中国のシャオミは2025年3月22日に、同社製品を直接販売する実店舗「Xiaomi Store」をオープンしたほか、オンライン専用ブランド「POCO」を国内で本格展開することを打ち出すなど、国内での独自販路開拓を積極化している。一体なぜ、シャオミは国内での自社販路を重視するようになったのだろうか。

日本初の常設店舗をイオンモールに展開

中国のシャオミが2019年末に日本に進出してからおよそ5年半が経過したが、紆余曲折ありながらも日本で継続的に製品を投入。国内スマートフォンシェア上位にランクする機会も出てくるなど、徐々に存在感を高めつつある。

そのシャオミが2025年に入って非常に大きな動きを見せている。その1つが「Xiaomi Store」を国内で初めて出店したことだ。

シャオミはお膝元の中国をはじめ、進出している多くの国で実店舗のXiaomi Storeを展開しており、スマートフォンをはじめとした多くの自社製品を直接販売している。それゆえ日本でも、以前からXiaomi Storeの展開を検討していたようで、2024年には東京・渋谷に期間限定のポップアップストアを展開。さらに国内で取り扱う商品の数も大幅に拡大し、白物家電だけでなくボールペンやサングラスなど非家電製品も扱い始めたことには驚きの声もあった。

  • シャオミは国内でのXiaomi Storeの本格展開に備え製品ラインアップを拡大しており、2024年8月28日には家電やテレビなど、スマートフォン新製品の姿がない新製品発表イベントも実施していた

    シャオミは国内でのXiaomi Storeの本格展開に備え製品ラインアップを拡大しており、2024年8月28日には家電やテレビなど、スマートフォン新製品の姿がない新製品発表イベントも実施していた

そしてついに2025年3月22日、埼玉県のイオンモール浦和美園店にXiaomi Storeの第1号店を正式にオープン。4月5日にはイオンモール川口店もオープンするとしており、イオンモールを中心とした店舗展開を進めようとしている様子がうかがえる。

なぜポップアップストアを構えていた都心部ではなく郊外のショッピングモールに展開するのかという疑問もわく所だが、幅広い製品を継続的に購入してもらい、来店頻度を上げるには、ファミリー層を獲得しやすいショッピングモールの方が、メリットがあるようだ。

  • シャオミは2025年3月22日に、日本初の常設店舗「Xiaomi Store」をイオンモール浦和美園店内にオープン。オープン当日は非常に多くの人が訪れたようだ

だがそもそも、日本でスマートフォンは携帯電話会社からの販売が主となるため、メーカーが直接実店舗を構え、販売につなげているのは「Apple Store」を展開するアップルくらいなもの。サムスン電子も「Galaxy Harajuku」などを展開してはいるが、販売よりもプロモーションに重きを置いた内容となっている。

それだけに、実店舗を構えて自社販路を拡大するシャオミの動きは、国内ではかなり異例なものといえる。だがシャオミが見せている動きはそれだけにとどまらない。

自社販路を開拓してこそシャオミの強みは生きる

もう1つの大きな動きとなるのが「POCO」ブランドの国内本格展開だ。POCOはシャオミのスマートフォンのブランドの1つで、ハイエンドの「Xiaomi」やミドル~エントリークラスの「Redmi」ブランドとは異なり、ラインアップはハイエンドからエントリーまで幅があるものの、オンラインでの販売に絞ることでより低価格で販売する、コストパフォーマンス重点を置いたブランドとなっている。

それゆえ海外でPOCOブランドは、高い性能のスマートフォンを安く購入したい人、より具体的に言えばスマートフォンでのゲーミングを重視する人に人気のブランドとなっている。ただ日本ではこれまで、POCOブランドの製品は一部モデルが時々販売されるのみにとどまり、XiaomiやRedmiブランドと比べると存在感は小さかった。

だがシャオミは2025年に入り、そのPOCOブランドを日本でも本格展開すると発表。それに伴って製品ラインアップも拡大するとしており、実際ミドルクラスの「POCO X7 Pro」を2月12日に発売したのに続き、3月27日にはハイエンドモデルの「POCO F7 Ultra」と「POCO F7 Pro」を、グローバル発表と同時に発売している。

  • シャオミは「POCO」ブランドを国内でも本格展開するとしており、2025年3月27日には「POCO F7 Ultra」などを、グローバル発表に合わせて発売することを発表している

Xiaomi Storeの開設にPOCOブランドの本格展開と、相次いで大きな動きを見せるシャオミだが、そこには今後を見据えた大きな狙いがあるものと考えられる。それはシャオミの本領を発揮できる、自社製品の直接販売を拡大することだ。

シャオミは中国メーカーの中でもとりわけコストパフォーマンスが高いことで知られているが、それを実現しているのには世界3位のシェアを生かした調達面でのスケールメリットに加え、特定の市場向けカスタマイズを省くことで同じ製品を世界各国へスピーディーに横展開することにより、コストを抑えていることが大きい。

だが日本では携帯電話会社のショップによる販路が非常に大きく、そこでスマートフォンを販売するにはFeliCaの搭載や、世界的に使われていない周波数帯への対応など、日本市場に適した製品を求める携帯電話会社のニーズに応じて独自のカスタマイズが求められることが多い。

だがそうした携帯電話会社の方針は、シャオミのビジネス手法とはマッチせず本領を発揮できない。シャオミの優位性を生かすためにも、ローカライズする必要のない製品を多数販売できる、自社独自の販路開拓を国内でも必要としていた訳だ。

  • シャオミは自社販路で製品を多数投入する一方で、携帯電話会社から販売されているのは2024年の「Xiaomi 14T Pro」などに限られ、2025年にはまだ投入がなされていない

Xiaomi Storeの展開はその最たる例といえるが、POCOブランドもオンライン専用ということもあって携帯電話会社を通さないビジネスが主となる。それだけに一連の施策は、シャオミが自社の優位性を生かしたビジネスを日本でしやすくするための地ならしと見ることができよう。

ただそうはいっても、日本のスマートフォン市場は携帯電話会社からの販路が最も大きいことに変わりはないし、シャオミの国内市場でのシェアやブランド力はまだ大きいとは言えない状況にある。それだけにシャオミが国内での存在感を高めていく上では、優位性が生かせる自社販路と、優位性は生かしづらいが確実に販売数を増やせる携帯各社の販路とのバランスを、どのように取っていくのかという難しいかじ取りが求められることになるだろう。