ヤマハは9月5日、同社が手がける「ライブの真空パック」をコンセプトにした取り組みにおけるアンバサダーとして、ロックバンド・LUNA SEAと契約を結んだと発表。ヤマハの新技術トライアルに協力し、LUNA SEAのライブに導入してライブデータを記録、資産化。ライブの再現コンサートも企画していく。
ヤマハでは2017年から、「ライブの真空パック」をコンセプトに、ライブやコンサートの体験を音楽・文化資産として保存することをめざして技術研究・事業開発に取り組んでいる。結成35周年を迎えたLUNA SEAがこの取り組みに賛同し、アンバサダーに就任することとなった。
同社はまた、臨場感あるバーチャルライブを実現する技術「Real Sound Viewing」の開発過程において、初となるエレキギター、エレキベースでの演奏再現、ドラム演奏の再現力を強化。LUNA SEAのメンバーからの評価を受け、求められる技術品質に応える再現力を実現したとしている。
LUNA SEAの「ライブの真空パック」アンバサダーとしての活動期間は、9月5日から2026年3月31日まで。ライブを“真空パック”し、無形の音楽文化資産として遺すことを目的として連携し、ヤマハの技術を用いてLUNA SEAのライブの体験の保存、再現の機会を創出していく。
「Real Sound Viewing」のふたつの新技術
Real Sound Viewingは、アーティストのパフォーマンスをデジタル化して正確に記録し、楽器の生音による演奏を忠実に再現するシステム。
音に合わせて、スクリーンやモニターに演奏するアーティストの姿を映し出すことで「あたかもアーティスト本人がそこで演奏しているかのような臨場感あふれるバーチャルライブ」を実現する。ヤマハが長年培ってきた技術と、スクリーンに映像を映し出し演奏する姿を再現する技術で、すでに国内外で高い評価を得ているという。
システムを構成するのは、「アコースティック楽器の振動再現」、「電気楽器の超高精度の信号記録再現」、「それらを支えるオーディオデータのデジタル処理技術」など。今回、初となるエレキギター・エレキベースでの演奏再現と、ドラム演奏の再現力の向上を実現したとしている。
エレキギターやエレキベースの演奏をリアルに再現するのが、高精度な「リアンプシステム」。
これらを用いてレコーディングするときに、アンプを使った音づくりを効率化するために生まれた「リアンプ」という手法があるが、さまざまな機材(ダイレクトボックス、オーディオインターフェース、リアンプボックス)を経由してギターアンプから音声を出力する仕組みで、各機器が個別に設計されていることから、音声データが通る過程で音質、音量が変化し、原音の忠実な保存、再現が難しいという課題があった。
そこで、音質の変化や劣化がなく、演奏者の繊細なニュアンスをリアルに伝え再現性を高める新たな「リアンプシステム」を開発。エレキギターやエレキベースの信号を記録するための入口から、記録した音声信号を出力する出口まで一貫したシステムとして設計することで、生演奏時の音の忠実な再現に成功したという。
もうひとつが、Real Sound Viewingの技術を用いたドラム演奏において、パワー・ヒッターの迫力ある演奏から繊細な演奏までを再現する、新しいバージョンのドラム再現システム。
主な特徴は「ペダルワークを含む演奏データの記録と再現」と、「ロックドラムも再現するハイパワーシステム」の2点にある。
具体的には、ドラム演奏時に使用されるハイハット、キックペダルを含む演奏の情報を、センサーを使い記録する技術を開発し、記録データを使ってペダルワークを含めた動作の復元を可能に。大幅な再現性の向上に成功したという。さらに、新開発のシステムによって迫力あるロックドラムの演奏の再現に成功し、キックドラムからシンバルまでドラマーの奏でる力強い音を再現することも可能にした。
ヤマハでは上記のReal Sound Viewingに加えて、高臨場感ライブビューイングシステム「Distance Viewing」というサービスも事業開発。それらを支える技術として、音響、映像、照明や舞台演出などのデータ形式を統一化する記録・再生システム「GPAP」(General Purpose Audio Protocol)なども開発し、実証を重ねてきた。
これらの新たなサービスや技術を活用することで、「観たくても観られなかったライブ」を保存し、その体験を時間と空間を超えて提供することを可能にする。現代の音楽だけではなく、伝承が危ぶまれる伝統音楽の保存や継承にも活用できるとのこと。
ヤマハは今後も、ライブやコンサート市場に付加価値を創出するとともに、それぞれの技術を段階的に市場投入し、さまざまな領域でのニーズの開拓と新たな価値創造に取り組んでいく。