都心のタワマン価格が高騰を続ける中、中華圏富裕層の不動産購入の動きが加速しています。彼らはなぜ、どのような目的で、どんな物件を購入しているのか。その実態を、中華圏富裕層に対する国内不動産購入の仲介事業を手掛ける株式会社住吉商事 富永哲銘 社長にうかがいました。
中華圏富裕層が日本の不動産を購入する理由は?
――本日はよろしくお願いします。最初になぜ中華圏富裕層は日本の不動産を購入するか、その理由を教えてください。
中華圏富裕層(中国本土と香港がほぼ半々)が日本の不動産を購入する理由は、大きく2つに分けられます。1つ目は投資目的です。通常の不動産投資と同様に、資産運用目的で利回り重視で購入します。中華圏富裕層の最大の投資先は不動産であり、世界中に投資しています。中国では土地の私有が認められていないこともあり、中華圏富裕層は海外で土地を購入する傾向にあります。
2つ目は居住目的です。いわゆる実需となります。実需は様々であり、実際に居住するケース、ビジネスなどで定期的に日本を訪問する方が物件を購入してホテルの代わりに利用するケース、家族などが長期間居住するケースなどがあります。
――購入の目的は投資用と居住用、どちらが多いのでしょうか
肌感覚ですが、昨年までは圧倒的に投資用の比率が多かったものの、足元の半年から1年では居住用が増えています。投資用の場合、想定利回り3.5~4%程度で購入がなされますが、近年の日本の不動産価格上昇もあり利回りは低下しています。投資需要の後退は、利回りの低下が影響しているのではないでしょうか。
"広い部屋"を求める傾向、都心3区のペントハウスが人気
――どのような物件が中華圏富裕層には人気なのでしょうか
投資用としては一棟ものの商業ビルやオフィスビル、レジデンスビル、高層ビルなどが人気ですが、基本的に利回り重視です。一方、実需で人気があるのは高層マンションなどの最上階の120平米を超える物件、いわゆるペントハウスです。
――120平米を超える物件は居住用としては相当広いと感じますし、価格的にも非常に高いのではないでしょうか?
確かにペントハウスは高いものの、中華圏富裕層には現金で購入できる金額です。また都心3区ではタワーマンションの開発が進み、ペントハウスの物件も相応にあります。そして、ペントハウスはタワーマンションでも通常の部屋のように大量に物件が出回ることもないので、資産価値も維持できます。このため、中華圏富裕層に日本のペントハウスは人気です。
また中華圏富裕層は、本国で300~500平米を超える家に住んでおり、広い部屋を求める傾向にあるため、ペントハウスに対するニーズが高いという側面があります。日本の富裕層が求める物件とはニーズが異なっていますね。
――平均すると何億円程度の物件を購入されるのでしょうか?また金額面以外に重視する点などありますか
物件の価格は3~5億円が多いですね。そしてほとんどが現金で購入されます。ローンでの購入はありません。また金額以外の条件面では、間取り・駅までの距離・築浅など、通常の不動産を選ぶ際と見る部分はそれほど変わりません。
円安で日本の不動産購入が加速
――中華圏富裕層が日本の不動産の購入を積極化させたのはいつ頃からでしょうか?
中華圏富裕層が日本の不動産購入を積極化させたのは2~3年前からです。一番の理由は為替で円安が進んだためです。日本の不動産価格が割安だったことに加えて、コロナ禍後に円安が進み、中華圏富裕層による日本の不動産購入が加速しました。
――中華圏富裕層による日本の不動産購入は当面続くとお考えでしょうか?
為替次第の面が大きいと考えていますが、当面続くのではないでしょうか。日本の不動産価格は上昇しているものの、為替は依然として円安水準にあります。中国国内の景気は今一つの状態ですが、中華圏富裕層が不動産投資を行う際に気にするのは為替です。更に中国人は、価格上昇が続くものを買う傾向にあります。日本の不動産価格は上昇が続いており、その面からも有力な投資先です。
――中華圏富裕層による日本の不動産購入は、日本の不動産価格上昇に影響を与えているとお考えでしょうか?
現在の日本の不動産価格の上昇は、日本人による不動産購入要因が7割、外国人による不動産購入要因が3割と考えています。よって外国人による不動産購入は、日本の不動産価格上昇に一部影響を与えています。
しかし、中華圏富裕層の購入物件は一般的なマンションではありません。タワーマンションの最上階のペントハウスのような物件が中心です。一般的な物件については、中華圏富裕層の不動産購入は不動産価格にそれ程影響を与えていないのではないでしょうか。
日本の不動産購入、向こう3年は続く見通し
――中華圏富裕層の日本における不動産購入は、いつまで続くとみていますか?
為替が円安で推移することが前提ですが、向こう3年は中華圏富裕層による日本の不動産購入は続くと予想しています。
日本は中国と同じアジア圏にあり隣国ですぐに訪問でき、更に治安が良いなど中国人に人気がある国です。特に欧米が政治的に中国と対立を深めており、欧米に資金を投じていた中華圏富裕層が資金を日本に投じつつあります。
――日本の不動産価格も上昇が進みましたが、割安感はまだありますか?
日本の不動産価格は以前ほどの割安感はありません。一方、為替を考えると割安感は残されています。
しかし、現在の中華圏富裕層による日本の不動産購入は、投資需要が後退しています。現在は、安いから、という理由で日本の不動産を購入している訳ではなく、実需に対するニーズが強い状態です。中華圏富裕層による日本の不動産購入は、円安傾向が維持されるなら、実需を中心に当面続くのではないでしょうか。