"Less, but Seductive(一見控えめなれど、人を魅了するモノのありよう)"のデザインフィロソフィーを旗印に、2018年から日々の生活に根差した実用性と美しさの融合を目指した家電製品の創出を展開している日立グローバルライフソリューションズ。同社が6月に発売した過熱水蒸気オーブンレンジ「ヘルシーシェフ」MRO-W10Xもその哲学に基づき、大幅なデザインの刷新が図られた。

今回は本製品のデザインを担当した、日立グローバルライフソリューションズ 家電事業統括本部 国内家電事業本部 国内商品企画部の北嶋正氏に、新製品のデザインに込められた思いや開発秘話、エピソードなどを伺った。

  • 日立の過熱水蒸気オーブンレンジ「ヘルシーシェフ」MRO-W10X

    外観のデザインや操作インターフェースを刷新した、日立グローバルライフソリューションズの過熱水蒸気オーブンレンジ「ヘルシーシェフ」の2019年フラッグシップモデルMRO-W10X

レッドはヘルシーシェフのシンボルカラーだった

先日発表された、2019年の「グッドデザイン賞」にも選出された本製品だが、日立のオーブンレンジは実は2016年にも同賞を受賞しており、従来製品から既にデザイン性で高い評価を受けていた。同社では現在、"毎日の暮らしを彩るデザイン価値を創造"すべく、「Hitachi meets design PROJECT」と題したデザイン改革を推進している。今回の思い切ったモデルチェンジは、このデザイン改革の取り組みではあるが、消費者の1人として特に目を惹いたのがカラバリの刷新だ。というのも、ヘルシーシェフと言えば、今まではレッドまたはホワイトの2色というのが定番だったが、今回はメタリックグレーの1色のみだ。ヘルシーシェフのデザインに長年携わってきた北嶋氏は、カラーを変えてきた背景を次のように語った。

「去年のモデルが出た時に、カタログの表紙を見て、なんとなく違和感があったというか。それまでヘルシーシェフと言えばシンボリックカラーはレッドでしたが、カタログにある木目調のインテリアの中では、どことなく浮いた存在にも見えてしまうんです。実際、ご購入者を調査をしてみると、本体の一部に装飾したり、隠している方も少なくありません。インテリアにこだわる方にとっては、せっかくデザインした部分が隠す存在になっている。製品の機能や性能は満足していただいていても、デザインに対しては妥協している部分があるのではないかと。これまでは1つ1つのアイディアに対して形を置いていくという手法でしたが、使う人が自分好みに変えるとかではなく、周りと調和させることが重要なのではないかという考えに至りました。せっかく機能や性能がよくても、デザインで選ばれないというのは、メーカーとしても不本意なことですから」

  • 2016年にもグッドデザイン賞を受賞するなど従来からデザイン性も高く評価されていた「ヘルシーシェフ」の前年モデル。新製品はカラバリの変更も含め、イメージをガラリと変えた

シロモノからクロモノへ、無機質化を避けるデザインを目指す

そこで改めてデザインを一から考え直すにあたっては、これまでとは異なる方向性が探られた。一方で、新製品における技術・機能面でのコンセプトとしては、"コネクテッド"が最初から掲げられていた。つまり、昨今トレンドとなっている、家電のIoT化だ。新製品では、Wi-Fi機能を搭載し、スマートフォンと連携した、ユーザーの利便性を高めるさまざまな機能が新たに採用されているが、新デザインはこれを表現したものだという。「今回、製品としてはIoTの要素が強くて、デザインでもそこを表現したいと思いました。メタリックグレーが選ばれたのは、"先進性"を表現するという目的もあります。"シロモノ"というよりも"クロモノ"のイメージを表現することにしたんです」と北嶋氏。

とはいえ、一口にメタリックグレーとは言っても、質感などにより印象は大きく変わるものだ。調理家電という女性に使われることが多いカテゴリーの製品において、"尖り過ぎない"、"ヒューマン(人間的)な"デザインというのも大いに意識された。

  • 企画段階でのデザイン案の一部。"先進的"、"未来的"な商品をデザインでどのように表現するか? をテーマに議論と検討が重ねられた

「女性目線で見た時のインテリアとしてのイメージも大事にしました。クロモノと言うと無機質なデザインになりがちですが、素材感も大切に、例えば質感を上げるためにシボ加工や皮風の加工にするなどファブリックをうまく使うことや、窓みたいなフレームを設けることで道具感も出したり。本体自体も少し丸みを持たせたり、"R"にもこだわっています。色もメタリックグレーとしていますが、黒っぽすぎず、アルミの明るさよりは若干暗いようなイメージに仕上げていきました」

  • 日立グローバルライフソリューションズ 家電事業統括本部 国内家電事業本部 国内商品企画部の北嶋正氏。オーブンレンジをはじめ、IHクッキングヒーターなど、日立の製品のデザインを長年担当している

  • 従来モデルのハンドル(上)と、企画段階で試作された、ハンドル部分のモックアップの例(手前の2つ)。デザインとして際立たせるのではなく、本体と調和させることを意識して、素材感や質感が大事にされた

  • 新製品は、本体を正面から見た際にハンドル部分が浮き立たないようなデザインを目指した。よく見ると、カーブしている部分にプリントを施し、印影が出ないように工夫がされている

IoT家電という製品の先進性を表現しつつも、「人に寄り添う、あたたかみのある家電であることもデザインで示す」ことを目指したという、日立の「ヘルシーシェフ」の新製品。前半は製品全体のデザイン意匠のこだわりについて紹介したが、後編では「特にチャレンジングだった」と振り返る、インターフェースデザインと設計について語ってもらう。