7月30日、アップルがiPhoneの「衛星経由の緊急SOS」機能を日本で提供開始しました。モバイル通信が圏外で通信手段がない状況でも、iPhoneが衛星と直接通信して119番の緊急通報サービスに救助を依頼できる頼もしい機能です。登山中に滑落して負傷した、過疎地や山間部の道路で自損事故を起こした、といった場合に、モバイル通信が圏外の状況でも衛星経由で救急などに救助を依頼できます。万が一の時でも命が助かる可能性が高まることで注目の機能、ひと足早く試してみました。

  • iPhoneが衛星と直接通信して119番の緊急通報サービスに救助を依頼できる「衛星経由の緊急SOS」機能がいよいよ日本でも使えるようになった。対象機種はiPhone 14シリーズとiPhone 15シリーズのみに限られる

通信手段がまったくない場合のみ使える衛星経由の緊急SOS

今回日本で提供が始まった衛星経由の緊急SOSは、ふだん使っているiPhoneと上空の衛星が直接通信し、テキストで緊急通報をする機能です。携帯電話のモバイル通信回線が圏外で、Wi-Fiも利用できないといった通信手段がまったくない場合のみ緊急的に利用でき、通信回線が使える状況では利用できません。

衛星とやり取りできるのは短いテキストメッセージ、緊急事態の概要、自身の位置情報、端末のバッテリー残量、メディカルIDの情報などで、音声通話はできません。テキストメッセージといっても、LINEやiMessageなどは送信できず、もちろんWebやSNSの通信もできません。

すでに、米国をはじめとする海外では提供を開始していましたが、日本では音声以外で119番の緊急通報を受ける仕組みが整っていないことから、利用できない状況が続いていました。しかし、アップルが衛星経由の緊急通報を受けるための「iPhone緊急衛星中継センター」を国内に開設し、オペレーターを配置して通報の内容を取りまとめる役割を担い、それを救急などの関係機関に連絡する仕組みを整えたのです。関係省庁との調整も済み、晴れて日本での提供が始まった次第です。

ちなみに、対象機種はiPhone 14シリーズとiPhone 15シリーズで、それ以前の機種は対応しません。

衛星をとらえるのは時間がかかる

今回、機能を有効にしたテスト用の端末で衛星経由の緊急SOSを試してみました。

通信手段がない状況にした端末で119番の緊急電話をかけようとすると「接続していません。衛星経由で緊急テキストの送信を試してください」の表示とともに、SOSの赤いバッジが付いた「緊急テキスト」のアイコンが左下に登場。ここをタップすると衛星経由の緊急SOSが利用できます。

  • 圏外の状態で119番に電話しようとすると、「緊急テキスト」のアイコンから衛星経由の緊急SOSを利用するよう促される

まず、機能の説明画面が現れ、続いて「どのような緊急事態ですか?」「助けを必要とするのは誰ですか?」「この緊急事態を最も適切に表すものはどれですか?」などの質問が現れるので、適切な項目を選んで回答します。

  • 機能の簡潔な説明が表示される。空が開けた屋外でしか使えないこと、メッセージの送受信にはかなり時間がかかることを説明している

  • いくつかの質問が表示されるので、最適な回答をタップして回答していく

  • 最適な回答がない場合、回答をスキップすることも可能

これらの質問にいくつか回答すると、いよいよ衛星に接続します。衛星の電波が送受信できる範囲が表示されるので、iPhoneを立てて持った状態で体を左右に回転して衛星を探します。接続するまで数分かかり、上空が開けていない状況でないとうまく接続されないので、辛抱強く試す必要があります。ただ、状況は随時更新されるので、指示に従ってベストな状況を探っていけば大丈夫です。

  • 衛星をキャッチしているところ。グレーになったエリア内に衛星のアイコンが入るようにし、しばらくその状態を保つ必要がある。接続できるとグラフィックスが緑色に変化する

衛星に接続すると、先ほどの質問の回答やメディカルIDの情報、現在地の情報を自動で送信し、その情報を確認したiPhone緊急衛星中継センターの担当者とのやり取りが始まります。「現在の場所を説明してください」「薬はありますか?」などの質問が適宜寄せられるので、簡潔に答えていけばOK。担当者が必要な情報を収集したと判断すると、救急に連絡して救助要請をしてくれるので、接続や画面はそのままにして救助を待てばよいわけです。

  • 衛星に接続すると、先ほど入力した質問の回答やメディカルIDの情報、現在地の情報などが自動で送られ、iPhone緊急衛星中継センターの担当者からメッセージが送られてきた。いくつかの質問が寄せられるので、簡潔に回答する必要がある

  • いくつかの質問に答えて状況が把握できると、iPhone緊急衛星中継センターの担当者が救急に連絡してくれる

優れていると感じたのが、緊急連絡先に登録している家族や友人にも状況が送信されること。メッセージのやり取りが同じように表示され、状況がリアルタイムに把握できます。

  • 緊急連絡先に指定した家族や友人のiPhone(左)には、衛星経由の緊急SOSを使用しているiPhone(右)と同じようにiPhone緊急衛星中継センターの担当者とのチャットが送信され、状況が把握できる

事前に衛星経由の緊急SOSを試せる機能が用意されている

衛星経由の緊急SOSは、平常時に機能を試せる仕組みが用意されており、どのような流れかを事前に確認できます。設定アプリから「緊急SOS」を選び、下の方にある「デモを試す」で実行できます。やり取りした内容は消防などとは連携されませんが、実際に衛星とは通信できるので、どれぐらい空が開けていると通信できるのかなどが体験できます。

  • 「デモを試す」を実行すると、衛星経由の緊急SOSの操作をひととおり試せる

  • デモとはいえ実際に衛星に接続するので、どのようにして衛星に接続できるのかを実際に試せるのは頼もしい

  • 衛星との接続後はチャットの画面が現れるので、まさに本番さながらで体験できる

万が一を考えると、対応端末に買い替えるのがベター

衛星経由の緊急SOSは対応機種が新しめのiPhoneに限られるのが欠点ですが、専用の衛星通信対応ケータイなどを別途用意する必要なく、ふだん使っているiPhoneで利用できるのは大きな魅力。万が一の際でも命が助かるきっかけとなるだけに、登山やハイキングに出かける機会の多い人は注目する価値があります。端末のアクティベート時から2年間は無料で利用できるため、当面は金銭的な負担を気にせず使えるのもありがたい点です。iPhone 13以前のモデルを使っている人は、衛星経由の緊急SOSに対応するために買い替えを検討する価値があるといえるでしょう。