2月6日からスタートした世界規模のスポーツイベントもすでに中盤を過ぎた。イタリアとの時差は8時間あるので、競技の多くは日本時間の夕方からスタートする。
現地の午前中に行われる競技が、日本では夕方の開始となり中継され、主要種目の決勝などは深夜や早朝の実施だ。宵の口からずるずると観戦し続けてそのまま寝ずに1日が始まってしまったり、しっかり宵寝して夜中に起き出して観戦したりするなど、きっと、楽しみ方は人それぞれだ。
テレビ中継される競技を見ていると気がつくのは、F1のエンジン音のような甲高い音だ。その正体はドローンの飛行音で、甲高い風切り音はプロペラの回転音だ。
2014年のソチ冬季大会で初導入されたドローンは、上空からの会場全景やコースの俯瞰のために活用されていたが、2024年のパリ大会ではFPV(First Person View)ドローンが使われるようになったという。
冬季大会で進化したFPVドローン中継
今回のミラノ・コルティナ大会ではより本格的なFPVドローンの活用が進んでいるそうだ。その映像は、毎晩のようにテレビに映し出されて、われわれに感動を届けている。
FPVドローンというのは一人称視点の高速ドローンだ。カメラがとらえた映像をリアルタイムで専用のゴーグルに転送し、まるでドローンの操縦席に乗っているかのような感覚で操縦できる。
特に、高速走行ができるのが特徴で、時速100~150キロを超える機体も珍しくないそうだ。ちなみにアルペンスキーの滑降競技では、時速160キロに迫る記録もあるそうだ。
それを撮影するにはマニュアルモードで自由自在に操作ができて、高速飛行で選手に追従し、柔軟なカメラワークができる機材が必要だ。競技や追走では一瞬の判断が命取りになるため、操縦を左右する映像は遅延を極限まで抑えた伝送が必要だ。
そのため、一般的なデジタル処理では完全な制御は難しく、デジタル処理でも専用の低遅延な映像伝送/制御ができるものや、あえてアナログ方式を使うケースもある。コンマ数秒のズレも許さない設計になっているという。
ワイヤーカメラとFPVドローンの役割分担
こうしたハードウェアを使ったドローンを熟練した操縦士が操り、雪面スレスレを滑走するダウンヒルの選手を追いかけたり、リュージュ、スピードスケートなどで、選手と同じスピードで駆け抜ける視点を実現した映像を撮影する。
そして、われわれの目の前のテレビ画面に映し出される。これまでの俯瞰映像では得られなかった「選手と同じ速度・同じ目線」での臨場感が、FPVドローンによって実現したといえる。
かつてのドローン映像は静的な空撮を目的にするものだった。また、トラック競技などでは、直線コースと並行して張られたワイヤーを、カメラが猛スピードで移動するCablecamなどのシステムが使われ、コースのすぐ横で併走しているかのような没入感でレースを観戦したりしてきた。
これらの仕掛けカメラは今もFPVドローンと使い分けられている。万が一の故障時にもワイヤーで保持されているため、選手や観客の上に墜落するリスクが極めて低く、競技の直上や至近距離での運用が許可されやすいからだそうだ。
さらに、AIによる自動追跡や超低遅延の伝送システムは、あらゆる放送映像に技術革新をもたらしている。ディープラーニングを使った画像認識技術が選手の位置をリアルタイムで特定したり、骨格検知などでリアル映像にデータを重ね合わせたり、スイッチャーの補助も行い自動でカメラを切り替えたりもする。
AIと回線と撮影技術が支える映像の最先端
こうして撮影した映像はプライベート5Gなどを使って伝送され、最新技術によって制作された公式映像として、各国の放送局に提供されることになる。
世界規模のスポーツイベントだけに、その映像を眺めているだけで、最先端の技術的背景を堪能できるはずだ。感動を呼ぶ映像は素晴らしい。そして、その感動は、こうしたテクノロジーが支えている。世界的なスポーツイベントではあるが、スポーツ以外の要素についても十二分に楽しめるんじゃないだろうか。
世界最高峰の放送技術に触れた直後だからこそ、日常のインフラの不安定さが余計に気になったりもする。同じような雪山のゲレンデにいても、スマホはしっかり電波をつかんでいるのにインターネットにつながらずPayPayでランチの代金を支払えないという体験をしたりすると、技術って何なのだろうと思ったりもするのだが……。
