ブラザー販売は、愛知県名古屋市の同社本社オフィスをリニューアルし、その様子を公開した。

  • 問われるオフィスの価値、本社を「PLAYFUL」につくり変えたブラザー販売

    ブラザーの本社ビル

本社オフィスが入るビルの5階1フロアを全面的にリニューアル。「PLAYFUL OFFICE」を新オフィスのテーマに掲げ、ブラザーらしい遊び心や、コミュニケーションの仕掛けが満載となったオフィスを実現。ブラザー販売の三島勉社長は、「チームワークを発揮し、自律的なワークスタイルで、従業員が、夢中で仕事を楽しめる場になることを目指す」としたほか、「新しいオフィスから、お客様のビジネスや、暮らしに役立つ製品、サービスを生み出したい」とも述べた。

  • コロナ禍のなし崩し的な部分もあったかもしれないが、多くの人が多様な働き方の価値を実感したことで、オフィスの在り方が改めて問われている

在宅勤務にIT整備、オフィスから働き方を改革を前進

ブラザー販売では、2018年から、東京オフィスのリニューアルを開始し、関越、九州、関西のオフィスを、順次、リニューアルしてきた。

三島社長は、「いよいよ本社オフィスをリニューアルするといったタイミングで、新型コロナウイルスの感染が広がり、オフィスを取り巻く環境や企業活動は大きく変化した。3密回避や在宅勤務の導入は、社会の要請であり、多くの商談や会議が、オンラインで行われるようになっている。ブラザー販売では、コロナ以前から、在宅勤務の制度はあったが、一部社員に限られていたことで、出社率は90%以上だった。だが、これを全社員に拡大し、現在の出社率は50%以下になっている。また、フレックス勤務のコア時間をずらし、ITツールの整備を行い、ペーパーレス化も進め、在宅勤務でもほぼ問題なく業務が行えるようになっている」とし、「新たなオフィスは、働き方を改革する上で、取り組みたいと考えていたことに加えて、コロナ禍の働き方を意識したオフィスづくりを行った。働きがいや、やりがいの向上に向けて、コミュニケーションの活性化、メリハリある働き方実現するオフィスリニューアルを実施した」と位置づけた。

  • ブラザー販売 代表取締役社長の三島勉氏

リニューアルでは、ミーティングスペースを増やし、会話が生まれやすい環境を整備する「オープンコミュニケーション」、固定式を廃止し、仕事に合わせて働く場所を選べる「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」、ブラザー製品やサービスを、社員自らがより積極的に活用し、新しいアイデアが生まれる場にする「クリエイティブ」の3点に力を注いだという。

  • 「PLAYFUL OFFICE」の3つのキーワード

「オープンコミュニケーション」では、社長席以外は全席フリーアドレスとしたほか、コワーキングスペースやキッチン、オープンミーティングエリアを新設。部門に関係なく、社員同士がコミュニケーションしやすい環境を用意。不足していた会議室も、2~4人で会議をしたり、自由自在なレイアウトで会議を行える部屋を用意したほか、大人数が参加できる大会議室も設置している。コミュケーション&アイデアスペースは従来の2.6倍に増加したという。

  • 社長席はフリーアドレスではないが、非常にオープンなつくりに

  • 新しくなったワーキングスペース

  • キッチンスペースもコミュニケーション促進に一役買う

  • 新設のオープンミーティングエリア

「従来は、会議室ありきの会議が多かったり、ブラザー販売のフロアの会議室だけでは足りずに、別フロアのブラザーグループ共有の会議室を使っていた。だが、リニューアル後は、フロア内で完結することが増え、移動時間の削減にもつながっている」(ブラザー販売 本社リニューアルプロジェクト担当の伊佐治慶則氏)という。

  • ブラザー販売 本社リニューアルプロジェクト担当の伊佐治慶則氏

「ABW」では、全席にモニターを完備したエリアや、周囲から遮断されることで集中して業務に取り組めるブース席、チームで作業したい際に適しているソファー席など、働き方に合わせて座席を選べるようにした。すでに企画立案が13%増、意見交換が37%増になるといった成果が生まれているというが、「より有用なものにするために、社員がメリハリのある働き方を意識し、生産性をあげていく必要がある」としている。

  • 集中して作業できるブース席も設けた

「クリエイティブ」では、プリンタとミシンというブラザーにしかない組み合わせを、事業の柱としていることを、体現したオフィスに変化。全社員が、自社製品やソリューション、コンテンツと触れ合える機会を創出するため、クリエイティブルームを新設した。

「従来のオフィスでは、マーケティング部門や営業部門などの一部の社員が自部門の製品だけを管理していた。そのため、オフィスで使うレーザープリンター以外は、自社製品を目にする機会がない社員も多くいた。クリエイティブルームは、ブラザー販売が取り扱う主要な製品を棚に並べ、社員が気軽に使うことができる工房のようなスペースにした」という。

  • 自社製品を並べ、工房のようなスペースにしたクリエイティブルーム

また、クリエイティブルーム以外にも、オフィスのあちこちでブラザー製品を積極的に活用することを推進。インクジェットやレーザープリンター、スキャナー、ラベルプリンターなどを分散配置してBRAdminという管理システムで消耗品の一括管理をしているという。

また、昨年夏に発売したオフィス向けラベルライター「ピータッチキューブ」を活用して、オフィス内の整理収納に活用。荷物発送の際の送り状ラベルにも、簡単に印刷できる自社ソリューションを導入。「社員全体が、ブラザー製品と触れ合って、新しいアイデアが生まれるような場所を目指している」という。

新たなオフィスの効果が、競争力伸長の成果へ

ブラザークループでは、2019年度から、3カ年の中期戦略を推進。最終年度に入るところだ。

国内におけるブラザー製品の販売を担当するブラザー販売は、プリンタをはじめとする情報通信事業、ミシンなどのホームファッション機器事業の2つの事業の柱を持ち、国内の様々な業種業態のユーザーに製品やサービスを提供している。

さらに、家庭向けインクジェットプリンタや家庭用ミシンの販売で培ってきた地盤を維持しながら、次の成長に向けた2つのビジネスの柱を育てる活動を行っている。そのひとつが、企業へのソリューション提案を加速するBusiness Printing Solution。もうひとつが、市場が急拡大しているオリジナルクッズ市場向けの製品を拡販するOrder Goods Businessだ。

三島社長は、「これらの取り組みによって、多くの企業で、ブラザー製品を利用してもらう機会が増えた。スピードをもって、コスト競争力がある事業基盤を築いていく」と語る。

社員自らがブラザー製品に触れる機会を増やすことで、ブラザー製品の提案の幅を広げたり、新たなアイデアや利用提案の創出にもつなげる考えだ。中期戦略の最終年度の成果にも、新たなオフィスの効果が、なにかしらの形で貢献することも期待されよう。

三島社長は、「これまでは、組織体制や業務に合わないオフィスレイアウトが最大の課題だった」とする。課題の具体例にも触れつつ、「建物の構造上、北と南のブロックに分かれてしまい、北側と南側は行きしにくいという心理的ハードルが高かったり、部門ごとに全席固定席だったことで、部門交流が生まれにくかった。また、外出や出張が多い営業部門は、昼間には空席が目立っていた。さらに、会議室や作業スペースが少なく、現在の用途に合わないレイアウトとなっていた。リニューアルプロジェクトでは、新しい働き方を実現するオフィスとして、部門間交流や会議室不足などの課題解決とともに、自社製品を積極的に活用できる環境に生まれ変わらせることに力を注いでもらった」と語る。

新しいオフィスでは北側を、「業務集中エリア」とし、フリーアドレス化し、集中ブースやクイックミーティングスペースなどの多様な席を用意し、その日の業務内容に合わせて自由に選べるようにする一方、南側は、「コミュニケーションエリア」とし、ミーティングをはじめとしたコミュニケーションや、アイデア創出に向けたエリアを用意。キッチンスペースや自社製品を気軽に触れるクリエイティブルームなども南側に用意した。

  • 北側の「業務集中エリア」

  • 南側の「コミュニケーションエリア」

  • 両エリアの回遊を促すつくりにすることで、部門間の交流が活発に

ブラザー販売の伊佐治氏は、「以前は、部門間交流が少なく、閉鎖的な雰囲気や、一体感の無さも感じており、同じオフィスにいるのに、業務の依頼やコミュニケーションなどもメール対応が基本だった。新たなオフィスでは、働き方によって南北を使い分け、活気がある回遊型オフィスの実現を目指した」という。

オフィスリニューアル後のアンケートでは、オフィスは働きやすい環境が確保されているかとの設問に対して、リニューアル前の満足度は65.7%だったものが、リニューアル後は86.5%と、約21ポイントも上昇しているという。

一方で、環境にも配慮したサステナブルなオフィスも目指すという。共有化により消耗品や文具の在庫を約50%削減したり、図書や備品の共有化、オフィス家具のリサイクル、ゴミ分別の徹底によるリサイクル、消費電力改善活動も実施するという。

社員の活躍に、「ワークライフマネジメント」を提唱

三島社長は、「ブラザー販売では、社員が本当に活躍できる環境を提供するために、様々な働き方改革を実施してきた」と振り返る。

仕事と生活を両立させるワークライフバランスの一歩先の考え方となる、自律的に仕事と生活を管理する「ワークライフマネジメント」を提唱し、各種取り組みを行ってきたり、自主学習や研修などの教育制度の充実、子育てや介護などとの両立支援では「ふるみんマーク」を取得。長時間労働の是正に向けた「カエル!ジャパン」に賛同し、定時退社率や有給休暇取得率の目標を全社で共有するなどの啓蒙活動も実施してきた。

「社員が働きやすく、活躍ができる会社になってきていると考えている。その上で、働き方改革の第2段階である『働きがい向上に向けた改革』に着手している」とする。

「様々な制度や有給休暇取得率などの数値面を改善したが、社員へのアンケート結果から見えてきたのが、『働きがい』であった。なにが社員の働きがいを阻害しているのかを調べると、古くからある制度の多くが、現在の社会や、社員の生活環境、価値観にあわなくなっていることが明らかになった。そこで、チャレンジ風土を醸成するために必要な『やりがい』の向上を目的に、2017年にプロジェクトを立ち上げた。社員自らが、会社の制度改革に参加できるように、全国の拠点からプロジェクトの参加者を公募し、プロジェクトチームを結成した。人事制度の改革、多様な勤務体系の導入、部門間コミュニケーションの活性化を目指すなかで、オフィスのリニューアルにも着手した」とする。

その一方で、「多くの企業が直面しているように、場所に縛られない多様な働き方が浸透し、いままでは、あまり深く問われなかったオフィスの価値について、考えなくてはならなくなった」とも語る。

2020年6月に全社員を対象に実施したアンケートでは、80%以上の社員が在宅勤務を週2回以上活用したいと回答したことに触れながら、「在宅勤務は、オフィスよりも集中して仕事ができるという点での生産性向上や、通勤時間がなくなったことへの前向きな結果がでたが、在宅勤務の環境が整っていないという声や、50%以上の社員がコミュニケーション不足を課題にあげている」とも語る。

  • ブラザー販売では多様な働き方の実現が成功しつつある。在宅勤務制度についても、コロナにかかわらず継続する考えだ

コロナ禍によって生まれた新たな働き方では、まだまだ解決しなくてはならない点も少なくない。

同社では、コロナ終息後も全社員を対象とした在宅勤務制度を継続する考えを示すが、今後、ハイブリッドワークが働き方の基本となるなかで、在宅勤務とリニューアルしたオフィスとを組み合わせて、新たな働き方の確立に挑戦していくことになりそうだ。

ブラザーでは、イメージキャラクターに女優の水野美紀さんを起用した「その業務に、はかどる改革を!」を打ち出し、「それ、ブラザーにしません課」を通じて、「あなたの現場を、より速く、より便利に、より効率的にはかどる改革!」を提案している。

三島社長は、「オンラインとリアルが共存する、新しい働き方のはかどる改革によって、ニューノーマル時代の働き方を模索する」との姿勢をみせる。

本社オフィスのリニューアルによって、まさに、それを実践する体制が整ったといえる。