J:COMは6月29日、杉並区の小学校にて情報リテラシー授業「ZAQあんしんネット教室 by J:COM」を開催しました。

ケーブルテレビやネット接続などのサービスを提供するJ:COMは、同社のサステナビリティ活動の一環として、教育支援に取り組んでいます。その具体的な取り組みのひとつが「ZAQあんしんネット教室 by J:COM」と題した情報リテラシー授業。関西エリアでは平成19年度からはじまったこの教室、令和5年度までに1,468回の授業を実施しており、受講者数は約13万7,000人にのぼります。東京エリアでも令和5年度からこの取り組みを開始しており、現在までに32回の授業を実施、約2400人が受講しました。形式は出張授業だけでなく、オンライン授業にも対応しています。

今回、小学5年生/6年生とその保護者向けの2部制で行われた授業を見学する機会があったので、その様子をご紹介しましょう。

  • ZAQあんしんネット教室 by J:COM

    小中学校で開催される「ZAQあんしんネット教室 by J:COM」

保護者向けパートでは3大ネットトラブルについて解説

この日に講師を務めたのは株式会社ジェイコム東京 お客さまサービス推進統括部の石原里紗さん。石原さんの所属するお客さまサービス推進統括部は利用者のアフターフォローなどが主な業務ということですが、部署として「関わる全てのお客さまの体験価値の向上」に努めているそうです。

  • 石原里紗さん

    講師を務めた、株式会社ジェイコム東京 お客さまサービス推進統括部の石原里紗さん

はじめに、保護者向けの授業「ネットトラブルの傾向と対策」が15分程度の時間で行われました。

子どもに関する3大ネットトラブルには、「依存」「コミュニケーション」「お金」が挙げられると、石原さんは話します。

  • 依存/コミュニケーション/お金の3大ネットトラブル

    依存/コミュニケーション/お金が3大ネットトラブルという石原さんのお話に、保護者のみなさんも聞き入ります

「依存」に関しては、フィルタリングを勝手に解除し、ゲーム漬けになっている男子の事例が紹介されました。ゲーム障害(依存)に関しては、2019年にWHO(世界保健機関)が疾患として認めており、「家庭で解決することが難しい場合は医療機関への相談も手段のひとつ」と石原さんは提案していました。また、フィルタリングは子ども達が抜け道を探して外してしまうということを前提とし、定期的にチェックをすることが大切だといいます。

「コミュニケーション」については、ネットいじめの問題を取り上げました。ネットいじめは学校だけでなく、自宅でも続きます。「家でスマホを持たせていないという場合でも、デジタル機器に触れている機会があれば、もし自分がトラブルにあったときにどのように身を守るべきか、相手を傷つけないためにはどうしたらいいかというリテラシーを学んでおくことが大事」と石原さんは強調していました。

「課金」の問題では、小学生がオンラインゲームに150万円以上を課金していた事例が紹介されました。この小学生は、親に課金のことを知られないよう、決済完了メールを削除していたとのこと。課金については「高額になってから気づくパターンが多い」のだそうで、子ども同士のネットワークから課金する方法が広まっていくと説明します。石原さんは「子どもがクレジットカードの番号を覚えて勝手に入れてしまうこともあるので、クレジットカードの管理は大切です」と言い、さらにお下がりスマホでは決済情報が残っていることがあるので必ず削除するよう念を押していました。

そして、こういったネットトラブルへの対策として、アメリカの法学者ローレンス・レッシグが提唱している「行為の4つの制約原理」をベースに考えることを提案しています。その4つの制約原理とは、「法」「社会規範」「市場(報酬・罰)」「物理環境」です。

これをネット利用に当てはめると、「法」は家庭でのルール作りと見直し、「社会規範」はネットリテラシーを育てること、「市場」はルールを守るインセンティブやペナルティを与えること、「物理環境」は保管場所/フィルタリング/スクリーンタイムを設定することにあたります。

  • 4つの制約原理をネット利用に当てはめる

    4つの制約原理をネット利用に当てはめる

「これだけやっていれば大丈夫ということはなく、組み合わせることが大切です。子どもにも自分の頭で考えてもらうようにすると、何が危険かわかります。また、保護者のスマホの使い方もしっかり見られているので、週末は一緒にスマホを手放すなどの取り組みも効果的です」と、親子の話し合いの重要性を呼びかけ、保護者向けの講演を締めくくりました。

  • 対処法のまとめ

    対策を組み合わせること、子供にも考えさせることが大事

子供たちにはコミュニケーション/写真/SNSについて講義

続いて、子供たち向けの講演となります。保護者も引き続き会場に残り、子供たちとともに話を聞きます。

はじめに、石原さんは「スマートフォン、タブレット、オンラインゲーム機器のようなインターネットに繋げる機器は、人間がボタンを押したり、音声で指示したりしないと動きません。ということは、私たちが悪い使い方をすると悪いことが起きてしまいます。ネットについて、どんなことに気を付けたらいいのかを知っておかなければいけません」と切り出します。

そして、ネットを使うにあたっての注意点を解説していきます。最初に取り上げたのは、LINEやメールなどのメッセージです。

石原さんは、LINEグループを模したメッセージアプリ上の会話を見せました。そのLINEグループでは、ある男子のスニーカーがかっこいいという話題の中で、「かなり良くない/って思ってた」というメッセージが付いています。このメッセージはどのように捉えたらいいでしょうか――と子ども達に問いかけると、肯定されたと受け取った人、否定されたと受け取った人、双方に意見が分かれました。

  • 会話の例1
  • 会話の例2

    この「かなり良くない」のニュアンスは……

語尾を上げて「良くない?」と問いかけるように口にすれば、反語で「かなりいい」と思っていることがわかりますが、文字だけを読むと「良くない」と否定しているようにも読めてしまうわけです。

この例をもとに、「文字だけでは伝わらないときがあります。相手にどのように思われるか、1秒だけでもいいので考えてからメッセージを送ってほしいと思います。また、グループの中で仲間はずれにするのもやめましょう」と石原さんは話します。

続いて、写真や動画の撮影についての話に移ります。ここでは友達が寝相悪く寝ている姿を撮影し、LINEグループに送っている事例が紹介されました。

  • 写真の例1
  • 写真の例2

    移動教室で、友達の寝姿の写真をSNSに投稿してもよい? 悪い?

石原さんは、「人の写真を勝手に撮ったり、人の顔を勝手にアプリで加工してはいけません。LINEグループで回すことも良くありません。それは、肖像権があるからです。すごくいい写真だから友達に見せたいという場合でも、本人に確認してください。自分が嫌だったら消してもらうこともできます」と説明し、肖像権について覚えるように話しました。

SNSの話に移るタイミングで、「SNSのアカウント、自分で作っていいのは何才から?」というクイズが出題されました。「20才になるまでダメ」「高校生になったらOK」などの答えが挙がりましたが、正解は13才です。

  • SNSアカウントを作っていいのは何歳からか

    SNSアカウントを作っていいのは何歳からか。全員が起立した状態で、石原さんが「20歳」「18歳」「16歳」「13歳」「それ以下」と年齢を挙げ、子供たちに「これが正解だ」と思ったところで座ってもらいます。13歳のところで多くの人が座りました

  • 正解は13歳から

    正解は13歳から。ただし、13歳になっても、きちんと家族に相談してからアカウントを作りましょう

会場にいる5年生/6年生はこの年齢に達していないため、SNSを使っている人はいないはずです。そこで、SNSの良いところを想像することにしました。子ども達からは「たくさんの人と触れ合うことができる」「色んな人とゲームができる」という意見が出ました。さらにSNSの怖いところも挙げてもらうと、「個人情報が漏れる可能性がある」「怖い人と出会う」「詐欺に遭う」「アンチコメントが来る(嫌なコメントをされる)」など、さまざまな答えが挙がります。

石原さんは、SNSの怖いところとして。オンラインゲームでの事例を挙げました。オンラインゲームがレベルアップしないなどの理由でなかなか進められなくなったとき、悩みをチャットに書いたら、いつも話しているフレンドが手伝うと声を掛けてくれたという話です。そのフレンドは、名前・ID・パスワード・顔写真を送ってくれたら、レアなアイテムをあげると言ってきました、皆さんならどうしますか――という石原さんの問いかけに「怖いから送らない」などの声が挙がりました。

石原さんはもうひとつ事例を挙げます。それは、小学5年生の男子がオンラインゲームで普段から一緒にプレイしている同じ学年の男子と写真を送り合うようになり、だんだんと下着の写真などを送っていたら、実は相手が悪い大人だったという話です。

石原さんはこれらの例をもとに、ネットで知り合った人に個人情報を渡すと事件に巻き込まれたりストーカーにあったりする危険があると説明しました。写真や名前がインターネットに残る点にも注意が必要です。そして「インターネットで知らない人に誘われても絶対に会わないこと。相手は年齢などを偽っている可能性があります。写真を送ってと言われても、家や学校でダメだと言われていると話して断ってほしいと思います」と石原さんは強調しました。

  • 知らない人に誘われても会わない、写真や住所・名前を送らないの

    インターネット上の知らない人に誘われても会わない、写真や住所・名前を送らないのが鉄則

また、加害者にならないための注意喚起もありました。例として挙げられたのは、配信を行っているVTuberに対して誹謗中傷のコメントをしてしまうという事例です。

  • Vtuberへの誹謗中傷

    Vtuberは人物ではなくキャラクターなので、誹謗中傷することに抵抗感が少なくなりがち

  • 周囲に与える影響

    誹謗中傷の加害者になってしまうことは、周囲に大きな影響を与えます

石原さんは「自分はニックネームでバレないと思うかもしれませんが、実はいまどこの誰が書いているか調べる仕組みがあります。相手がキャラクターだから大丈夫ということもなく、中にいる人は傷ついてしまいます。インターネット上で誹謗中傷することは犯罪になる可能性があります」と説明。さらに、「自分だけでなく、家族や友だちにも迷惑がかかって、全員が悲しい気持ちになってしまいます。これをやったらどうなるか、自分の心と頭で考えて決めてほしいと思います」と話して、約45分間の講義を終えました。

  • 授業のまとめ

    この日の授業のまとめ

子どもがネットのリスクを主体的に考えられるようになるために

講師を務めるにあたって石原さんは、注意点をただ押し付けるのではなく、行動の先に起こることを想像するための材料としてトラブル事例を紹介しているといいます。問題点や対策を友達と一緒に考えて発表してもらうことで、主体性を高められると考えているとのこと。また、ふとした時に講座の内容を思い出せるように、臨場感も大切にしているそうです。

  • 子供たちに意見を聞く

    時折子供たちに意見を発表してもらいながら授業を進める石原さん

受講した子供たちに講座の感想を尋ねてみたところ、「メールなどの言葉は、人によって考え方が違うから傷つけちゃうことがあるかなと思いました」「インターネットやSNSに書く言葉は難しい。いじめにつながって、学校に来られなくなる人もいると知りました」など、自分たちに身近な交流に関する問題に興味を惹かれたようでした。

また、授業を行った小学校の先生にもお話を伺いました。「子供たち自身に、自分だけの問題ではなく、周りの人を巻き込む可能性があるということと、いつ自分に悪いことが降りかかってくるかがわからないという怖さを知ってもらいたいと思います。保護者の方も一緒に参加できる授業なので、子供たちと一緒に考えていくきっかけになってもらえればいいなと思って今回はお願いをしました。子供たちも自分ごとと捉えられたようですし、すごく効果的だったと思います」と、よい授業になったとの感想です。

この学校でもLINEのちょっとしたトラブルなどを聞くことはあるそうですが、学校での解決は難しい面もあるとのこと。今回の授業での注意ポイントを忘れさせないように、時折注意点を振り返りたいと話していました。

オンラインゲームのチャットやVTuberへの誹謗中傷など、ネットの世界は日々変わっていきます。保護者も常に新たな情報を得て、子どもを見守らなければなりません。「ZAQあんしんネット教室 by J:COM」では、「児童・生徒の皆様が自分自身で考えられるようになる」ことを目標としています。ネットサービスやデバイスが進化していったとしても、善悪の判断を自分でできるようになれば、将来にわたって安全にネットを活用できそうです。