バッテリを内蔵し電子回路を動かすペンを一般に「アクティブペン」と言う。これまで、多くのアクティブペンには、米国規格のAAAA電池(直径8.3ミリ)が使われていた。米国規格のAAAAを使う理由は、ペンの太さを1センチ程度にするためと、電池の入るペン上部をできるだけ軽くするためだ。市販されている日本の乾電池には単一から単五まであるが、最も細い単四電池(米国規格ではAAAに相当)でも10.5ミリある。
多くの筆記用具は、7から8ミリ程度の軸径を持つ。JISによる鉛筆の軸径は8ミリ以下と定められている(JIS S 6006:2020)。そこからみると10ミリは少し太めで、多芯ボールペンと同じぐらい。アクティブペンの軸径を10ミリにしようとしたら、多くのPCが設計される米国ではAAAA乾電池しかない。
このAAAA電池、意外に新しく最初の製品は1989年だという(米国Energizer社)。Windowsがペンに対応したWindows for Pen Computingが1992年、まさにその直前に作られたのがAAAA乾電池である。環境問題に対応して電池に含まれている水銀を少なくするため、小さな電池を作ったらしいが、AAAA電池がなかったらペンはもっと太く、重くなっていた。
AAAA電池は容量が小さく扱いには結構苦労した。気がつくと電池がなくなっている。また、1990年台前半には日本での入手も困難だった。日本の規格ではないので、普通の店には売っていなかったからだ。その後2000年前後から、国内でもアクティブペンを使う機器が普及すると、AAAA電池の入手性も上がり、Windows 10でペン機能が強化された頃には、オンライン通販などで普通に購入できるようになった。
このアクティブペンの扱いが楽になったのは、つい最近のことだ。5年ぐらい前から充電池を内蔵したペンが登場し始めたからだ。とはいえ、まだAAAA電池を使う製品も残る。筆者の手元にあるものはUSB Type-Cコネクタを使うものと、ワイヤレス充電対応のものがある。ワイヤレス充電は便利なのだが、出先でのバッテリ切れを考えると、タブレット本体とペン充電器が一体になったものが使いやすい。充電器も持ち歩く必要があるなら、かえって有線接続のほうが使い勝手がいい。
さて、使い勝手の上がった充電式ペンだが、机の上に置きっぱなしにしたタブレットで使おうとすると、やはり電池が切れていることがある。充電式になったからといってバッテリ寿命が大きく延びているわけではない。かといって、使い終わるたびにケーブルを挿すのも面倒だし、忘れやすい。そこで、磁石式USBケーブル(マグネット充電ケーブルなどとも)を使ってみた。磁石式USBケーブルとは、コネクタ(プラグ)部分とケーブル部分の間が磁石で着脱可能になっているもの。電気ポットの電源ケーブルと同じ仕組みである。電気ポットはケーブルを引っかけても本体が転倒しないためのものだが、磁石式USBケーブルはどちらかというと着脱を簡単にするためのもの。少なくとも取付は、USB Type-Cコネクタを差し込むよりは簡単にできる。
磁石式USBケーブルには、大きく2種あり、1つは、すべての信号線を配線したもの、もう1つは電力供給のみの簡易なものだ。前者は信号線の数が多く、磁石部分も正しい向きに合わせる必要があり価格も安くない。これに対して、簡易なものは、接続部分が同心円になっていて、電源の+と-の2つしか接点がなく正確に位置合わせする必要がない。価格的にはこちらの方が安く、オンライン通販サイトなどでも1000円以下で入手が可能だ。ペンのコネクタは充電のみの役割しかないので後者で充分である。
これを使って、ピアノ線で磁石式USBケーブルを固定してペン立てを作ってみた(写真01)。磁石式USBケーブルの磁石は結構強力なのでペン自体を支えるぐらいは何とかなる。使い終わったらコネクタを近づけると磁石で勝手に固定される。
ペンに磁石式USBケーブルのコネクタ部分を付けると、充電端子が剥き出しのままになる。充電中はいいが、外に持ち出すとき、カバンの中で何か金属をくっつけて端子をショートさせてしまうとちょっと心配だ(コネクタ側の磁石もかなり強い)。かといって、コネクタ部を付け外しするのも面倒である。そこで、小さなネオジム磁石とゴムワッシャーを重ねてタブレットPCの液晶面の額縁部分につけて、そこにペンを置き、端子が何かに接触しないようにした(写真02)。なお、ケースやキーボードを装着するため額縁部分に磁石を内蔵しているタブレットや2in1もある。うまく使えば、そこにペンを固定することもできる。
今回のタイトルネタは、トーマス・M・ディッシュの「いさましいちびのトースター」である。別荘に放置された家電製品が御主人様を探しに行くという話。筆者は、「ちびのトースター」をずっと子供だと思っていた。元になったグリム童話の「いさましいちびの仕立屋」も子供ではなく大人の仕立屋の話。邦訳単行本のイラストが吾妻ひでおだったからなのか。