瀬戸内ブランドコーポレーション(広島市)とKDDIが、瀬戸内エリアの観光産業活性化に関わる包括的連携協定を締結した。ICTを活用したソリューションを、瀬戸内エリア事業者へ普及・提供し、5Gなどの先端技術やデータを活用した観光マーケティングの支援と、観光をより魅力的にするビジネスサービスで連携するというもので、瀬戸内地域7県、つまり、兵庫、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛という広い範囲にまたがるプロジェクトだ。

  • 瀬戸内エリアの名産品の数々。ウナギからタマネギ、肉、レモンまでさまざま

NYタイムスが注目する瀬戸内の魅力

連携協定締結式には、瀬戸内ブランドコーポレーション 代表取締役社長 藤田明久氏とKDDI 理事 経営戦略本部 副本部長 松野茂樹氏が出席し、協定書を締結した。

瀬戸内は、NYタイムスで2019年に行くべきところの7番目として注目されたという。藤田氏は、海外から選ばれた瀬戸内が、これからも選ばれ続ける世界有数のディスティネーションになれるよう、今回の共創によって国内外の叡智が集まるエリアをめざすと話した。

具体的には、関係人口のみならず、交流人口増、定住人口増を実現し、5GやICT活用による観光ビジネスの学びの場を提供したり、おみやげコンクールなどの主催で食文化の発信をサポート。また、ファンドを持つ観光マネジメント組織「せとうちDMO」がリスクマネーを提供するのみならず、ベンチャー企業にKDDIのファンドを共同提供して投資し、産業活性化を実現するもくろみをもつ。

KDDIの松野氏は、通信事業者を使わない日本人が少ないと紹介。人口の3分の1がKDDIユーザーであるということから、大量のデータを持っていることを活かし、ビッグデータを使って観光開発をしていくことや、顧客接点の観点から、多くの顧客がau Wowma!などの付加価値サービスがを活用していることによる強みを活かしていきたいという。

また、テクノロジーの面では、IoTそして、XR(仮想空間技術の総称)などのICT活用ノウハウを駆使し、過去のベンチャー支援インキュベーションプログラム、オープンイノベーションファンドなどの成果を応用するとともに、KDDIの従業員4万人を関係人口化して観光活性化につなげていく。そのなかには、位置情報を活用した観光戦略立案も含まれ、同社がもつロケーションアナライザーやロケーションデータが深く関わる。

  • 締結書に署名する瀬戸内ブランドコーポレーション 代表取締役社長 藤田明久氏(左)とKDDI 理事 経営戦略本部 副本部長 松野茂樹氏(右)

ビジネスとして採算がとれる地方支援

KDDIとして、この取り組みは地方を支援するというものではなく、完全にビジネスとして採算がとれること、つまり、儲かることを前提にしているという。瀬戸内7県という広域プロジェクトは、日本全体を包含するプロジェクトの相似形でもあり、過去にピンポイントで熱心にやってきたことをどう広域化するのが今回の連携の課題だ。

「いろんな取り組みができるが、そのためにも、相手のスケールが必要だ。だからこそ、瀬戸内ブランドコーポレーションのように、大きな志をもっているDMOと組んで成功事例を作りたい。支援というのではなく共創していくことがポイントで、観光事業は大きな流れとして人を動かす点でエリア波大きければ大きいほど効果は高い。それぞれの魅力、個々の部分にどのテクノロジーを使うのかを熟考しながら、いろんなところでいろんなことをやっていく。全国規模で成功するにはある程度の規模感が必要で、だからこそ、今回は、広域を対象とするせとうちと組んだ」(松野氏)

KDDIの地方創生へのこれまでの取り組みは、言葉は悪いが「上から目線」的な支援を前提としたものがほとんどだったように感じている。だが今回は違う。真っ向からビジネスとして成立させることを狙っている。5Gのインフラも、これだけの広域に整備されるまでには、数年どころか5年以上の時間が必要だと予想されるが、インバウンド等が地域を移動する導線を、正確に把握できる通信会社の強みを活かし、これまでは点だった着目を線としてとらえた新しいビジネスを、継続的なビジネスに成長させることが同社の考えだ。これまでとはスケールが違うことが伝わってくる。そういう意味では、通信事業者はデータ商社としての色合いがますます強くなっていくように感じる。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)