3月5日から5日間、両国国技館にて対戦格闘ゲーム『ストリートファイター6(スト6)』の世界大会「CAPCOM CUP11(CC11)」が開催されました。個人戦では翔選手が、チーム戦では「Good 8 Squad(G8S)」が優勝しました。
これまで「CC」は北米で開催されていました。そのため、今回、初の日本開催です。さらに、昨年の「CC」は『スト6』初の記念大会として優勝賞金100万ドルで話題になりましたが、引き続き、「CC11」でも優勝賞金100万ドルが継続しています。
「CC11」は、全世界で開催される大会「CAPCOM Pro Tour(CPT)」の優勝者や成績優秀者が参加できる招待制大会です。出場選手は全48名。そのうち日本人選手は板橋ザンギエフ選手、Shuto選手、ときど選手、翔選手、ふ~ど選手の5名です。
1~3日目に48名を8つのグループに分けてリーグ戦を実施。それぞれのグループから上位2名が4日目に行われるTOP16トーナメントに進出します。1位抜けはウイナーズサイド、2位抜けはルーザーズサイドで戦います。
4日目のTOP16トーナメントはダブルエリミネーション方式。ウイナーズサイドの選手は敗北するとルーザーズサイドのトーナメントに移動し、ルーザーズサイドで敗北すると脱落です。グループリーグは抜けるだけでなく、1位抜けをすることで大会を優位に進めるわけです。
5日目は「CC11」とは別枠の『スト6』のプロリーグ戦の世界大会「ストリートファイターリーグ(SFL):ワールドチャンピオンシップ」です。「SFL」のうち、日本開催のPro-JP、北米開催のPro-US、欧州開催のPro-EU、それぞれの優勝チームが巴戦を行い、上位2チームによる最終決戦で世界一のチームを決めます。
「CC11」のグループリーグは、日本人選手の翔選手とふ~ど選手が1位抜け、ときど選手とShuto選手が2位抜けで突破しました。ふ~ど選手は圧巻の全勝抜けを決め、トーナメントでの活躍も期待されます。
ときど選手は2日目に大崩れしてしまいました。2敗を喫し、3日目に臨みます。自力だけでは勝ち抜けることは難しく、他力に頼る結果となりながらも、見事針の穴を通すほどのわずかな望みを叶え、TOP16に進出しました。
TOP16は、翔選手が順調に勝ち上がり、ウイナーズファイナルを突破。グランドファイナルに進出します。ルーザーズサイドから勝ち上がって翔選手に挑戦するのは、チリの若きプレイヤー、わずか15歳のBlaz選手です。ウイナーズサイドで一度対戦しており、その時は翔選手が勝利しています。
Blaz選手は、リュウをメインキャラとしており、それ以外にもケンや豪鬼と、いわゆる胴着キャラクター全般を使うプレイヤー。ウイナーズサイドで翔選手と対戦したときはケンと豪鬼で挑みましたが、まったく歯が立たず完敗してしまいます。
ルーザーズサイドに落ちてからはメインキャラのリュウを使い、八面六臂の大活躍。そして、グランドファイナルでもリュウを出し、翔選手に再挑戦しました。結果、健闘したものの、翔選手がBlaz選手を撥ね除け、世界一の称号を手にしました。
「SFLワールドチャンピオンシップ」は、本節と同じルールの巴戦で3チームとも1勝1敗となりますが、ポイント差により「G8S」が1位抜け、Pro-USの「FlyQuest(FQ)」が2位抜け、Pro-EUの「Ninjas in Pyjamas(NIP)」が脱落になりました。
決勝戦は、プレイオフと同じルールで、70ポイントを先取したチームが優勝です。「FQ」がポイントを先行し、50-10の大量リードで、二巡目の大将戦に挑みます。大将戦は20ポイント入るので、ここで大将のPunk選手が勝利すれば、優勝が決まりますが、カワノ選手が踏ん張ります。なんとか勝利し、三巡目につなげました。
三巡目は「FQ」が3人ともキンバリーを出す奇策とも言えながらも理に適った作戦を展開します。しかし、「G8S」は三巡目をすべて勝利し、逆転で優勝を決めました。
日本開催で日本人選手と日本チームが優勝したのは、さすがに盛り上がらないわけがありません。しかも、会場は1993年に開催したSFC版『ストリートファイターIIターボ(ストII)』の全国大会の開催地です。
『ストリートファイター』シリーズをはじめとする対戦格闘ゲームは一時期、人気が低迷し、競技シーンも一部のマニアだけが参加、視聴するコンテンツでした。それが、1万人の参加者を集めた、社会現象とも言える『ストII』ブームの象徴である大会と同様の熱狂と興奮を覚える大会が開催できたことは、本当に素晴らしいことです。
大会の表彰式のセレモニーでは、辻本社長が登場し、来年の「CC12」も両国国技館で開催することを宣言しました。また、この熱狂と興奮を体感できることを幸せに感じます。
今回、会場に訪れることができなかった人も、是非、来年は観戦、応援に来てほしいところです。今回は5日間すべてに取材させていただきましたが、予選から目を離す隙もなく、どの試合も素晴らしいものでした。感動のプレイを見せてくれた選手には感謝しかありません。
次回が両国国技館での開催になったこともあり、最後に今回の大会で気になった点について、苦言を呈して、来年に反映されることを期待します。
今回、気になったのは大会会場のレイアウトです。国技館ならではの枡席に関してはなんら問題がありませんでしたが、アリーナ席はかなり特殊なレイアウトだと感じました。土俵の位置にステージを用意し、その周りを大相撲のように枡席にせず、パイプ椅子でアリーナ席にしていました。
つまりステージの4面にアリーナ席が配置されているのですが、正面には観客席がなく、選手控え席と配信機材を置いているコントロールルーム、実況席が置いてありました。
4面のアリーナの中でもっとも良い場所とされる正面に観客席を置かない斬新なレイアウトには驚きを隠せません。ちなみにタクティカルシューティングやMOBAなど5対5で対戦する大会だと、選手同士が対峙するようになっていますが、今回の対戦台は若干斜めになっているものの、選手は正面を向いています。
予選グループリーグはグループごとに選手が花道を通って、正面に向かって並び、MCが説明や紹介をするときも当然、正面に向かっています。コントロールルームはアリーナにある必要はなく、どうしてもアリーナに置かなければならないのであれば、正面の真裏、両国国技館で言えば向正面でも良いわけです。
実況席も向正面と東、西の間の斜めのスペースに置くことも多く、正面のアリーナ席を圧迫する必要はないでしょう。なんにせよ、一番の上席を観客に譲らない理由はありません。
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グループリーグの様子。選手は花道を通って、観客のいない正面に向かって立っています。手前にある椅子は選手控え椅子ですが、最大で半分も埋まりませんでした。実況席やコントロールルームはそのさらに手前にあります
また、来場者にはスティックバルーンが配られましたが、なぜか1人1本でした。スティックバルーンは通常、2本1組なので、これも驚きです。スティックバルーンは2本をクロスさせず、平行に叩くことで拍手では出し得ない破裂音を出すことができます。1本ではそれができず、手や他の物を叩いたところで本来の能力は発揮できないわけです。弁当を買ったら、箸が1本しか入ってないくらいの衝撃です。
さらに、会場内にはRed Bullのスタンドのほか、スナック菓子と焼き鳥を売っている売店しか開いておらず、キッチンカーも出ていませんでした。せっかく、飲食ができる枡席なのに、ほぼそれができません。すると、一度会場を出て、どこかで買ってくるしかないわけです。両国国技館としては持ち込みが禁止されているはずなので、その行為も微妙なところです。
「SFLグランドファイナル」では11チームのブースがあり、インターバルや開演前などにミートアンドグリートの時間を用意されていましたが、今回はそれもなし。「CC11」は個人戦なのでチームブースを出すのが難しいとしても「SFLワールドチャンピオンシップ」では「G8S」のブースしか出ていませんでした。
「G8S」も大会に出ているため、ブースに選手が立つことはできません。ただの物販ブースでしかありませんでした。それでも、「FQ」や「NIP」のブースも招聘すべきだったのではないでしょうか。この点については、「SFLグランドファイナル」のほうがお祭り感があったと感じました。
一応、2階に「SUZUKI」のジュリ仕様のバイクが展示してあり、跨がっての撮影ができました。また、『モンスターハンターワイルズ』、『カプコンファイティングコレクション2』の試遊ブースはありましたが、物足りなさは感じます。コスプレの更衣室も用意していなかったので、こういったイベントにしてはコスプレイヤーが破格に少なかったです。
試合中の撮影も禁止になっていました。最近はトップミュージシャンのライブでさえ、全曲録画、撮影可能な場合が多いなか、撮影が禁止であるのも驚きです。公開範囲を狭めて希少価値を高めるよりも、少しでも多くの人にリーチし、イベントを知る人の母数を高めることが現在は主流であると言えるので、時代に逆行している感すらあります。
試合内容や選手のがんばりにより大会自体の満足感の高さはありましたが、イベントとして観客へのホスピタリティやエンターテインメント性はかなり乏しいものだったと言えます。
最終日の篠原涼子さんのライブの開始時間も二転三転し、来場者を困惑させていました。篠原涼子さんのライブやブレイキンのステージなど、お祭り感を出すことに関しては大会を大きく邪魔をせず、パフォーマンスとしては最高で、観客も喜んでいたと思います。
1年を通じてCPTやSFLを盛り上げていたお笑いコンビ「NOモーション。」の出番がなかったのも、不義理に感じ、物足りなさを感じました。MCと実況をアールさんが兼任していたのも、これだけ大きな大会としては疑問を感じます。前回の「CCX」や「EVO Japan」でMCを勤めていた“イボー”でお馴染みの溝渕俊介さんや、ゲーム内実況を担当し、『スト6』のイベントにも多く関わっている平岩康佑さんなど、MCのみを担当する人はいると思うのですが……。「世界大会はやはり豪華だ」「こんなことまでやるんだ」という驚きはほとんど見られませんでした。
「使うべきところに使うコストや手間をカットするとこういう形になるんだ」というのを目の当たりにした印象です。世界各国からメディアが訪れていましたが、その対応も杜撰であったとしか言えず、国内メディアとしては恥ずかしい思いすらありました。
筆者が他国の世界大会を取材したときには、こういった対応をされたことがありませんので、海外メディアとしてはなおさらでしょう。
なんにせよ、来年はこの辺りを修正して、もう少し観客に寄り添ったイベントを考えてほしいところです。