンには「VTG」と呼ぶ可変タービンジオメトリー付きのターボチャージャーを搭載。低回転域でもトルクが一貫した俊敏な立ち上がりを可能にするとともに、改良型燃焼プロセスを採用して燃費を改善している。
TDIエンジンは「TwinDosing」(ツインドージング)排気ガス制御システムと48VのMHEV plusシステムによって、加速性能や俊敏性がアップ。CO2排出量削減と高い燃焼効率(欧州仕様で20km/Lを実現)を得たという。
150kW仕様のガソリンモデルとTDIモデルにはAWDクラッチ付きのquattro四輪駆動システムを組み合わせる。ただし、TDI仕様の日本導入は少し遅れるそうだ。
高性能版であるS5は270kW(367PS)/550Nmを発生する3.0LのV型6気筒TFSIエンジンを搭載。VTG付きターボチャージャー、48VのMHEV plus、quattro四輪駆動システムを組み合わせる。
モデルチェンジで最大の収穫は外見?
新型A5のエクステリアで最も気に入ったのが、縦置きエンジンの長いボンネットと短いリアのオーバーハングを組み合わせたロングノーズ、ショートデッキのシルエットだ。横浜の埠頭に並んだセダンとアバントを真横から見てみると、Aピラーの根元がわずかに後ろ寄りから立ち上がることで、キャビンがより後方に取り付けられたようなプロポーションになっている。ベースがFF車らしく見えた従来のA4に比べて、A5はFR車っぽいイメージが強まった。モデルチェンジで最もよくなったのは「外見」だと言えなくもない。
ちなみにセダンは、通常のトランクを持つ3ボックスではなく、なだらかなルーフラインを持つ電動のリアハッチゲートを備えたハッチバックモデルだ。アバントも同様で、後ろに向かって弧を描くルーフラインによってグリーンハウスがコンパクトに見える造形になっている。ドイツ御三家のステーションワゴンの中で、最もスポーティーなスタイルを獲得したといっていいだろう。
インテリアはアウディが「デジタルステージ」と呼ぶ先進的なスタイルを採用。11.9インチの「バーチャルコックピットプラス」と14.5インチのMMIタッチディスプレイを1枚にまとめた湾曲パネルと助手席用10.9インチMMIパッセンジャーディスプレイ(オプション)がダッシュボードの左右いっぱいまで広がる姿は圧巻だ。買えば「新しい世代のクルマを手に入れた」という実感がわいてくることだろう。
実は筆者は、2024年にアウディがスペインで開催した「Q6」(電気自動車)の試乗会で一足早く「デジタルステージ」を体験している。当時はQ6がA5/S5よりも早く日本に入ってくると伝えられていたのだが、諸般の事情(電気よりエンジン車を優先した?)があり、こっちが先になったようだ。
デジタルといえば、A5シリーズはアウディお得意のデジタルライトを採用している。フロントにはLED技術を用いたダイナミックターンインディケーター付きマトリクスLEDヘッドライトと8パターンから選択可能なデジタルデイタイムランニングライトを装備。今回の試乗車となったS5アバントでは、1ユニットあたり364個のLEDが1秒間に数度の画像を表示することで8パターンの表示ができる第2世代のOLEDリアライトが標準装備となっている。
見た目に負けない走り味? S5アバントに試乗
試乗したのは高性能版のS5アバントだ。Bピラーの根元に「Audi S5 Avant TFSI quattro」のロゴが誇らしげに描かれたレッドのアバントボディは、横浜の海にもよく映える。
天気が良かったので、A5で初採用のポリマー分散液晶(PDLC)フィルムを用いた「スマートパノラマガラスサンルーフ」の模様を色々と試しながらアクセルを踏み込めば、300PSオーバーのV6エンジンが軽々と回ってくれて、低く精悍なワゴンボディを気持ちよくスピードに乗せてくれる。MEV plusとVGTターボのおかげで、アクセルレスポンスがすこぶるいいのに感心する。
さらにすばらしいのがステアリングの正確性だ。これまでは10個以上の小さなコンピューターが各部を細々と制御していたのに対し、PPCを採用したA5は高性能で大きな5個のコンピューターで制御できるようになった。ステアリングから伝わってくる情報量が一気に増えたことで、思い通りのポイントにすばやくタイヤを持っていくことができるのだ。
高い速度域での走りに重点を置くのは欧州車の特徴。S5アバントも例に漏れず、すばらしい走りを披露してくれた。その一方で、ゴー・ストップの多い日本で走らせてみると、発進や停止直前にちょっとギクシャクする「Sトロニック」のくせ(年々改良されてきてはいるが)や、停車時に「Comfort」から「Dynamic」にモード変更した時に「ブルン」とお尻を揺らしてエンジンが始動する感じなどは、センシティブなドライバーなら気にされる方がいらっしゃるかもしれない。この2つだけがちょっと気になった。
電動化一直線だったアウディが久しぶりに登場させたエンジンモデル。街中にあふれていてちょっと新鮮味にかけるあのモデルや、顔のデザインにちょっとエグ過ぎ感があるあのモデルに対して、正攻法のこだわりで仕上げたのがアウディのA5/S5だ。オススメです。