前編から続く)

VAIOは、ソニーから独立して10年目の節目に、ノジマグループ入りするという大きな転換点を迎えた。そして、2025年5月には、ひとつの目標として掲げていた売上高500億円を、独立10年目にして初めて突破する見込みであるとともに、2025年以降は、海外事業を本格化させる姿勢をみせる。

VAIOの山野正樹社長への直撃インタビューの後編では、これまでの10年のVAIOを振り返ってもらうとともに、2025年のVAIOの新たな事業戦略について聞いた。また、「VAIO第3章」で目指すこれからのVAIOの姿についても語ってもらった。

  • VAIOがはじめる「第3章」 ソニー独立から10年、転機のノジマ入り - 山野正樹社長に聞く (後編)

    VAIOの新たな事業戦略について、前編に引き続き、VAIOの山野正樹社長にお話を伺った

「VAIO」のポテンシャルは無限にある、「日本製」も重要な時代へ

―― VAIOはソニーから独立して10年の節目を迎えています。この10年はVAIOにとって、どんな期間だったといえますか。

山野: ソニーから独立したときのVAIOは、数100億円もの赤字を計上する体質の企業でした。そこで、大規模なリストラを行い、240人という規模で再スタートし、ターゲットを絞り込み、数年をかけてなんとか黒字化しました。

再スタートした当初は、ソニー時代の遺産が頼りであり、PCだけでビジネスをやれる自信がない状況であったのも事実です。そこで、ロボットやドローンをはじめとしたいくつかの新規事業を開始しました。しかし、結果としては、それらはうまくは行きませんでした。そうこうしているうちに、本業であるPC事業も、ソニーの遺産が通用しなくなり、プレミアムニッチという戦略も、事業を縮小させる悪循環に陥るきっかけとなりました。

そうしたなかで、私は、2021年6月から、VAIOの社長を就くことになったわけです。外部から来たこともあり、VAIOの情勢を客観的に見ることができたわけですが、そのときに私が感じたのは、VAIOには、いいところがたくさんあり、これを訴求すれば、本業で復活できるポテンシャルがあるということでした。

そこで新規ビジネスはすべて止めて、本業であるPCに集中することにしました。VAIOの良さを失わずに、ボリュームゾーンにも展開できるPCを投入し、それが多くのお客様に評価され、売上高も2倍に拡大しました。このときに、VAIOの社員は自分たちの製品に強い自信を持ったと思います。

そして、高い成長を遂げているいまのタイミングで、ファンドから離れ、事業会社の傘下になったことは、これからさらなる成長へと舵を切れる環境が整い、PCを中心に事業を拡大させる体制を強固にできるといえます。VAIOが、お客様に求められている存在となり、それを実現できる企業へと戻りつつある今の状況を、さらに加速させることができます。 私は、社員に対して、「VAIOのマーケットシェアはまだまだ小さい。ポテンシャルは無限にある」ということを言っています。

企業におけるPC調達担当者を対象に調査すると、選定時にVAIOを想起する比率はわずか4%です。これはVAIOの市場シェアとほぼ同じです。しかし、顧客満足度を測るNPS(Net Promoter Score)では、VAIOがWindows PCとしては1位であり、VAIOを使った多くの人が、他の人に薦めたいと回答しています。つまり魅力があるのに、知られていないのが、いまのVAIOの実情です。もっとVAIOの良さを知っていただく必要があります。そして、コストももっと下げていかなくてはなりません。VAIOの認知度を高め、良さを知っていただき、それによって販売が増えれば、シェアがあがり、より良いものを、より低コストで提供できるという循環が作れます。

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VAIOはまだまだ成長します。成長に向けて、好循環を構築するために努力をしていきますが、ここに飛び道具のようなものはなく、愚直にやっていく必要があります。

―― 日本のPC市場における成長のポンテシャルがVAIOにはあると。

山野: 私は、これからのPCは、なにを買ってもいいという時代では無くなると思っています。最大の理由は経済安全保障です。10年前まではグローバリズムの時代であり、最も安くモノを作れるところで作り、自由貿易によって輸出入すれば、世の中が豊かになる時代でした。しかし、地政学的な問題や、昨今の関税措置などによって、その状況は様変わりしています。

日本はまだグローバリズムを引きずっているところがあり、どこで作られたPCであるのかということを、世界の主要国ほど気にしていません。私には、本当にそれでいいのか、という危機感があります。日本のPCメーカーの多くは、グローバルリズムの時代に、外資系企業に事業を売却したり、撤退したりしてしまい、いまや、日本で流通しているPCの約90%が中国産だといってもいい状況です。しかも、「AIの民主化」と言われるように、AIのパーソナライズが進展すると、ローカルのPCに様々な個人情報が蓄積されることになります。これらの情報をしっかりと守ることができるセキュリティが確保され、安全に利用できるのかどうかといったことにも着目しなくてはなりません。

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いまや、PCは社会インフラのひとつです。PCが無くては仕事ができません。そのPCを購入する際に、日本の資本の企業が、日本で作ったPCを選択することは、これから重要な要素のひとつになると考えています。デカップリングの世界が訪れるなかで、VAIOは、日本市場において、優位なポジションを取れる可能性があると思っています。

設備投資や開発投資の機会、海外市場への注力も

―― 2014年7月1日に、VAIOが10周年を迎えたとき、山野社長は、「VAIOがやっと離陸できる段階に入ってきた」とコメントしていました。ノジマグループ入りで、VAIOの離陸には弾みがつきますか。

山野: 離陸においては、大きな追い風になりますし、ノジマグループ入りによって、成長を推進するためのエンジンが置き換わったという言い方ができるかもしれません。ノジマグループ傘下の企業との連携も期待できますし、これまで以上に、VAIOの成長に向けた可能性が広がるのは確かです。

―― 今後、設備投資や開発投資は拡大していきますか。

山野: 業績の急成長にあわせて、この2年間で設備投資や開発投資には力を注いできました。老朽化していた生産設備もありましたから、厳しい予算のなかでも、優先度が高いところから更新し、それはこれからも継続します。近いうちに基板実装ラインも更新する予定です。また、生産管理システムの強化や、顧客向けシステムの開発を進めています。

設備投資や開発投資といった観点でも、ノジマグループ入りした効果があると思っています。これまでは、ファンド傘下で、LBO(レバレッジド・バイアウト)ローンを組み、厳しい借り入れ条件をもとに、高い金利で借り入れていたわけですが、ノジマグループ入りしたことで、借入の際に、金利面でも有利になるなど、財務面でのバックアップが期待でき、設備投資や開発投資がしやすくなるといえます。これによって、多くのお客様に喜んでいただけるように製品ラインアップを増やすこともできますし、海外向けにも機種を増やしていくことができると思っています。

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―― 2025年からは、海外事業にも力を注ぐ計画を打ち出しています。この進捗はどうですか。

山野: いまのラインアップのままでは、海外市場に展開するには、価格が高いなど、いくつかの課題があると思っています。そこで、これまでとは異なる「グローバルプラットフォーム」を構築する開発プロジェクトをスタートしています。これによって、日本のお客様が感じられているVAIOのメリットを、海外のお客様にも感じていだたけるような製品を投入することができます。

また、米国市場においては、いくつかの量販店との取引を開始し、さらに、B2B向けの販売強化に向けて、新たなパートナーとの連携を行う予定です。さらに、2024年末からは、シンガポールでの販売を新たにスタートしました。シンガポールには、ノジマグループの量販店であるコーツがありますが、この話は、ノジマグループ入りする前から進んでいたもので、B2Bルートでの販売を強化するとともに、ベスト電器の店舗を通じた販売も行います。

今後は、機会があれば、マレーシアやベトナムにも展開していきたいですね。一方、中国での販売は維持し、新たな販路の開拓も進めていますが、市況の厳しさがあります。ブラジルでは、POSITIVO INFORMATICAとのライセンス契約により、VAIOブランドのPCを継続的に展開しています。2025年からは、米国、中国、東南アジアを重点市場として、海外事業を本格化することになります。

2025年の新章スタート、未来の「VAIO」の地盤をつくる

―― VAIOは、2025年度(2024年6月~2025年5月)に、売上高500億円の突破を目指していますが、いまの手応えはどうですか。

山野: とても順調であり、目標としていた500億円は確実に超える見通しです。とくに、3月、4月は旺盛な需要に支えられて、かなりの注文をいただいており、工場もフル稼働で対応しなくてはなりません。

2025年10月のWindows 10のEOSに向けて、この勢いはしはらく続きそうです。しかし、それ以降、市場が縮小することが見込まれます。そのなかで、VAIOのビジネスを落とさずに、市場での存在感を高めていくための施策が必要になります。

今後、VAIOをどう成長させていくのか。それに向けた準備をいまから進めています。ちなみに、2025年1月以降の業績については、VAIOから発表するのではなく、ノジマグループとしての発表になります。

―― 2025年はどんな点に力を注ぎますか。

山野: 急成長させることは考えていません。慌てずに着実に販売数量を増やしていく考えであり、そのために開発および生産体制を強化し、B2B、B2Cの販路を整え、VAIOファンを増やして、引き続き、ファンを鷲掴みにする製品を投入していくということを繰り返していきます。出荷数量が増えればコストが下がり、より購入しやすい製品を投入できますし、さらにVAIOファンが増えるという好循環が生まれます。2025年は、これを将来に渡って支えるための社内インフラの整備にも力を注ぐ1年になります。将来、お客様が増えても、サポートが疎かになり、満足度が下がるといったことがないように、いまからその地盤づくりに力を入れていくことになります。

そして、先に触れたように海外事業も強化していくことになります。さらに、VAIO認定整備済PCについても、2025年からは、よりビジネスを強化します。VAIOの法人向けPCビジネスが立ち上がったのが約3年前で、2025年後半からは、それらが更新需要を迎え始めます。これらのPCを1000台単位で買い取って、再整備し、市場に流すことができるようになるタイミングに入ってきます。VAIO認定整備済PCのベースになるPCが調達できるようになるというわけです。また、モバイルディスプレイの「VAIO Vision+」も好調なスタートを切っており、2025年以降も、こうしたPCを補完する製品で、VAIOワールドを作り上げていきたいと思っています。

2025年は、VAIOは、ノジマグループ入りし、第3章がスタートするという大きな節目を迎えたわけですが、VAIOは、なにも変わらず、これまで通りに事業を進めていくことになります。繰り返しになりますが、私が社長を続けるということは、方針に変更はないということです。

―― いつまでVAIOの社長をやりますか?(笑)

山野: 私は今年3月で、64歳になりますが、野島社長からは、80歳まで社長を続けてはどうかと言われていますよ(笑)。そこまでは続かないと思いますが(笑)

―― 「VAIO第3章」では、どんなVAIOになりたいと考えていますか。

山野: お客様との関係を、より強固なものにしていきたいですね。法人ユーザーにも、個人ユーザーにも、VAIOを安心して使ってもらい、製品やサポートにも満足していただけるようにしていきます。国内資本のPCメーカーとして、その強みを生かして、お客様にしっかりと寄り添っていきます。これをやり続けることによって、「VAIOもいろいろとあったけど、いまにつながってよかったね」といっていただき、評価していただけると思っています。

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「VAIO第3章」では、「VAIO第1章」を超える存在になっていく必要があります。第1章では、ガジェットとして高い評価を得て、VAIOというブランドが定着しました。第3章では、お客様にとって、信頼できる良き相棒であることを目指します。ガジェットから、パートナーになり、人々のライフスタイルに関わる存在になっていきます。便利になるというだけでなく、愛おしく、信頼でき、肌身離さずに持っていたくなる存在、持っているだけで幸せになる存在になりたいですね。

―― VAIOユーザーに対して、メッセージをお願いできますか。

山野: お伝えしたいのは、VAIOはなにも変わりません、ということです。ノジマグループ傘下となり、販路が広がるというメリットはありますが、デメリットになる部分はひとつもないと思っています。VAIOは、いままで通り、よき相棒となれるようなPCを作っていきます。それを使っていただくことで、みなさんの生活が豊かになり、仕事がはかどれば、私たちも幸せです。その取り組みに、これまで以上に邁進していきたいと思っています。これからもVAIOを安心して購入していただき、使っていただけます。私たちが努力を続けることで、これまで以上にVAIOファンを増やしていきたいですね。