東京・銀座の象徴的な存在として親しまれてきた「ソニービル」。7年におよぶ建て替えプロジェクトが現在進行中で、その最終形となる新しい「Ginza Sony Park」(銀座ソニーパーク)がついにその姿を表しました。まだ中には入れませんが、さっそくファンの間で注目を集めています。
8月15日に竣工された“ソニーの新しい公園”は、2025年1月にグランドオープンを予定しています。それに先がけ、Ginza Sony Park Projectではメディア向けに内部を初公開する内覧会を実施。取材やプライベートでかつてソニービルをたびたび訪れ、建て替え後の姿をずっと気にしていた筆者もさっそく参加し、内部をじっくり見ながら、同プロジェクトを率いるソニー企業の永野大輔社長に話を伺ってきました。
今回の内覧会は、Ginza Sony Parkで行われるであろう具体的なイベントの計画やスケジュールを紹介するものではないため、現時点で分かっているのは「多くの人に開かれた公園になる」、「テナントや店舗などが入る施設にはならない予定」ということだけです。
ですが、新しいGinza Sony Parkの建築に関する話や、かつてのソニービルから継承・進化した部分を実際に見聞きできる機会は貴重なもの。ここでは公開された建物内部の写真とともに、銀座に完成する新しい公園の特長やこだわり、報道陣からの質問に対する永野氏の回答もあわせてお伝えします。
ソニーのショールームやストアとは何が違うの?
ウォークマンやブラビアといったオーディオ・ビジュアル機器や、Xperiaスマートフォン、ミラーレスαシリーズ、aiboに至るまで、ソニーが投入してきたさまざまな製品を取材してきた身としては、やはり次のような疑問が湧いてきます。
「ソニーのショールームやストアとは何が違うの? これらの機能は、Ginza Sony Parkには入らないのだろうか?」
永野氏は筆者の質問に、「現時点ではそのような計画はありません。(GINZA PLACEに入居しているソニーストア 銀座や、西銀座駐車場のSony Park Miniの営業についても)現時点では続けていきます」と答え、次のように語りました。
「かつてのソニービルは、(アピールしているものが)エレクトロニクス事業しかなかったんですね。ソニーのショールームビルというかたちで、ブランドをそのまま発信をすればよかったんです。しかし現在ソニーには、エレキ、映画、音楽、金融、ゲーム、そして半導体という6つの事業があります。もしあのままソニービルがあったとしたら、エレキ以外の事業をアピールすることができない。なかなか難しかったです」(永野氏)
「たとえば、『あそこにライブハウスを設けたい』とか『映画館を設けたい』といった声が挙がっても、ソニービルはそういった要望に応えられない建物だったんです。もし作ろうとすると大規模な改修が必要で、要するにあの建物とソニーの事業・ブランドの発信の間ではミスマッチが起きていました」(同)
「今回パークにしたのは——僕はパークというのはプラットフォームだという言い方をしているんですけど——プレイステーションやスマートフォンと同じで、『そこにどんなアプリケーションを載せるか』によって使い勝手が変わってくる、来場者の楽しみが変わってくる。それと同じように、これから先、ソニーの事業も変化していくかもしれない。そんなときにも、ちゃんとここから情報発信できるように『公園』というプラットフォームにした、というのがこのプロジェクトの考え方です」(同)
Ginza Sony Parkのグランドオープン後、現在のソニーストア 銀座がどうなるのかは、今回の取材ではまだ見えてきませんでした。同ストアにはハイエンドAV機器を落ち着いてじっくり体験できるシアタールームや、写真文化の今に触れられるソニーイメージングギャラリーといった貴重な空間があるので、Ginza Sony Parkができた後もこれらを継続させていって欲しい……と、個人的に強く願っています。
新しい公園はどんな使い方を考えているの?
2025年1月のグランドオープン時には、複数のイベント開催を予定している、と永野氏は説明しています。具体的な内容は明らかにしていませんが、ソニービルの解体途中(2018年8月~2021年9月)に行われていたような、アーティストとソニーグループのテクノロジーを掛け合わせたイベントなど、さまざまなアクティビティが考えられているそうです。
「実は(解体途中のSony Parkでの)アクティビティでは、あの3年間で多くの学びがありました。『多くの人に来てもらえるブランド価値が高いアクティビティはどうやったら作れるんだろう?』、あの3年間でだいたい成功するパターンが見えたんですね」(永野氏)
最も成功するパターンとして永野氏が挙げたのが、「(特定の)テーマとアーティスト、テクノロジーを掛け合わせたアクティビティ」。QUEENや、King Gnu、東京スカパラダイスオーケストラとコラボしたイベントや、第1段階のSony Parkの集大成として開催された「Sony Park展」などは特に集客が多く、来場者も“最もソニーっぽいイベント”だと感じていたそうです。
こうした成功体験をベースにしながら、新しいGinza Sony Parkのオープニングアクティビティを作っていきたい……と語りつつも、永野氏は「ここではまた新しい成功パターンもあると思うので、過去の成功パターンにしがみつかず、新しいものにチャレンジしていきたいです」と意欲を見せていました。
ちなみに、解体途中のSony Parkの3年間では15の大きなイベントが開催され、小さいものも含めると200ぐらいのイベントが行われてきたそうですが、永野氏によれば、相性が良いものとそうでないものに分かれたようです。相性が良いのは、銀座という立地やニーズにマッチする「音楽」と「アート」で、「商品のプロモーション」についてはなかなか難しかったとのこと。
現在のソニーグループは先ほどの永野氏の発言にもあるように6つの事業で成り立っていますが、祖業であるエレキ事業のような一般消費者向けだけでなく、直接的にはユーザーと交わらない事業にも注力しています。それでも銀座という地に、ユーザーとの接点をもつ意義を永野氏は次のように語っています。
「これは僕の持論ですが、『ブランドはユーザーの一番近いところで作られる』、『近ければ近いほどブランド価値が高まっていく』と思っています。だから、ソニーの商品に手に触れている感覚が(ユーザーの)一番近い場所にある、というのがブランドを作っているわけです。一般消費者と直接的に交わらない事業だけでは、やっぱりブランドは作りきれません。できるだけユーザーに近いことが大事で、特に(銀座という)『場所』は非常に強力です」(永野氏)
「(旧ソニービルの地上部を解体した後の)バージョンフラットのときの経験なんですが、『“MY FIRST SONY”が銀座のSony Park』という若い方がたくさんいたんです。ウォークマンもXperiaもプレイステーションも持ってません。ソニーに触れたの初めてです。そういう方がとても多かった。3年間で854万もの人が訪れましたが、調べてみるとU30(30代以下)が半分です。ジェンダーの割合でいうと、半数が女性でした。若い女性にたくさん来てもらえたのは、ソニーの他の事業ではなかなかリーチできないという意味において、ブランド的な価値が非常に高い。(アクティビティの内容によって変わるが)それを数字が表しているわけです」(同)
「僕がうれしかったのは、Sony Parkの854万人の来場者のうち、リピーター(ユニークユーザー)が400万人いて、うち25%が4回以上来ていたこと。それはアクティビティが変わることによって、また訪れたくなるということを示しています。(新しいGinza Sony Parkは)『銀座に来たら立ち寄りたくなるような場所』にしたい。特に、海外の人は東京(日本)に来たら必ず立ち寄らなきゃいけない場所にしたい。『1回行ったらもういい』じゃなくて、来るたびに来たい場所にしたいんです。そのためには、僕らは変わり続けなきゃいけない」(同)
Ginza Sony Park Projectの公式メッセージでは、「ソニービルがこの銀座・数寄屋橋の地から、世界に向けて多くの情報を発信し文化をつくってきたように、私たちも『Ginza Sony Park』から新たな挑戦を始めていく」としています。内覧会においても、永野氏はそうした想いを改めて強調しました。
ソニーはなぜ“公園”を作るの?
そもそも、ソニーはなぜ“公園”を作ったのか?
旧ソニービルが掲げていたコンセプトは「街に開かれた施設」であり、その角地には長年多くの人々に親しまれた10坪のパブリックスペース「銀座の庭」がありました。往時のソニービルを知っている人であれば、数寄屋橋交差点に面した屋外スペースで、沖縄美ら海水族館の監修のもと開催されていた「Sony Aquarium」の大水槽などを思い起こすかもしれません。
新しいGinza Sony Parkは、この「銀座の庭」を継承・拡張させた「銀座の公園」として、都会の中に余白とアクティビティをもたらし、街や人々に新しいリズムをもたらす場となることをめざしています。
竣工のニュースリリースに永野氏が寄せたメッセージには、「ソニーはなぜ“公園”を作るのか」という問いに対する答えがすべて書かれている、と筆者は感じています。
永野大輔氏のコメント
今から11年前の2013年にソニービルの建て替えを目的にプロジェクトの構想がスタートしました。
初期段階では公園をつくる計画はありませんでしたが、ソニーらしく大胆でユニークに、銀座の街に新しいリズムを、そして、人々が気分によってさまざまな過ごし方ができるように、という3つのテーマを掲げ、創業者の想いを丹念に紐解いていきました。未来に向けてソニーの個性を形にするにはどうすればよいかを考え続け、導き出した答えがGinza Sony Parkでした。
このたび無事に竣工を迎え、公園のプラットフォームが完成しました。今はまだ何もない余白の空間ですが、グランドオープンしたあと、この余白は、ソニーだけではなく、訪れた人の使い方やアクティビティによって彩られ、この場の楽しみ方も変わり続けていきます。
Ginza Sony Parkをかたちづくるのは前述の「アクティビティ」と「余白」ということになりますが、永野氏が考える「余白」とは何でしょうか。
「僕は、公園を公園として楽しめる大きな要素が余白だと思ってるんです。このプロジェクトを始める前はそうだったんですけど、『緑があるから公園』、『ベンチがあるから公園』というふうにイメージしていたんですが、待てよ、と。緑がなくても公園と呼んでる場所って、世界中にいくつかあるんですよね。世界中を歩いて、文献も見ていろいろ研究するなかで、行き着いた答えが『余白』だったんです」(永野氏)
「公園はジョギングする人もいれば、歩く人もいて、お弁当を食べる人もいれば昼寝する人もいる。それは受け手側(来園者)に委ねられています。これは『余白』があるからだと僕は思うんです。余白とは、来園者に使い勝手を委ねるスペースで、建物の管理者がここで何かをしてください、と指定するのではなく、何も指定されてない場所が『余白』なのです」(同)
「Ginza Sony Parkの707平方メートルというちっちゃい面積(編注:同パークの正確な敷地面積は707.42平方メートル)であっても、そのなかに余白をうまく作れば公園的になり得るんじゃないか。来園者に使い勝手を委ねるということは、そこに来た人のリズムを作ったり、リズムを変えたりする場所になると思います」(同)
「銀座で買い物して休憩しようと思った、レストランを予約したけれど早く着いてしまった、そんなときに座れる場所は(銀座には)なかなかないんです。そういうときに(Ginza Sony Parkのような)余白があると、座っててもいいし、ここで仕事しててもいいし、スマホで遊んでてもいいし、何しててもいい場所があってもいいんじゃないか。公園のベースにはそんな考え方があります」(同)
誰でも楽しめるような、アクセシビリティの工夫もあるの?
ソニーは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパス(存在意義)を起点に、感動を生み出すことに挑戦している企業です。それを実現するにあたっては、障がいの有無を問わず“誰もが感動を分かち合える”ことも求められます。
しかし、新しいGinza Sony Parkは打放しのコンクリート建築であり、階段やスロープを多用した独特な建築デザインや動線になっていることもあって、アクセシビリティに関する配慮についてはどう考えているのか、気になりました。
旧ソニービルは「花びら構造」と呼ばれる斬新な建築要素を採り入れていたものの、永野氏も認めるようにアクセシビリティの面ではかなり難があったので、Ginza Sony Parkではこの点をしっかり考えて設計しているとのこと。
法的な規定はすべてクリアしている、と前置きしたうえで、永野氏は「地下2階から(地下鉄などにつながる)コンコースに降りるスロープなどは、法的な基準よりもゆるやかにしています。基本的な項目に関しては、それ以上の安全安心な基準にしました」と説明しています。
さらにソニー独自のユニークのポイントとして、Ginza Sony Park Projectのなかには障がいを持った人が有識者として入っており、アドバイスを受けながらサイン表示の大きさや位置、色味なども含めて検討中とのこと。
もちろんこうしたハード面のみで解決できない部分もあるので、たとえば上のフロアに上がるスロープで上りづらそうな来場者を運営スタッフが見かけたらエレベーター前に待機してすぐ案内できるようにする……といった、人の力に頼るソフト面での取り組みも含めて対応していくとのこと。「あらゆる来場者がこの場所を楽しんでもらえるようにしたい」と永野氏は話していました。
来年のグランドオープンに向けて、内装工事が着々と進んでいるGinza Sony Park。今回は“公園”としての特長や、建築物のこだわりに関する説明が中心でしたが、グランドオープンが近づく頃には開業時にどんなイベントが行われるのか、といったさらなる詳細がアナウンスされることでしょう。
新しいGinza Sony Parkの完成前の姿を見られるのは今だけ。数寄屋橋交差点下の西銀座駐車場(地下1階)にある「Sony Park Mini」では、1,050日間の新築工事の記録を映像や写真で展示する「Ginza Sony Park プロジェクト展」が9月29日まで開催されていて、オープンまで半年を切った新しい公園の新築工事の様子を、映像や写真、資料にふれながら楽しめるようになっています。
さらに、ここで配布される“薄い本”「Ginza Sony Park Booklet -August 2024-」には、新しいGinza Sony Parkを造るためのさまざまな工夫やこだわりが多数紹介されていて、非常に読み応えがあります。特に、建築に興味関心がある人や、工事現場が好きな人であれば一読の価値アリ。ぜひSony Park Miniを訪れて入手してみてください。