Intelは新たな半導体プロセス「Intel 18A」を使った次世代プロセッサの本格量産の開始を年内に予定している。同社日本法人の大野誠社長は会見を開き、Intel 18Aによる半導体製造が予定通り立ち上がっており、既に過去最高水準の歩留まり(製造上の良品率)で製造が開始されていることを強調した。Intel 18A技術で製造されるPC向けプロセッサ「Panther Lake」(開発コード名)は年明け早々の市場投入が見込まれている。

  • インテル日本法人 代表取締役社長 大野誠氏。世界最先端の半導体製造技術であるIntel 18Aを用いて、既に米国内の同社工場で半導体チップの製造が始まっていることを紹介。製造のコストと利益率に影響する歩留まりも過去最高水準で良好だという

    インテル日本法人 代表取締役社長 大野誠氏。世界最先端の半導体製造技術であるIntel 18Aを用いて、既に米国内の同社工場で半導体チップの製造が始まっていることを紹介。製造のコストと利益率に影響する歩留まりも過去最高水準で良好だという

半導体製造技術の更新に手間取り、苦戦も伝わっていた同社だが、先月発表した直近の四半期決算は好調なPC需要にも支えられ、事前予想を上回る堅調と言えるものであった。同決算発表の中ではまた、経済安保の背景から米政府が主導している振興策も含め、今後同社が特に半導体製造技術への投資を重視する姿勢も示された。

  • Intel 18Aで製造されたPanther Lakeのチップ。大野氏は(従来製品では主力CPUの製造を台湾TSMCへ委託していたことを踏まえ)、これを「外部ファウンダリ委託にあまんじていた半導体製造を、念願の自社製造へ戻せるとともに、Intel 18Aのカスタマーゼロでもある重要な製品」と紹介

    Intel 18Aで製造されたPanther Lakeのチップ。大野氏は(従来製品では主力CPUの製造を台湾TSMCへ委託していたことを踏まえ)、これを「外部ファウンダリ委託にあまんじていた半導体製造を、念願の自社製造へ戻せるとともに、Intel 18Aのカスタマーゼロでもある重要な製品」と紹介

  • Panther Lakeに続いて、Intel 18Aを用いたデータセンター向けの次期Xeonプロセッサとして、「Clearwate Forest」(開発コード名)の投入も発表している

    Panther Lakeに続いて、Intel 18Aを用いたデータセンター向けの次期Xeonプロセッサとして、「Clearwate Forest」(開発コード名)の投入も発表している

米政府の振興策に加え、ソフトバンクグループからの大規模出資、さらに、ライバル関係にあったNVIDIAとの協業ならびに出資受け入れという動きもあり、同社の投資基盤も急速に改善している。今期から来年にかけてIntelは、Intel 18Aと、それによるPC向けとサーバー向け製品の成功で業界リーダーシップを取り戻すことを狙う。Intel 18Aは、米国で製造される半導体チップとして初の2nmクラスを実現し、世界最先端の微細化技術を持つ半導体製造工場が米国内で稼働することは同社だけでなく米政府にとっても悲願だ。

  • 今年3月にはIntelの新CEOにリップ・ブー・タン氏が就任。さらに社内外から最適な人材を集め経営陣を刷新。製品と製造技術の強化を図る体制へとシフトしているという

    今年3月にはIntelの新CEOにリップ・ブー・タン氏が就任。さらに社内外から最適な人材を集め経営陣を刷新。製品と製造技術の強化を図る体制へとシフトしているという

大野氏は、このIntel 18Aによるチップの需要増に、次世代AIとして期待されるエージェンティックAIとフィジカルAIによるコンピューティング需要の高まりが大きく影響するだろうと説明している。

エージェンティックAIとは、現在トレンドの生成AI(エージェントAI)が、人間の指示を受けてデータ分析やテキスト生成などを実行するのに対し、これらの様々な生成AIの上流にあたる、目標達成のために自らタスクを実行していく、簡単に言えば人間の代わりに指示役ができる自律的なAIだ。エージェンティックAIは、人間が継続的に指示を与えなくても、状況を学習しながら自律的に意思決定や行動を起こし、最初に設定された目標に向かってタスクを実行していく。つまり、幅広い業務の自動化が可能になっていく。

  • AIは今後、コンピューティングのニーズが学習から推論へと変わっていく。ワークロードの多様化にともない、ハードウェアやソフトウェアの要件も多様化し、GPUだけではコストパフォーマンスが悪化する場面が増えてくると予測

    AIは今後、コンピューティングのニーズが学習から推論へと変わっていく。ワークロードの多様化にともない、ハードウェアやソフトウェアの要件も多様化し、GPUだけではコストパフォーマンスが悪化する場面が増えてくると予測

もうひとつのフィジカルAIは、AIで自律的にロボットなどを制御することで、物理的な分野でも人間の業務を担わせるというもので、近年特に中国での自律ロボットの進化が話題になっていることもあり、イメージしやすいだろう。この進化が米国と日本でも活発になってきており、例えばAmazonが物流施設にフィジカルAI搭載のロボットを導入し人間に代わり働き始めている。大野氏は特に日本が人手不足の課題から、フィジカルAIでこれから世界の先頭集団に立てる可能性があると指摘する。製造業にサービス業、特に介護現場など日本は課題大国である反面、フィジカルAIを解決手段として真っ先に導入できる土壌も持っていることになる。

  • ロボティクス向けのPanther Lake搭載リファレンスボードやソフトウェアも用意する

    ロボティクス向けのPanther Lake搭載リファレンスボードやソフトウェアも用意する

  • Intel Coreベースのプラットフォームを搭載したフィジカルAIロボットの試作品。頭部カメラで物体を把握し、モノをつかんだり移動させたりすることができる

大野氏は、エージェンティックAIのようなAI処理に必要なコンピューティングの特性に、Intel 18AをはじめとしたIntelのチップはより有効に働くと説明する。現在の、同種のシステムに固有のソフトウェア、単一のLLMを載せた垂直統合型のコンピューティングではGPUと、そのGPUを大規模化していく手法が有効だが、エージェンティックAIは多種多様なモデルと複雑なワークフローの組み合わせとなり、学習も推論もGPUで行うような同種のシステムの大規模化で賄おうとすると効率が悪く、コストパフォーマンスが悪化していく。今後は、それぞれに要件の異なる多種多様なモデルにあわせて用意する、ハードウェアとソフトウェアに多様性のある、ヘテロジニアス(異種混在)なシステムこそ有効だといい、多様なCPUとGPU、オープンなソフトウェアを用意できるIntelの強みが出てくるという。

  • Intelがアプローチするスケーラブルなヘテロジニアス・システムのイメージ

    Intelがアプローチするスケーラブルなヘテロジニアス・システムのイメージ

この次世代AI戦略の鍵となるのがIntel 18Aであり、最初にその技術を用いて製造するPanther Lakeだ。Panther Lakeは「Intel Core Ultraプロセッサ (シリーズ3)」の名称で、来年早々には「AI PC」の個人向けノートPCに搭載され販売を開始する。電力効率とピーク性能に優れビジネスやゲーミングの分野で有力だが、エッジAIの活用拡大を一気に進める点でも期待される。同社は今後「優れたAI PCは優れたPCから始まる」というメッセージを打ち出していく。

Panther Lakeは、従来製品で電力効率に優れた「Lunar Lake」と、スケーラブルな性能に優れた「Arrow Lake」という、強みの異なる両者の「良いとこ取り」をしたようなチップであるとされる。プロセッサアーキテクチャの改良はもちろんだが、特にSoC上のCPUやGPUといった主要チップを個別に製造し、Intel独自の半導体パッケージング技術を用いて組み合わせることで、この良いとこ取りを可能にしている。ハードウェアのシステムの設計上で実装に有利な、同じサイズと接続ピン数のSoCパッケージでありながら、そこに搭載されるCPUやGPUの規模は用途に応じてバリエーションを持たせることができるようになった。

  • Panther Lakeは、Lunar Lakeの電力効率とArrow Lakeのスケーラブルな性能を両立するSoCとされる

    Panther Lakeは、Lunar Lakeの電力効率とArrow Lakeのスケーラブルな性能を両立するSoCとされる

  • コンピューティングタイル(CPUタイル)、GPUタイルなど、それぞれ個別に製造され、組み合わせる

    コンピューティングタイル(CPUタイル)、GPUタイルなど、それぞれ個別に製造され、組み合わせる

  • 同サイズ・同ピン数のパッケージでありながら、バリエーションを持たせた

  • Panther Lakeの3種のバリエーションのスペック一覧

    Panther Lakeの3種のバリエーションのスペック一覧

PC上のプラットフォームレベルでは、従来の同社チップと比較した場合、CPU処理のシングルスレッドで10%以上、マルチスレッドで50%以上の性能向上、GPU処理も50%以上の性能向上を実現。AI性能の目安となるTOPSはスコアは180TOPSと、Copilot+ PCの要件を大きく上回る。そして消費電力は処理性能あたり3~4割低い。

  • 従来製品と比べ、処理性能や省電力性が大きく向上している

    従来製品と比べ、処理性能や省電力性が大きく向上している

  • 国内PC出荷台数と、うちAI PCが占める割合。2025年の出荷台数が突出しているのは、Windows 10のEOSと、GIGAスクールの特需が要因。今後はAI PC比率が上がり全体を引っ張っていくことになると予測

    国内PC出荷台数と、うちAI PCが占める割合。2025年の出荷台数が突出しているのは、Windows 10のEOSと、GIGAスクールの特需が要因。今後はAI PC比率が上がり全体を引っ張っていくことになると予測

  • Panther LakeによるAI PCの登場に、国内PCメーカー各社から寄せられた支持のコメント

同社は、AI PCの普及がAIのエコシステム全体を拡大し、有用なAIアプリケーション開発を後押しするとして、この機会に日本国内のAI PC向けソリューションの開発支援にも乗り出すことも発表している。2025年11月から順次、「PEAR Experience by Intel」と銘打ってAIアプリ開発のワークショップを展開していく計画だ。ワークショップは開発者向けに限定せず、まずは門戸を広く、AIと人間が協働するアプリケーション開発の体験から提供すると説明しており、日本におけるAI開発に対する興味の裾野を拡げる役割も担う。

  • Intelはソフトウェアベンダーとの協業を推進中。既にAIモデルのサポートは900件を越え、500件のAI機能が実現している

    Intelはソフトウェアベンダーとの協業を推進中。既にAIモデルのサポートは900件を越え、500件のAI機能が実現している

  • 今月から、AIアプリ開発ワークショップ「PEAR Experience by Intel」を展開

    今月から、AIアプリ開発ワークショップ「PEAR Experience by Intel」を展開