トヨタ自動車がついに発売する「クラウンエステート」に一足早く乗ることができた。プラグインハイブリッドとハイブリッドの乗り味の違いは? トヨタ初となる「“拡張型”完全フルフラットデッキ」の“寝心地”は? 実物をじっくり確認してきた。
おそらく最速! サーキットで試乗
「クロスオーバー」「スポーツ」「セダン」「エステート」の4兄弟で発表となったトヨタの新型クラウン(16代目)。2022年のクロスオーバーを皮切りにセダンまでは順次デビューを果たしてきたが、なぜかエステートだけは姿は拝めてもなかなか発売に至らず、「これが欲しい!」と思っていたユーザーをちょっとヤキモキさせてきた。
そんなエステートが3月13日、やっと世に出ることが決まった。多分、この原稿のアップ時には詳細な発表が行われているはずだ。
今回は、正式デビュー直前のクラウンエステートに「富士スピードウェイ」のショートコースで乗る機会を得たので、その走りとユーティリティをじっくり確かめてきた。参加メディアの数が限られていたようなので、貴重かつ最速の試乗記になるのでは、と思っている。
パワートレインは2種類、どう違う?
試乗車のパワートレインはプラグインハイブリッド(PHEV)と(ストロング)ハイブリッド(HEV)の2種類。試乗日に詳細は語られなかったものの、その形状から「クラウンスポーツ」と同じ自然吸気2.5L直列4気筒ガソリンエンジンをベースとしたものと思われる。
ボディカラー「マッシブグレー」のPHEVは、最高出力130kW(177PS)/最大トルク219Nmのエンジンにフロント134kW(182PS)/270Nm、リア40kW(54PS)/121Nmのモーターという組み合わせ。システム最大出力は225kW(306PS)だ。駆動方式はFFベースの「E-Four」(4WD)だった。
ボディカラー「プレシャスブロンズ」のHEVは、137kW(186PS)/221Nmのエンジンにフロント88kW(119.6PS)/202Nm、リア40kW(54PS)/121Nmのモーターを組み合わせてシステム最大172kW(234PS)を発揮。同じくFFベースのE-Fourだ。数値はクラウンスポーツの「RS」と「Z」グレードを参考にした。
これを搭載するボディは全長4,930mm、全幅1,880mm、全高1,620mm、ホイールベース2,850mmの5人乗り。長さはクロスオーバーと同じながら、幅は40mm広くてスポーツと同じだ。高さは4兄弟で最も高い。いわゆるステーションワゴンとSUVの両方を兼ね備えたサイズ感だ。開発コンセプトは「大人のアクティブキャビン」。機能的でありながらも上質さや洗練、余裕を忘れないクラウンらしいクルマに仕上がっている。
ボディ同色でグラデーションのあるフロントグリルの力強さやワイド感、後方にまっすぐに伸びた水平基調のボディは、まさに開発コンセプトを体現したかのようなシルエット。ショートホイールベースの「スポーツ」と並べてみると、実用性と居住性がエステートの売りであることがよくわかる
サーキットで2台の走りを確認!
まずは豪華版のPHEVモデルから試乗をスタート。なぜ豪華かというと、「CUSTOM」「SPORT」「NORMAL」「ECO」というドライブモードの選択肢に、今までセダンしか搭載していなかった「REAR CONFORT」(リアコンフォート)モードが追加してあったからだ。これは、リアの足回りに「DRS」(ダイナミックリアステアリング=後輪操舵)だけでなく、後席の乗り心地を左右する「AVS」(電子制御可変ショックアブソーバー)が奢られている証拠。しっかりとお金がかかっている。
当日は朝7時、気温0度という気象条件だったので、ショートコースの路面は冷え切っていた。大きなボディなので、まずは慎重に「NORMAL」の「EV」モード(EV/HVとオート/チャージのモード切り替えボタンが付いている)で1周し、慣れてきたところで「SPORT」に入れてアクセルを踏み込んでみた。
すると、さすがは最大300PSオーバーのパワーで、相当な勢いで大きな体躯を転がし始める。最初のS字を抜けて登った先の左コーナーや、その先の右コーナーを抜けた先にある左コーナーなど、アンダーステアが出て挙動が乱れそうなポイントでも四輪がぴたりと路面をトレースしてくれるので、安心して飛び込むことができる。
120km/hまで加速したストレートエンドでは、大きなレッドキャリパーを備えたフロントブレーキが確実に車速を落としてくれるので、こちらの安定感も抜群だ。
「REAR COMFORT」モードでは乗り心地が良くなるだけでなく、その対価となるような操縦性の悪化が見られず、車体が常にフラットにキープされているような万能感が伝わってきた。235/45R21のミシュラン「e-プライマシー」タイヤもいい仕事をしているようである。
もう1台のHEVはPHEVに比べてパワーも劣るし、足回りもコンベンショナルな仕様になっているので「どうかな?」と思っていたのだが、いざ乗ってみるとさすがクラウン。ロールやピッチングがわずかに増えているのははっきりと体感できるのだが、それを利用して、アクセルとブレーキでボディの動きをコントロールしたり、コーナリングのきっかけを作ったりと、ちょっと腕に覚えのあるドライバーならこっちの方が楽しいのでは、と思えたほど。「NORMAL」モードでのゆったりとした乗り心地は当然ながら満足のいくものだった。
当日、現場に来ていたトヨタ凄腕技能養成部の“匠”片山智之グランドエキスパートにエステートの走りについて聞いてみると、「エステートではまずストレートスタビリティ、80km/h~120km/hの速度域で走る新東名や東名高速道路でズドンとまっすぐ、どっしりと走らせることに一番こだわっています。ただし、それだけだとコーナーやワインディングで曲がらなくなってしまうので、PHEVモデルだとAVSとブレーキ、フロントステアリングとDRS(リアステアリング)をうまく制御することで両立させています。またエステートはパーテーションパネルのないトランクスルー構造なので、リアサスタワーあたりのボディ剛性をしっかりとさせることで対応しています」とのことだ。
自慢の“拡張型”完全フルフラットデッキはトヨタ初!
さて、エステートの最大の特徴といえば、広いキャビンと広大なラゲッジルームを備えていることだ。実際に身長160cmの広報さんにリアシートに座っていただくと、天井だけでなく足元まで余裕しゃくしゃくで、足が組めるほどだった。
このシートを倒せば、全長2mというトヨタ初の「“拡張型”完全フルフラットデッキ」なるラゲッジが出現する。お願いして前出の広報さんにそこに寝転んでもらうと、奥行きにはまだまだ十分な余裕(40cmほど)があるではないか。こりゃなかなかすごい。
エステートの開発を担当した(スポーツも担当)MS統括部製品企画の本間裕二ZS主査に話を聞いてみると、「後席を倒すとフラットな荷室ができますが、そのままだと前席背面との間に空間ができてしまいます。工夫したのは座席背面に取り付けた拡張ボードで、これを広げていただくと全長2mの完全フルフラットな空間ができます。毛並みの細い上質なカーペットを使用しているので、お客様の大切な趣味の道具やアウトドアギア、楽器などを大切に置いて移動できます」という。
さらに、旅先でのくつろぎの空間を演出するため、小型のデッキテーブルとデッキチェアというアイテムを組み込んだ。このあたりも、振り幅の広い新型クラウンだからできた遊び心のある装備といえるだろう。
価格はスポーツより少し上とのこと。PHEVは800万円前後、HEVは600万円前後になるのではないだろうか。今頃は発表で明らかになっているはずだ。すでに3種類が走り出している新型クラウンだけど、「やっぱりエステートが欲しくて、もうちょっと待ってから」というお客さんにやっと届いた朗報。エステートを街で見かけるようになるのが楽しみだ。