従来の製造・販売ビジネスは終焉を迎えつつある。いくら高品質な製品を製造しても、価格面だけの差別化で市場競争を生き残るのは難しい。また、法に触れないレベルで不当廉売を仕掛けられれば業績悪化はもちろん、いずれ倒産の憂き目を迎えることとなる。正に悪貨は良貨を駆逐するだ。この構造に気付いた企業が自社のビジネスモデルを変えようとしている。それが「サービタイゼーション(Servitization)」である。

サービスエコノミーの一種に数えるサービタイゼーションは、製品販売から利益を得るのではなく、製品をサービス化し、包括ソリューションとして収益を得るビジネスモデルだ。ある意味サブスクリプションビジネスに類似するが、製品の保守情報や収集情報を顧客と共有し、潜在顧客の獲得や新ビジネスへの活用など利点は多い。

例えば小松製作所は油圧ショベルやフォークリフト、ダンプトラックなどの建機製品を販売する企業だが、昨今は「スマートコントラクション」は建機と建設現場、そこで働く従業員をITで有機的につなぐソリューションを提示している。旧来のアナログな現場にIT技術を持ち込み、多様な情報の可視化と効率性の向上を実現した。

  • 小松製作所やNTTドコモなど合弁会社となるランドログは、「スマートコントラクション」を支えるアプリケーション環境や3Dデータを提供。その結果、建機を含めた開発ソリューションをサービス化した

製造現場のIT化ソリューションを提供するIFSは、顧客のサービタイゼーション移行について次の3段階を示している。レベル1は製品や予備部品の供給、消費財の補充。レベル2では定期保守や修理、状態監視やヘルプデスクの用意。そしてレベル3では顧客とのサポート契約やレンタル契約、リスクと売り上げを共有する形を理想像として掲げた。

  • IFAが定義したサービタイゼーション移行の3ステップ(「ガートナー エンタプライズ・アプリケーション戦略&アプリケーション・アーキテクチャ サミット2018」より)

サービタイゼーションを数字の文脈から見ると、航空用エンジンの製造などを行うRolls-Royce Holdings(ロールス・ロイス・ホールディングス)は、ビジネスモデルの変更によってOEMに対するサービスの年間売り上げは5~10%増。25~30%の保守コスト削減を実現している。

政府が2017年6月に公開した「平成28年度 ものづくり基盤技術の振興施策」によれば、国内製造業4,514社のうち、今後3年間の国内売上高予想は増加(6.2%)、やや増加(33.0%)と回答する一方で、やや減少(14.7%)、減少(5.2%)と横ばい状況が見られる。他方で3分の2の企業が工場などのデータ収集に取り組みはじめた(前年度比26%増)が、具体的活用には至っていない。日本の製造業とその精神性や歴史を示す「ものづくり」は誇らしげな言葉だが、世界を取り巻く環境はそれを許さない。国内製造系企業が生き残る道はサービタイゼーションへの移行である。

阿久津良和(Cactus)