2024年6月5日に、「Claris FileMaker 2024」が発売された。2023年5月23日(日本のみ。日本以外では4月26日)に「Claris FileMaker 2023」が発売されており、約1年ぶりのメジャーアップデートだ。1年前のFileMaker 2023から、製品名として西暦年が付いている。
FileMaker 2024の発売のタイミングに合わせて来日したClaris International Inc.(以下、Claris)のCEO、ブラッド・フライターグ氏と、Claris North Asia Sales Directorの日比野暢氏にお話を伺うことができたので、その模様を前後編に分けてお伝えしたい。この前編では新バージョンのFileMaker 2024について、後編ではClarisのプラットフォーム全般についての話をお届けする(以下、記事中は敬称略)。
価格等の変更はなし、AIの統合が最大のポイント
-- FileMaker 2023からFileMaker 2024となり、価格やライセンス体系に関して変更はありますか?
フライターグ いいえ、変更はありません。
日比野 FileMaker Proのパッケージ販売も継続します。
-- FileMaker 2023が約1年前にリリース、その後数回にわたってアジャイルにアップデートされ、今回はFileMaker 2024という製品名でメジャーアップデートということになります。今回のバージョンの重要なポイントをお願いします。
フライターグ AIに関するスクリプトステップや関数を新たに12種類搭載して、FileMakerのカスタム AppにAI機能を統合できるようになりました。ネイティブでLLM(大規模言語モデル)を活用したセマンティック検索(語句の意味に応じた検索)を実行する機能を、FileMakerのカスタム Appにすぐに追加できます。FileMakerを使っているお客様は、カスタム Appにこれまで蓄積された既存のデータから新たな価値を生み出せます。実際に使う上ではコスト管理も重要なので、利用トークンのカウントもできるようにしました。
-- 2023年11月、東京でClaris Engage Japan 2023が開催された際のマイナビニュースのインタビューで「私たちはLLMのパートナーを特に決めてはいません。LLMはお客様が選ぶものだと思います」との話がありました。その方針を継続して、今回のバージョンが開発されたのでしょうか。
フライターグ はい、そうです。オープンソースのLLMやローカルのLLMなど、多くのLLMを統合できるようになっています。
安全かつ責任ある形でデータから価値を生み出す
-- AIに関してはさまざまなリスクや懸念も論じられています。Clarisとしてはどのように考えていますか?
フライターグ クラウドにデータが流れていくことや、生成AIをソースとするデータが流れてくることなど、リスクはもちろんあります。しかしリスクを恐れていては、遅れをとってしまいます。FileMakerでは、安全かつ責任ある形でデータから価値を生み出せるように、スクリプトによって保護したり検索に制御をかけたりすることで、プロンプトとデータを切り分けてセキュリティを守れるように開発しています。また、社外の開発者コミュニティと膨大な会話を重ねて、ベストプラクティスを共有しています。
-- セキュリティ対策のひとつとして、AIをネットワーク経由ではなくデバイス上で実行させるということがあると思います。2020年にリリースのFileMaker 19から、デバイス上で実行できるAppleのCore ML(機械学習)モデルをサポートしていますね。
フライターグ 私たちのAIのジャーニーは数年前、Core MLのモデルをFileMakerで利用できるようにすることから始まりました。正しいもの、最適なもの、そのつど必要なものをコミュニティのために提供したいと考えており、ある時点で大きな局面を迎えたものを製品に取り入れています。ClarisはAppleの子会社ですが、以前は中立であるべき領域は中立を守ろうと考えていました。しかし必ずしも中立でなくても、良いものであり価値を見出せるなら、親会社寄りになってもいいと考えるようになったのです。Core MLがデバイス上で動作する機械学習ということに関して言えば、AIをデバイス上でもクラウドでも使えるハイブリッドな環境は、価値があると思います。
日本の開発者からの要望が多数取り入れられた
日比野 ところで、FileMaker 2024のAI以外の新機能について補足します。2023年5月、FileMaker 2023リリースのタイミングでブラッド(・フライターグCEO)が来日したときに、パートナー企業様数社を訪問しました。その際にお聞きした要望をバックログとして検討し、その結果、日本からのリクエストとしてFileMaker 2024に搭載された新機能も多数あります。CEOが直接、日本のパートナー企業様から要望を聞き、それが反映された結果ですので、開発者の皆様に喜んでいただけるバージョンになっていると思います。
本インタビュー記事の後編では、FIleMakerを中心としたClarisプラットフォーム全般や、Claris社内での開発の現状などについて聞いている。ぜひお読みいただきたい。