パナソニックが、オートノマスサプライチェーンの実現に向けて、新たな一歩を踏み出した。
パナソニックは、現場でのエッジデバイスやIoTの活用とともに、同社が持つインダストリアルエンジニアリングの実績、買収したBlue YonderのSCMソフトウェアプラットフォームを活用することで、将来に向けて、自律的(オートノマス)なサプライチェーン環境の実現に取り組んでいる。
今回、製造工程における自律化を実現する「オートノマスファクトリー」の提案を新たに行うことで、オートノマスサプライチェーンの実現を加速する考えだ。
パナソニック 代表取締役 専務執行役員/コネクティッドソリューションズ社 社長の樋口泰行氏は、「パンデミックやそれに伴う需給の急変、サプライチェーンの逼迫など、計画しづらく、予測不能な変化の波が絶え間なく押し寄せており、製造業は設備の増強だけでは対応しきれないフェーズに入っている。サプライチェーン全体でも、こうした急変にも対応できる機動力、柔軟性が求められている」とし、「パナソニックは、製造、物流、流通分野の人やモノが動く現場の困りごとを、テクノロジーとエッジデバイスで解決する現場プロセスイノベーションに取り組んでいるが、今回のオートノマスファクトリーの提案では、まずは電子部品実装ラインの自動化を進め、これを起点に、将来はフロア全体の自動化につなげ、不測の事態が起きても、生産計画の見直しを行い、自律的に対応できる工場の実現につなげたい。製造分野において、要望や供給の変化に即応可能で、自律的に進化し続ける工場をオートノマスファクトリーとして定義し、具体的なプラットフォームを提供することで、エッジ設備が自律的に稼働し、連携することで、24時間365日止まらない工場の実現を目指す」などとした。
製造計画、材料準備、製造実行、保守管理までのライフサイクル全体に渡る提案を進め、フィジカル領域ではファインプロセスを追求したエッジ設備の導入、人に頼った作業の自動化へのシフト、生産実行をコントロールするソフトウェアを提供する一方、サイバー領域では、計画立案などを行う管理システムなどを用意。トータルソリューションとして提供する。
製品としては、パナソニックスマートファクトリーソリューションズが、実装ラインの自律化を実現する「NPM Gシリーズ」を、2022年2月から順次投入することになる。
具体的には、生産の過程で品質に影響を及ぼす要素とされる5M(huMan、Machine、Material、Method、Measurement) を、AIによって自律的に制御し、進化させるプロセスコントロールシステムの「APC-5M」を提供するほか、印刷工程の自動化機能を備えたスクリーン印刷機「NPM-GP/L」、実装部品を自動供給する「Auto Setting Feeder」、業界最高レベルの装着精度を実現するモジュラーマウンター「NPM-GH」などを投入。実装ラインの自律化により、オートノマスファクトリーの実現を目指す。
パナソニック コネクティッドソリューションズ社 常務 プロセスオートメーション事業部事業部長兼パナソニック スマートファクトリーソリューションズ 代表取締役社長CEO の秋山昭博氏は、「ファインプロセスの進化を追求する上では、エッジ設備の進化だけでなく、5MをAIで自律的に制御し、管理することが大切であり、それがオートノマスファクトリー実現のキーポイントになる。ここでは、管理すべき変動要素はなにかという観点に加えて、変動要素のバラツキによってトラブルが発生している点に着目し、フィジカルでの生産実行と、サイバーでの計画立案を同期させ、実測データによって状態を監視し、それをもとに、工程内で変動要素を自律的にコントロールできるようにした。判断をAIで知能化した『計画立案AI』、『生産実行AI』を提供することで、5Mのバラツキを極小化したモノづくりが実現できる」などと述べた。
APC-5Mは、生産実行AIを搭載し、5Mのバラつきをリアルタイムに監視し、ラインの変化を検出。蓄積したデータに基づいた分析を行い、要因を特定し、経験則に従って、自律的に課題を解決する。「使えば使うほど、工場に最適化した精度の高いシステムへと成長していく」という。また、5Mのリアルタイム監視でユニットの状態に着目。是正が必要なユニットと時期を判断し、稼働に影響がないタイミングで、設備のメンテナンス機能を実行したり、上位システムとの連携で交換指示を行う予知保全ができるという。
NPM-GP/Lは、印刷工程の自動化機能を備えたスクリーン印刷機で、印刷精度±3.8μm、サイクルタイムは12秒という世界トップレベルのはんだ印刷性能を実現。また、印刷工程の完全自動化機能をオプションで用意。印刷用のマスクを、最大10品種までストック可能なマスクチェンジャーをはじめ、はんだの自動供給、回収、基板を支える下受けピンの自動交換により、機種切り替えに必要な作業を自動化する。「長時間連続稼働での多品種生産が可能になる」という。
また、Auto Setting Feederは、従来のフィーダーと互換性を持ちながら、16年ぶりのモデルチェンジを行ったもので、業界で初めて、4mm~104mm幅の表面実装部品を供給。テープに対して、カバーテープの自動剥離を可能とし、実装部品の自動供給を実現。また、次のテープを供給するローディングユニットにより、前のテープが終了すると、即座に次のテープを自動で補給し、部材補給への人の介在を無くした自動化を実現する。さらに、専用台車を用いることで、現行のNPMやNPM Xシリーズでも、本体を改造することなく使用が可能になる。
さらに、業界最高レベルの装着精度を実現するモジュラーマウンターであるNPM-GHを製品化。14年ぶりのフルモデルチェンジを行ったという。小型軽量化した実装ヘッドにより、最大4万1000cphの高い生産性を実現しながら、±15μmの高精度領域を実現。また、業界初の±10μmの超高精度仕様を実現できる。さらに、操作画面の大型化によるユーザーインターフェースの改善と、前後同時操作など、操作性を大幅に向上したという。
また、パナソニックでは、2023年以降の提供を目指して、部材のフロア移動を自動化する自律走行搬送ロボットである「多目的AMR」の開発も進めており、用途に応じた自動化ユニットを搭載することで、トレイの供給のほか、フィーダー搬送、ノズル搬送なども可能にする。
そのほか、これまで提供している材料管理、生産計画に関するソフトウェアに加えて、自動化機器に対応し、適切な動作指示を行う「統合ナビ」を開発。それぞれのソフトウェアに5Mの変化に追随する知能化機能を「計画立案AI」として付与し、システムにおけるバラツキを抑えることで、TCO削減を実現するという。
パナソニックのオートノマスファクトリーでは、これらの製品群を活用し、自律化を実現することになる。
フィジカル領域では、エッジ設備や生産オペレーションから生まれるビッグデータを収集。5Mの変動要素に対して、常に状態を監視し、見える化する。ここでは、状況変化を捉えて、変動があれば最適と思われる対策を即断即決で実施。変動が抑制されるまで対策と自己検証を繰り返し、効果を学習する。このループを繰り返すことで、フィジカル領域では、現場の5Mのバラツキに対するノウハウを学習して、立案計画達成への精度を高めることができるという。「これにより、生産計画を確実に達成し、設備総合効率(OEE)の最大化を実現する」という。
さらに、生産計画そのものを進化させるために、サイバー領域における知能化を図ることになる。ここでは、蓄積した5Mデータをもとに、最適な計画を立案。計画を達成するために作業指示と同時に5Mのリソース配分をフィジカル領域に指示。フィジカル領域からフィードバックされた実績情報から、計画との差を分析し、5Mそれぞれの改善と、より現場の実態にあわせた次の計画を立案する。「このループを繰り返すことで、サイバー領域では、5Mがバラツクことへのノウハウを学習し、計画立案の精度を高め、ムダ取りによるスループットの向上を実現する」という。
この結果、TCOを削減するためのリソース効率の最大化を実現。フィジカル領域とサイバー領域のそれぞれに適した知能化を行うことで、サイバー領域で立案した最適計画をもとに、フィジカル領域では5Mのバラツキを抑制し、設備停止時間が減少し、計画通りの生産を行える。
「日々の経営数字の改善への取り組みや、新規ビジネスの受注を効率的に判断できるようになり、ROIに直結する投資判断の質の最大化が図れることになる」としている。
このように、パナソニックが持つ世界トップクラスの先進的エッジ設備による精緻精密加工を行うファインプロセス、5Mプロセスコントロールを搭載したファインプロセスをベースとした自動化と知能化によって、生産計画達成の最大化、リソース効率の最大化、投資判断の質の最大化を提供。工場全体の収益向上に貢献するのがオートノマスファクトリーのコンセプトになるという。
秋山氏は、「パソコンやサーバー、EV向けの車載基板の需要拡大が見込まれており、実装機の世界市場は、年平均成長率5%増で拡大し、2030年には6,300億円の市場規模が見込まれている。パナソニックは、世界の実装機市場において、約3割のシェアを持っているが、市場成長を上回る事業拡大を目指している。また、今後は、実装機だけでなく、半導体製造装置、フラットパネル製造装置、溶接機やレーザー加工分野においても、精緻精密な加工プロセスが求められる。これらの分野でもオートノマスファクトリーを実現したい」と述べ、2020年度の1,900億円の事業規模を、2021年度には2桁成長を見込み、2030年には4,000億円にまで拡大させる計画を示した。
秋山氏は。「実装機の完全自動化による24時間365日の稼働は、2030年頃になるだろう。来たるべきオートノマスサプライチェーン時代に向けて、パナソニックはオートノマスファクトリーの実現に注力する」と述べた。
パナソニックが目指すオートノマスサプライチェーン実現への道のりはまだ長いが、オートノマスファクトリーの具現化はそれに向けた大きな一歩となる。