DX(デジタルトランスフォーメーション)は、企業に変革を与え、今までにはなかった価値を創出する取り組みです。DX導入によって、業務効率の飛躍的な向上や、新たな新事業の創出など、革新的な発展が可能になります。
しかし、DX導入に失敗している企業は少なくありません。DXをよくわからないままに始めてしまったり、社内での推進体制がうまく構築できなかったなど、その理由はさまざまです。この記事ではDX導入を効果的におこなう方法を、事例や注意点、コツなどと合わせて解説します。
はじめにおさえておきたい、DXの基礎知識
すっかり定着したDXという言葉ですが、その目的を正しく理解できている人は、まだまだ少ないのが実情です。ここでは、DX導入の前におさえておきたい、DXの基礎を解説します。
DX化とはなにか
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を利用した変革によって新たな価値を創造し、競争優位性を確保する取り組みです。
DXと言われると、ITツールを導入してペーパーレス化する、業務をクラウドサービスに切り替える、といったものが想像されがちですが、これは正確ではありません。
たしかに、DX推進の一環としてこのような業務改善は必要です。しかし、DXの本質は企業や社会全体を変革することにあります。
局所的な改良に留まらず、組織体制、業務体制、ビジネスモデル、企業風土を変革し、新しい価値を創出してこそ、DXが達成されたといえるでしょう。
混同されがちなIT化との違い
DXはしばしばIT化と混同されがちですが、両者の意味は大きく異なります。
IT化とは、デジタル技術を用いて、作業や業務を効率化することです。対象とする範囲は局所的になりがちで、業務単位・作業単位での改善になります。そのため、全体で見ると効果があまり得られていない、といった事態が起こりえます。
たとえば、ある業務で紙媒体の利用をやめて、ペーパーレス化をおこなったとしましょう。しかし、連携している他業務でペーパレス化をおこなっていないと、業務データの受け渡しの際に、結局紙に印刷してしまうという事態が発生するのです。
対して、DXでは全体のプロセスを俯瞰し、すべての工程をデジタル化してデータ管理できるようにする、といった改善をおこないます。IT化が部分最適化とするなら、DXは全体最適化といえるでしょう。
まだまだ低い日本のDX導入率
日本のDX取組状況は、低い水準となっています。
DX白書によれば、全社的にDXに取り組んでいる米国企業は71.6%です。対して、日本企業は45.3%に留まっています。
参考:経済産業省「DX白書2021」
DX導入が遅れると、国際市場での競争で不利な立場になってしまいます。そのため、国内の競合に先んじての、DX導入が必要といえるでしょう。
DXを導入する6つのメリット
ここでは、DXを導入することでどのようなメリットが得られるのか、代表的なものを6つご紹介します。
メリット1:業務の効率化と生産性向上
DX導入によって、業務の効率化と生産性向上が実現します。その理由は大きく分けて2つです。
1つは、デジタル技術の活用によって、作業の効率が向上するためです。現在、紙媒体でおこなっている作業をペーパーレス化することで、作業スピードが向上する、管理の手間が少なくなる、などの効果があります。
また、今まで従業員のパソコンに保存していたデータを、クラウドストレージで管理することで、メンバーが時間や場所を選ばずにアクセスできるようになる、といった効果も期待できるでしょう。
もう1つが、DXによる変革で、新たな業務体制を生み出せるためです。DX導入によって、部署の垣根を超えたネットワーク構築が可能になります。
たとえば、営業部門とマーケティング部門が別々にデータ管理をしていたとします。もし営業部門で活かせるデータを、マーケティング部門が保有していても、そのデータを利用できるとは限りません。
というのも、データの受け渡しの手間が壁になったり、そもそもデータの存在に気づかないというケースがあるからです。
DXを導入することで、このようなデータを一元管理し、部門を超えた利用ができる仕組みを構築できます。データへのアクセスが容易になるだけでなく、自社で持っている情報が可視化されることで、データを活用した業務効率化のアイデアも生まれやすくなるでしょう。
このように、DXの導入は、作業効率化と効率的な業務体制の構築、という2つの側面で、生産性向上を実現します。
メリット2:レガシーシステムの課題解決
DX導入は、企業が抱えるレガシーシステムの抱える課題を解決します。
レガシーシステムとは、何十年と長期的に利用された結果、古くなってしまったシステムのことです。レガシーシステムには、3つの問題があります。
1つ目がシステムの老朽化です。新しい技術に比べて、レガシーシステムはどうしても非効率だったり、ほかのシステムとの連携がむずかしくなってしまいます。
2つ目が複雑化です。レガシーシステムは何度も改修を重ねる過程で、構造が複雑化してしまいます。結果、小さなシステム改定をすると予想外の動きをしてしまい、システムに手を加えにくくなるということになります。
3つ目がブラックボックス化です。長い運用の過程でシステムが複雑になり、全容を把握している人間が少なくなってしまいます。それどころか、システムを扱える人材が退職し、誰も中身がわからなくなる、という危険もあるのです。
経済産業省は、この問題を「2025年の崖」と呼び、このようなレガシーシステムの問題を放置すると、2025年以降、毎年12兆円の損失が発生すると予測しています。
メリット3:BCP(事業継続計画)対策
事業継続性という面でも、DXは効果を発揮します。
自然災害、感染症、テロ、火災、など、さまざまな理由で事業が停止するおそれがあります。たとえば、台風で窓が割れたり、浸水で地下室に水が入り、業務資料やサーバーが使えなくなるかもしれません。もしくは、悪天候や感染症の発生などで、出社が困難になる可能性があります。
昨今の将来予測の難しい状況では、このような事業継続性の問題はますます深刻になっています。DX導入によって、外的要因による影響を最小限に留めることが可能です。
代表的な方法としては、業務のクラウド化が挙げられます。クラウドサービスを提供するサーバーは、セキュリティの強固なデータセンターで管理されています。そのため、業務データをクラウドに移行することで、物理的な紛失を防ぐことが可能です。
また、業務をクラウド化することで在宅勤務が実現するため、出社できなくても就業が可能になります。
DX導入によって、このような業務体制を構築することは、効果的なBCP対策になるでしょう。
メリット4:市場変化への対応と競争力強化
DX導入は、企業に優れた柔軟性を与えます。
デジタル技術の急速な発展や、新型コロナウイルスの感染拡大など、現代社会は予測のつかない変化をするようになりました。このような時代にあって、企業は急激な変化に対応する能力を求められるようになりました。
そこで求められるのがDX導入です。デジタル技術を活用する体制を整えることで、企業の柔軟性を大きく向上させることができます。
例として、デジタルツインという手法が挙げられます。これは、コンピューター上で現実の工程をシミュレーションする手法です。
たとえば、工場での製造ラインを変更するとしましょう。実際にライン変更をおこなって効果を検証しようとすると、時間もコストもかかってしまいます。
デジタルツインでは、変更前・変更後の製造ラインをコンピューター上で再現して、両者を比較します。コンピューター上なので、簡単に変更箇所を改良したり、定量的な測定が可能です。
実際に変更する前に正確なシミュレーションをおこなうことで、コストと時間を最小限に抑えることができます。
このようなデジタル技術の導入によって、企業は急激な変化への対応力を身につけられるのです。
メリット5:顧客価値向上
DXを推進することで、顧客価値を向上できます。
消費者の価値観は大きく変わりました。従来は、ものを所有することに価値を置くモノ社会でした。そして現在は、商品やサービスを通して、どのような体験を得られるかを重視するコト社会に移行しています。
コト社会では、商品だけではなく、購入までのプロセスや購入後のアフターケアなども重要な指標になります。そのため、いかに顧客によい体験を提供できるかというのが、企業の課題になっているのです。
顧客体験価値向上のためには、DXは欠かせません。顧客のサービス利用傾向、購入までの動き、問い合わせ内容など、さまざまなことがデータとして記録できるようになりました。このようなデータを分析することによって、顧客のニーズを発見し、新たな価値を創出することが可能です。
そのような分析には、デジタル技術活用を前提にしたビジネスモデルの創出、つまりDX推進が求められます。
顧客に良質な体験を提供することで、顧客価値を向上させ、市場での優位性を獲得できるでしょう。
メリット6:新規事業の創出
DXを導入することで、新事業の創出を実現します。DX導入で企業が変革することで、企業が提供できる幅が広がります。この変化を活かして、新しいビジネスにつなげることが可能です。
たとえば、株式会社八芳園はDX導入によって、従来ではむずかしかった密なコミュニケーションと、新しい顧客体験の提供に成功しました。そして、同社はこの経験をもとに、DXのコンサルティングサービス「SOLVE EIGHT」を開始しました。
DX導入で企業が身につけたノウハウを、ビジネスとして活用した好例といえるでしょう。
始める前に知っておくべき、DX導入の4つの課題
ここでは、DX導入時に企業が直面することになる課題を、4つに分けてご紹介します。
課題1:曖昧なDX戦略・ビジョン
DX導入は、しっかりとした戦略のもとで実行されなければなりません。しかし、多くの企業がDX導入をなんとなく始めてしまい、導入に失敗してしまっています。
DXは単なるデジタル技術による改良ではなく、企業や社会を変革するとりくみです。そのため、組織体制やビジネスモデルといった、ヒトや仕組みの変革になります。
そのような大規模な変革のためには、経営層がビジョンを掲げて、そのもとではっきりとした戦略策定が必要です。
課題2:十分ではない社内協力体制
社会の協力を得ることは、DX導入の必須条件です。
DX導入は部門を超えて、全社的におこなう改革です。一部門だけが改善をおこなえばいいというものではありません。業務データを全社的に活用する仕組みや、業務体制の改革など、DXの取り組みは部門を超えた関係が不可欠です。
経営層や推進チームだけで進めるのではなく、会社を巻き込んだプロジェクトにしましょう。
課題3:IT人材の不足による教育費用の増大
多くの企業で、DX導入に必要な人材が不足しています。
特に中小企業では、DX導入を進める人間がいない場合も少なくないでしょう。また、ITリテラシーの高くない人間が多い場合は、新しい環境に順応できない危険性もあります。
その場合は、長期的な目線で、人材の教育、新規雇用などを検討すべきかもしれません。
課題4:IT投資の不足によるコスト増大
IT投資が不足していると、DX推進がむずかしくなります。
たとえば、モバイルワークのためのノートパソコンがない、社内にWifi機器などタブレット用の通信環境がない場合は、新たに機器を購入する必要があります。
また、自社PC持ち出しに関する社内規定がない場合は、新たに規定を整えなければなりません。
このように、IT投資が不十分な場合は、DX推進がむずかしかったり、時間がかかってしまうおそれがあります。
DX導入を成功させるための9つのステップ
DX導入のステップを9つに分けて解説します。
ステップ1:経済産業省のDX推進ガイドラインに目を通す
はじめに、経済産業省が公開している、DX推進ガイドラインに目を通しましょう。
デジタルガバナンス・コード(旧:DX推進ガイドライン)は、経営者がDX推進を通して、企業価値向上のために実践すべき事柄をまとめたガイドラインです。このガイドラインを踏まえることで、DX推進の原則から外れることのない取り組みが可能になるでしょう。
また、自社のDXの推進状況をはかる指標として、DX推進指標が参考になります。DX推進のための目標としても利用できるので、一読をおすすめします。
参考:DX推進指標
ステップ2:DX導入のビジョン・目的を明確にする
DX導入を通して、どのような経営をおこなうのか、明確なビジョンを立てましょう。そのためには、デジタル技術によって変化する社会の中で、自社がどうあるべきなのかを考える必要があります。
デジタル技術を用いて、自社の強みをどう活かすか、弱みにどう対処するのか、ステークホルダーになにを提供するのか、など自社が進む方向性を明らかにしましょう。
また、DX導入をおこなう目的設定も必要です。DX導入をしなければどうなるか、といった観点から理由を示しましょう。
明確なビジョンと目的を掲げることで、DX導入戦略を策定する上での指針になります。
ステップ3:全体的なDX戦略を立てる
ビジョンを実現するための戦略をおこないましょう。
ここでは、具体的な取組、予算配分、スケジュールを決定します。新規ビジネス創出が目標にある場合は、ここで具体的に明示します。
ステップ4:DX推進体制を構築する
次に、DX推進体制を構築します。DX推進は、経営者と推進チームだけではおこなえません。組織を横断した全社的な協力体制が必要になります。
組織の構成は大きく分けて、以下の4グループになります。
- 経営陣
- 現場管理者
- 現場
- 開発チーム
施策の中心は推進チームになりますが、現場管理者や現場の人間からの協力は必要不可欠です。人事と協力しながら各部門で代表を決めておくなどして、いつでもコミュニケーションが取れる状況を作りましょう。
ステップ5:現状把握をおこなう
次に、現在の状況を調査します。現状とビジョンとのギャップを理解することで、具体的な施策が明確になります。
調査対象は、戦略段階で決定した取り組み内容に則したものにしましょう。たとえば、以下のようなものが考えられます。
- 保有しているIT資産
- 社内のネットワーク環境
- 業務内容
- データの管理体制
- 自社のアプリケーション
- 従業員のITリテラシー
調査が不十分なまま始めると、作業量が予定よりも増えてしまったり、無駄な労力をかけてしまったりと、トラブル発生の原因になります。
ステップ6:施策に優先度をつける
次に、実際におこなう施策に優先度をつけましょう。
DX導入は、業務のデジタル化や、業務・組織体制の改革など、さまざまな要素でできています。そのため、すべてを同時におこなうことはできません。
着実にDXを推進するために、施策の優先付けをおこなう必要があります。DX戦略をもとに全体を意識しながら、施策の順番を考えましょう。
ステップ7:計画を作成する
施策を実行する上での計画を作成しましょう。最低限、以下の要素は押さえる必要があります。
- スケジュール
- 参加メンバー
- タスク
- KPI・KGI
また、ここではスケジュールの管理方法も決めておきましょう。タスクの進捗やKPIを確認する方法が、定例ミーティングでの報告だけでは非効率です。
タスク管理サービスなどで管理表をクラウド上に設置し、メンバーが閲覧・編集できるようにすれば、いつでも進捗を一覧で確認できるようになります。
タスク管理サービスを導入していない場合は、Google スプレッドシートで管理表を作ってもよいでしょう。高機能ではありませんが、必要な進捗管理はスプレッドシートで実現できます。
ステップ8:計画を実行する
次に、計画を実行します。スケジュール管理は、計画時点で設定したタスクとKPIを使って、進捗を確認しましょう。密にコミュニケーションを取り、なにかあったらすぐに対応できるようにすることも重要です。
また、作業内容の記録は詳細におこなうことを心がけましょう。はじめてのDX導入では、想定していないことが起こったり、トラブルが頻発する可能性があります。そのような事態に対してどのような対策をとり、どれだけ効果が出たのかを記録することで、他の施策に活かすことができます。
ステップ9:反省点を見つけて改善を繰り返す
計画が完了したら、作業を振り返ります。ここでは作業の評価をおこない、反省点や、改善点を見つけて、次の施策にいかせるよう課題と改善方法を考えます。
注意したいのが、問題の原因を作業者の努力不足や不注意など、個人の責任にしないということです。そのような結論は、もっと頑張るなどの精神論に向かってしまいがちだからです。
作業項目やスケジュール、チェック体制といった業務内容や体制という観点で、解決策を考えましょう。
中小企業がDX導入で気を付けること
DX導入にあたって、中小企業が気をつけるべきことを解説します。
1:無理のない範囲で、小さく始める
DX導入は、無理のない範囲で、小さく始めることを心がけましょう。DX導入は業務のIT化、ビジネスモデル・組織体制の変革など、さまざまな要素が組み合わさった大規模な取り組みです。
いきなりすべてを変えることは非常に難易度が高く、トラブル発生時に収拾がつかなくなるおそれがあります。
DX戦略の策定は最終的なゴールを見据える必要がありますが、ペーパレス化やクラウドサービス導入といった施策単位では、一度の作業量が小さくなるように調整しましょう。
実現可能な小さな範囲から堅実に始めることで、環境が改善されたり、ノウハウが蓄積されます。そのような積み重ねで、DX推進体制が強化され、大きな規模での施策がおこなえるようになるでしょう。
2:即効性を求めない
DX導入は中長期的な取り組みなため、即効性を求めないようにしましょう。
特に、業務体制、組織体制の変革や、新しいビジネスモデルの創出はすぐには実現しません。場合によっては、数年のスパンで見る必要もあります。
ただし、デジタル化やITツール導入という小さなレベルでは、比較的短い期間で効果を実感できるものもあります。このような施策は、従業員のDX推進のモチベーションになります。
DX推進という目的から外れない範囲で、そのような小さな施策を意識して取り入れることも、社内の協力関係の構築という意味で有効です。
3:経営陣が積極的に協力する
トップが主導して、DX導入に取り組みましょう。ITはよくわからないので、くわしい人材に丸投げしたほうがいいと考える経営者もいますが、これは正しくありません。
たしかに、技術面では推進チームのほうがくわしく、最適な提案をおこなえるかもしれません。しかし、DX導入には企業風土、ビジネスモデル、組織体制の変革など、部門を超えた大きな大きな変革が必要です。そのため、会社を巨視的に見る経営層の協力は必要不可欠です。
戦略をもとにプロジェクトを適切にマネジメントするのは、経営陣の役割といえるでしょう。
4:現場の理解を得るよう努める
DX推進は、業務体制や企業風土など広範囲での変化が起こるため、すべての従業員が推進業務に関わることになります。そのため、管理職や推進チームだけでなく、現場の協力が必要です。
DXを推進に関する啓発活動や研修・セミナーを通して、目的やメリットを十分に周知しましょう。また、普段の業務に影響のない範囲で、依頼する作業負荷を考えるなどの配慮も必要です。
5:外部の知見を利用し、失敗リスクを小さくする
DXの取り組みを誤らないように、外部の知見の利用を検討しましょう。
DXがよくわからない状態では、適切なビジョンや戦略を立てることはできません。誤った戦略のもとでは、今後の施策がズレたものになる危険があります。
そのため、DXコンサルタントといった専門家に頼ることも、時には有効な手段です。自社で足りていない部分を外部のリソースに頼ることで、失敗のリスクを大きく下げることができます。
ケース別 DX推進の成功事例6
ここでは、DX推進をおこない、成功した事例をご紹介します。
事例1:株式会社ユニメイトの場合
株式会社ユニメイトはAIの画像認識機能を利用し、自動採寸アプリを導入しました。
ユニメイトは、ユニフォームの販売・レンタル・クリーニングをおこなっている、総合ソリューションカンパニーです。同社では、サイズ違いでのユニフォームの返品率が最大実績で40%を超える、無駄なコストがかかっているという問題がありました。
このような高い返品が発生していたのは、従業員がサイズを自己申告するために、実際のサイズとのズレが発生していたということが原因でした。
そこで同社は、デジタル事業コンサルティングをおこなう株式会社モンスター・ラボと協力し、自動採寸アプリ「AI×R Tailor(エアテイラー)」を開発しました。
このアプリは、顧客が撮影した従業員の全身画像と、「性別・年齢・体重」といった基本情報をもとに、AIがユニフォームの適切なサイズを判定するというものです。
少ない労力で正確なサイズが測定できるため、業務効率アップ、返品作業などのコスト削減などの効果が得られました。スマートフォンとAIという新技術により、同社は従来の業務形態に大きな変革を与えることに成功したのです。
事例2:山九株式会社の場合
物流、設計・建築、工場構内の管理をおこなう山九株式会社では、手書き書類の読み取りツールで、作業時間を大幅に短縮しました。
同社は協力会社と連携して業務をおこなっており、点検記録や作業日報、請求書などの多様なフォーマットで書かれた手書き書類を管理していました。そこで問題だったのが、書類をデータ化する際に手打ち作業が発生し、担当者にとって作業負担になっていたということです。
そこで、AIを利用した書類処理サービス「DX Suite」を導入しました。DX Suiteは手書き文字を読み取れる文字認識機能を搭載しており、高速で紙書類をデータ化することが可能です。
このサービスを導入したことで、月間で400時間の作業の短縮に成功しました。新たに生まれた時間を利用し、他の業務も新しくおこなえるようになったそうです。
事例3:有限会社アシストの場合
有限会社アシストはドローンを利用した効率的な農薬・肥料の散布をおこなっています。
同社は離農した農地を引き継ぐ形で、年々作付面積を拡大していますが、それに伴い人的リソースがひっ迫していました。そこで、株式会社オプティムからの提案を受けて、ドローンの導入を決定しました。
ドローンは空中から農地を撮影し、画像データから農薬の散布場所を特定します。必要な箇所に農薬散布を重点的におこなうため、最小限の量で効果的な除草が可能になりました。
オプティムによれば、このドローンのピンポイント農薬散布により、使用する農薬量と散布時間を90%の削減が可能になります。
このようなドローンの活用は、高齢により耕作放棄地が増えている、地方の農地を有効活用する手段として注目されています。
事例4:株式会社スーパーレックスの場合
物流センターの運営、管理、物流コンサルティングをおこなう株式会社スーパーレックスは、AIを利用した独自配車を実現しました。
同社は配送ルートの変更作業に膨大な時間がかかる、土地勘や経験がなければ配送がむずかしいため引き継ぎに時間がかかる、などの問題を抱えていました。
そこで配車計画用のクラウドサービスである「LYNA 自動配車クラウド」を導入しました。このサービスでは、AIが独自のアルゴリズムで最適な配送ルートを提案します。
結果、ルート作成の時間が大幅に削減される、土地勘のない人間でも配車ができるようになる、といった効果が得られました。また、効率的な配送により、燃料代や人件費を削減できたことも、大きなメリットです。
事例5:株式会社八芳園の場合
結婚式場・宴集会場・パーティー会場の経営を手掛ける株式会社八芳園は、多方面でデジタル技術を導入し、DX推進をおこないました。
同社は約1万坪の庭園内に多くの会場を有しており、社員同士の連絡が課題になっていました。従来のメールや電話を中心とした連絡手段では、情報共有に時間がかかってしまい、効率面で問題があります。
そこで導入したのが、ビジネスチャットツール「LINE WORKS with KDDI」です。このアプリでは、目的ごとに分けられたグループという単位でチャットをおこなうため、迅速に情報のやり取りが可能になります。
また、このアプリにはスケジュール機能も搭載しています。今までバラバラだった社内でのスケジュール共有をLINE WORKSで一本化し、どこでも従業員の予定を確認できるようにしました。
このような効果によって、従業員は効率的な連携のもとで動けるようになりました。さらに、浮いた時間を活用して、お客様へのサプライズやプレゼントを送るなど、よりよいサービスが実現できるようになりました。
事例6:株式会社オリガミトイロの場合
株式会社オリガミトイロは、ブライダル事業もてがける美容室を経営しています。同社はDX導入により大幅な売上増加を達成しました。
同社がおこなったのは、バックオフィス業務や連絡のデジタル化です。企画書、請求書などの書類をすべてパソコンでおこなうように徹底し、進捗・勤怠管理はクラウド上で管理するようにしました。また、従業員にApple Watchを配布し、迅速な連絡にも対応できるようになったのです。
さらに、スマートミラーの導入もおこないました。スマートミラーは鏡上に映像を映し出せるデバイスで、美容室では髪型のシミュレーションや広告再生などに利用されます。
スマートミラーで商品宣伝をおこなうことで、従業員ごとの商品説明の差を解消し、時間コストを削減しました。
このような取り組みにより、オリガミトイロの労働生産性は美容室として異例な157万円を記録しました。
DX導入支援会社とは?
DXを導入したくても、DX戦略の策定に不安があったり、人材不足で動けない、といった企業も少なくありません。その場合、外部のリソースを頼るという方法があります。
DXコンサルティング、人材育成、人材派遣といったサービスを利用することで、DX導入をスムーズに、低リスクでおこなうことが可能です。ここでは、DX支援サービスと、代表的な企業をご紹介します。
DX推進のコンサルティングサービス
DX推進のコンサルタントは、DXのビジョン、戦略、施策などを総合的に支援します。何百何千という実績から得た経験をもとに、効果的なDX推進計画を提案できるのが大きな特徴です。
代表的なDX推進支援企業として、2社をご紹介します。
株式会社モンスターラボホールディングス
・2,200件以上のコンサルティング実績
・企画、設計サポート
・開発プロジェクトの全工程対応
参考:https://monstar-lab.com/service/dx/
株式会社ALBERT
・AI分析、機械学習技術を利用したアルゴリズム構築
・課題設定、アルゴリズム構築、システム開発、運用までを一貫してカバー
・DX人材育成にも対応
参考:https://www.albert2005.co.jp/service/project/ai_analysis/
DX人材派遣サービス
DX人材派遣の優れた点は、DXに習熟した人材をすぐに確保できるという点です。自社での人材教育は数ヶ月〜数年の期間を要すため、その間の人件費や、DX導入を進めないことでの機会損失は大きなものになるでしょう。
DX人材が極端に不足している場合は、人材派遣利用をおすすめします。代表的な人材派遣サービスとして、2社をご紹介します。
株式会社Intloop
・2万6,000人を超える人材
・コンサルティングベースの人材のアサイン
・1週間~2週間での派遣が可能
参考:https://www.intloop.com/business/professional/
株式会社みらいワークス
・4万3000名のプロフェッショナル人材
・最短即日の人材紹介
・都市、地方問わず幅広くカバー
参考:https://mirai-works.co.jp/
DX人材の育成サービス
DX人材育成サービスの優れた点は、社内人材がDXリテラシーを身につけられる、という点です。
人材派遣サービスは即効性がありますが、契約期間が長くなるとコストがかさむ、継続した関係が築きにくい、というデメリットがあります。社内の人材がDX人材として活躍できるようになれば、そのようなデメリットに悩まされることはありません。
また、経営層や現場の人間が幅広くDXリテラシーを身につけることで、議論が活発になる、協力体制が作りやすくなる、というメリットもあります。
DX人材の教育サービスとして、2つをご紹介します。
株式会社STANDARD DXリテラシー講座
・DXの基礎
・デジタル技術
・DX推進プロジェクトの進め方
参考:https://standard-dx.com/services/dx-training
インターネット・アカデミー株式会社のDX研修
・DXの目的の理解
・IT・DXリテラシーの向上
参考:https://www.internetacademy.co.jp/course/dx/dx.html
DX導入のための補助金について
DX導入をするために利用できる、さまざまな補助金制度が用意されています。代表的なものを4つご紹介します。
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業を対象として、ITツール導入にかかる経費を補助する制度です。通常枠、デジタル化基盤導入枠、セキュリティ対策推進枠の3つに分けられます。
通常枠(A類型・B類型)
・ソフトウェア費、クラウド利用料(1年分)、導入関連費を補助
・費用の1/2、最大450万円を補助
参考:https://www.it-hojo.jp/first-one/ab-type.html
デジタル化基盤導入枠
・会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、ECソフトの導入補助
・PC、タブレットなどのハードウェアも補助対象
・5万円~50万円では、補助率3/4
・50万円~350万円では、補助率2/3
参考:https://www.it-hojo.jp/first-one/digital-type.html
セキュリティ対策推進枠
・セキュリティサービスの利用を補助
・対象サービスは、IPAの公表している「サイバーセキュリティお助け隊サービス」
参考:https://www.ipa.go.jp/security/otasuketai-pr/
・サービス利用料の1/2まで、最大100万円を補助
参考:https://www.it-hojo.jp/security/
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、サービス開発や業務プロセス改善などを補助する、中小企業のための制度です。一般型・グローバル展開型と、ビジネスモデル構築型の2つの枠があります。
参考:https://portal.monodukuri-hojo.jp/
一般型・グローバル展開型
・DX導入のために、デジタル枠が利用可能
・750万円~1,250万円まで、2/3を補助
ビジネスモデル構築型
・中小企業のビジネスモデル構築・事業計画策定を支援
・補助金は100万円~1億円
・大企業は1/2、それ以外の法人は2/3まで補助
事業再構築補助金
事業再構築補助金は、新分野への転換、業態転換、事業再構築といった、中小企業の挑戦を支援する制度です。DX推進のためには、通常枠が利用できます。
参考:https://jigyou-saikouchiku.go.jp/
補助金額:
【従業員数 20 人以下】 100 万円 ~ 2,000 万円
【従業員数 21~50 人】 100 万円 ~ 4,000 万円
【従業員数 51~100 人】 100 万円 ~ 6,000 万円
【従業員数 101 人以上】 100 万円 ~ 8,000 万円
補助率:
中小企業者等 2/3 (6,000 万円超は 1/2(※))
中堅企業等 1/2 (4,000 万円超は 1/3(※))
対象経費:
建物費、機械装置・システム構築費(リース料を含む)、技術導入費、
専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、外注費、知的財産権等関連経費、
広告宣伝・販売促進費、研修費
引用:事業再構築補助金公募要領
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/koubo008.pdf(p.10)
まとめ:明確なビジョンを描いて、DXを推進しよう!
DXは単なるIT技術の導入ではなく、企業全体を変革する取り組みです。そのため、具体的なイメージがむずかしいという側面があります。なんとなくはじめてしまった結果、局所的な改良に留まってしまったり、かえって現場が混乱するような企業は少なくありません。
DX導入をおこなう上では、企業の将来像がわかるような、明確なビジョンが必要です。DX導入によって実現することを、経営陣や従業員をはじめとしたステークホルダーが認識することで、堅実なDX推進がおこなえます。
DX導入にあたっては、DXの理解、社内の協力体制の構築が必要不可欠です。本格的に取り組む前に、まずは社内でDXについて話し合うところから始めてみましょう。