カシオ計算機は4月22日に開催された取締役会において、増田裕一 代表取締役 社長 CEOが顧問に退き、高野晋 取締役 常務執行役員 CFOが代表取締役 社長 CEOに就任する代表取締役異動を決議したと発表した。同日開催された記者会見では、増田氏と高野氏が同席し、このタイミングでの社長交代の理由と今後の展望について語った。

  • 増田裕一現社長と高野晋次期社長

    現社長の増田裕一氏(左)と次期社長に決定した高野晋氏(右)

改革がひと段落したことで社長退任を決断したという増田現社長

会見でまずマイクを取ったのは現社長である増田氏。同氏が社長に就任したのは2023年4月で、就任から約2年での社長退任となるが、このタイミングでの退任の理由としては同氏が取り組んだ事業構造改革・組織風土改革がひと段落したことを挙げ、また2025年度が現中期経営計画の最終年となることも踏まえ、同社が成長軌道に乗るタイミングで次の世代にバトンタッチするべきであると考えて社長退任を決断したと語った。

  • 増田現社長

次期社長となる高野氏については、自身を含め3代の社長のもと、経営に一番近い立場で同社の財務面を牽引してきたと評価。経済的変化が激しく、ファイナンスや資本市場の充実が求められる現在の流れにおいて、新社長として適任であるとした。

  • 増田現社長による社長就任から2年間の振り返り

    増田現社長による社長就任から2年間の振り返り

増田氏は最後に社長を務めた2年間についての謝意を表明し、新体制への支援・協力を求め、マイクを高野氏に譲った。

改革路線を継承すると言明した高野次期社長

次期社長としてマイクを取った高野氏は、まず「財務担当役員として歴代社長を支える中で会社トップの重責をそばで感じてきた」とひとこと。このたびの社長就任について「大変重く受け止めております」と語った。

  • 高野次期社長

同氏は1984年4月にカシオ計算機に入社。2007年11月より経理部長、2009年12月に執行役員 財務統括部長を務め、2015年6月に同職に加えて取締役にも就任するなど、財務領域でキャリアを積み、2021年4月からは現職の取締役 常務執行役員 CFOとして財務面を統括してきた。現社長の増田氏が主力商品である時計の商品開発部門出身であるのとは対照的ともいえる経歴だ。

高野氏は「現在、当社を含めて企業を取り巻く環境は大きく変化しています」と語り、コロナ後の中国経済の低迷、世界の分断、各国の保護主義、関税問題などの課題を挙げた。そのうえで、こういった環境の中で事業構造改革・風土改革を推進した増田現社長の改革路線を継承すると言明するとともに、同社の成長を加速すべく「戦略的資本配分に基づく成長軌道の確立」「更なる経営基盤の強化」「風土改革に基づく人材戦略の推進」の3点に取り組んでいきたいと述べた。

  • 今後の重点方針

    今後の重点方針

「戦略的資本配分に基づく成長軌道の確立」については収益力強化による早急な資本政策の強化が最優先課題であるといい、中期計画最終年度である2025年度中に構造改革を完遂し、時計/教育の両事業の再成長に向けて経営資源を重点配分する方針。投資判断および日々の事業運営については、資本収益性/効率性を徹底し、持続的な利益創出を確実に進めていくと語った。

「更なる経営基盤の強化」については、コーポレートガバナンスの強化と情報セキュリティの強化を具体的な内容として挙げた。前者については、取締役会をスリム化して社外取締役比率を50%まで引き上げる方針。後者については、2024年に発生した不正アクセス問題にも言及し、現在抜本的な対策強化を図っているところだという。

「風土改革に基づく人財戦略の推進」については、2024年に設定したパーパス・バリューズの社内浸透を促進するとしている。高野氏は「当社の経営資産のうち、人財はもっとも重要な資産であり、不確実な時代においても持続的な成長を生み出す力を価値創造の原動力と考えています」といい、健全なインセンティブ、実力主義が徹底される評価制度の確立を目指すとした。

最後に同氏は、「2030年の企業価値最大化に向け、新たな成長路線を描くことが私の使命と考えています。変化する世界の中で、当社らしく探求を原点とし、独自の発想で変革を進め、ステークホルダーの皆さんひとりひとりに歓びを感じていただけるよう、再成長を実現してまいります」と締めくくった。

質疑応答で新社長としての意気込みを聞かれた高野氏は、「社長/会長に言われて非常に驚きました。いろいろな思いは頭をめぐりましたが、引き受けたからには増田の改革路線を引き継ぐとともにさらなる成長を図り、かつての成長力を回復させたいと考えています」と語った。「財務部門の経験をどう生かしていく考えか」という問いには、現在カシオ計算機のROEが厳しい状況にあることに触れ、平均点といえる8%水準の回復を図るなど、収益力を強化しつつ資本効率の向上に注力したいと答えた。

「高野さんの人物評をお聞かせください」とリクエストされた増田氏は、「私が社長を務める中で、いろんなことをほとんど一緒にやってきた。財務畑ということもありますが、資本市場から物を見る力がすごく強い。ものづくりからきた私の弱いところをしっかり支えてくれた。現実的で非常に真面目な点を信頼しています」と答えた。

さらに「社歴の中でもっとも印象に残っている仕事は」と問われた高野氏は、2009年3月期と2010年3月期に大きな赤字を計上した際に、社内が危機感をもとにひとつにまとまることで乗り切ったことを挙げた。

創業家外からは初の社長就任ということで注目を集めた増田氏は、2年と少しでの退任ということになる。増田氏が着手した事業ポートフォリオ改革はこれからが正念場で、同氏の路線を引き継ぐという高野氏も難しい決断を迫られる場面があるだろう。今後の高野氏の手腕に注目したい。