何かと忙しい年末年始、家を不在にすることも多い時期です。改めて、我が家の防犯を見直してみませんか? 遠方で暮らす親戚にすすめたい特殊詐欺対策、冬休みに家で子どもが留守番するときの注意点などを、防犯アドバイザーの佐々木成三さんと、犯罪予知アナリストの京師美佳さんに聞きました。

年末年始はお金を使う人が多い時期。還付金詐欺や窃盗に注意

取材したのは、パナソニックが開催した「すまいの防犯 ラウンドトークセッション」。元・埼玉県警察本部 刑事部 捜査第一課 警部補で現在は防犯アドバイザーとして活動している佐々木成三さんと、一般社団法人 全国住宅等防犯設備技術適正評価監視機構の理事で防犯アドバイザー、そして犯罪予知アナリストの京師美佳さんが、年末年始の防犯対策について解説しました。

  • 京師美佳さん(左)、佐々木成三さん(右)

年末年始はお金を使う時期でもあります。金融機関からお金を引き出したあとでひったくりにあったり、家に置いてあるお金を盗まれたりする犯罪が増加するそうです。さらに、年末年始の長期休みは旅行や帰省で留守にする人が多いため、空き巣も増えるとのこと。

「拘置所でお正月を迎えるとおせち料理も出てきますし、暖かい場所で過ごせます。拘置所へ入るために、生活に困っている人が犯罪に走ってしまうことがあります」(京師さん)

2023年~2024年の年末年始は、帰省や旅行を計画している人も多いと思います。忘年会や新年会の機会も増えそうですし、家の防犯対策はしっかりしておきたいところ。このほか佐々木さんは、年末から年度末に向けて「保険の還付金詐欺の増加に注意すべき」と付け加えました。

犯罪者の目になって、自分の家をチェック

防犯対策する上で、どこから手を付けたらよいのでしょう。

佐々木さんいわく、「戸建て住宅の場合は家の周りをチェックして、侵入しやすい場所がないかチェックすることが大切」だと。例えば、電柱とベランダが近かったりして、登れそうな場合は対策が必要です。

また、佐々木さんは「内鍵がかけられる部屋を1つ作ったほうがいい」と続けます。

「日本人は家に侵入される前の対策はよくしますが、入られたあとの対策をあまりしていません。家に侵入されたとき、内鍵をかけられる、いわゆるパニックルームを作ってくださいとよくお伝えしています」(佐々木さん)

  • 戸建てとマンションでは、戸建てのほうが狙われやすい傾向に

「戸建てとマンションでは戸建てのほうが狙われやすいので、自分で対策することが重要。とはいえ、戸建ては自分の好きなように対策ができますので、セキュリティに優れた建物になります」(京師さん)

オートロックも安心じゃない。無施錠の家への侵入や連続空き巣も

マンションはどうでしょう。これからは3月や4月の新生活に向けた準備が本格化しますし、オートロックのマンションを探している人は多いと思います。気をつけることはあるのでしょうか。

「お伝えしたいのは、オートロックはセキュリティじゃないということ。オートロックだから大丈夫という思い込みが、無施錠につながります。刑事のときにいろいろな捜査をしましたが、高層マンションへの侵入の半分以上が無施錠によるもの。『共連れ』といって、居住者と一緒に犯罪者が中に入ることもあります。今だとウーバーイーツ(など配達)のリュックを背負えば不審がられないですよね」(佐々木さん)

オートロックだから安心でなく、別のセキュリティを用意することを呼びかけました。

「不審者を家に入れないため、戸締まりは絶対に必要。オートロックのあるマンションで、コンビニへの買い物や子どもの送迎といった短時間の外出に玄関の鍵をかけないで出かけ、空き巣に入られた事例もあります。マンションは(建物の設備として)防犯カメラなどを備えていますが、大勢が住んでいるため自分では守りきれないことがあります。誰かの部屋に侵入されてしまうと、ベランダをつたって隣の部屋が被害にあうことも。また、古いオートロックなど、ちょっとした小道具を隙間に入れて突破した事例は何件も見ています」(京師さん)

犯罪者が嫌がる4原則「音・光・時間・人」でセキュリティ対策を

防犯対策のポイントは、犯罪者が嫌がる4原則「音・光・時間・人」を意識すること。例えば窓を開けると音が鳴る器具、センサーで点灯するライト、侵入される時間をかせぐ対策などなど――。特に、侵入経路にされることが多い窓の重点的な対策が大切とのこと。窓用の補助錠や防犯フィルムの設置が挙げられます。

「人」は、人の目。近所付き合い、防犯カメラ、インターホンなどが当てはまります。

「双方向の通話機能がついているインターホンと防犯カメラを設置しておくと、侵入者がセンサーに反応したとき『おいコラ、通報したぞ』と、遠隔からでもインターホンを使って声をかけて追い出せます」(京師さん)

  • 京師さんは、双方向通話機能がついているインターホンと防犯カメラの設置をすすめていました

「スマート家電がオススメです。長く留守をするとき、夜に1時間でも、気がついたときでいいので遠隔から自宅の明かりをつけるようにすること。この家は不在じゃないと思わせることができます」(佐々木さん)

  • 防犯砂利、防犯カメラ、宅配ボックスなどを設置した例。不審者にふんしたマイナビニュース +Digitalの林編集がやってきました

  • インターホンにばっちり顔が映っています。もちろん録画もされています。こうした映像や画像は、警察へ情報として提供することもできます

子どもの留守番、インターホンが鳴ったら出たほうがよい

さて、冬休みになると、子どもが家で留守番をすることもあるでしょう。我が家では、子どもが留守番するときはインターホンに出ないよう伝えていましたが、京師さんによると、インターホンには出たほうがよいそう。なんと……!

「(空き巣は)インターホンで不在か在宅かを確認しています。もしインターホンに出なかったら、不在だと思って家に侵入してきます。犯人と鉢合わせて見逃してくれたらよいですが、危害を加えられる場合もあります。子どもにはインターホンに出させて、『親が手が離せないって言っています』などと話す訓練をしてください」(京師さん)

確かに、コロナ禍の緊急事態宣言で臨時休校となったとき、留守番中の子どもが空き巣の犯人と鉢合わせした――という事件が何件かありました。インターホンに出て、人がいると知らせることが、防犯の手立てになるんですね。

  • 京師さんがオススメしたのは、インターネットに接続してスマホと連携する機能を持ったインターホンの使用。子どもが留守番しているときには、スマホで親が対応するといった使い方ができます(写真はパナソニックのVL-SWZ700シリーズ)

佐々木さんは、子どもが困ったとき近所の大人に助けを求められる環境作り、近所の人たちとの関係作りを提案します。

「いまどきの子どもは、知らない大人に声をかけないよう教育されているので、知らない大人とコミュニケーションをとれない子どもが増えているんです。子どもを助けたいと考える大人のほうが圧倒的に多いはず。もし、何か危険を感じたら隣の家に助けてと言っていいんだよ、逃げ込んでいいんだよと、伝えて欲しいですね」(佐々木さん)

  • 「危険を感じたら大人に助けを求めて欲しい」(佐々木さん)

ネット通販の増加に比例して、置き配の窃盗や宅配を装った強盗も増えている

近年は、広域強盗事件や貴金属店への侵入など、強盗のニュースをよく耳にするようになりました。佐々木さんは、「侵入したあとは脅せばいいと考え、強盗の手口が手荒になってきた」と話します。

「宅配業者や警察官を装う手口は増えてきました。対策としては、対面をせずに対応すること。犯罪者は録画を嫌がりますので、インターホンやカメラでこれが録画されていると伝えることが必要な時代だと思います」(佐々木さん)

「対面をしないことは本当に大切です。特に高齢者のご自宅はまだまだ呼び鈴だけのケースが多いんです。犯罪者はインターホンで在宅確認をしますが、カメラ付きのインターホンであれば、この家はやめておこうとなります。可能なら宅配ボックスも使っていただきたいです」(京師さん)

  • インターホンをカメラ付きにすることで対面の機会を減らします

  • 録画を確認すれば、不在時に誰が来たかも分かります

  • 宅配ボックスを設置して対面の機会を減らすことも、防犯のためには重要。写真はパナソニックの「宅配ボックス コンボライト」

  • 宅配ボックスを開けるとアイコンが表示され、録画します

  • 宅配ボックスとインターホンが連動するものだと、宅配ボックスに荷物が入ると宅内のインターホン端末に通知が届きます

女性は、ひとり暮らしと悟られない対策を

先にも書きましたが、3月~4月の新生活に向けて引っ越しの準備をする人も多いでしょう。女性の場合は「ひとり暮らしと悟られない対策を」と京師さんが呼びかけます。

「女性らしいデザインのカーテンを避ける、表札をフルネームにしない――などのほか、帰宅前にタイマーで部屋の照明をつけておくことで、部屋に誰かがいるように装うことができます。賃貸住宅の場合は、自分の部屋のインターホンを鳴らされたとき確認できるよう、ドアに取り付けるタイプの防犯カメラを設置することも有効です」(京師さん)

  • 「ひとり暮らしだと悟られない対策が大切」(京師さん)

特殊詐欺はどんどん巧妙化。AIを使ったディープフェイクも

年末年始に帰省するなら、実家のセキュリティも整えたいもの。特に高齢者を狙った特殊詐欺は手口がどんどん巧妙化しています。

「新しい手口の犯罪が増えたと感じています。例えば、AIを使ったなりすまし詐欺が挙げられます」(佐々木さん)

  • 特殊詐欺の被害金額は400億円

AIを使ったなりすましというと、AIを用いて合成した「ディープフェイク」と呼ばれる動画や画像がたびたび話題になります。著名人の映像や音声をAIで加工し、あたかも本人が言っているかのように見える動画や画像がネット上で出回ることがありますが、犯罪にも使われているそうです。

「SNSで皆さんが自分がしゃべったり写ったりしている動画を公開していらっしゃいますが、動画や音声が3秒以上あれば、ディープフェイク映像を作ることは可能なんです。AIをベースにした娘、息子、孫を装ったなりすまし詐欺は、海外で既に発生しており、何百億という被害が出ています。これから日本でも増えてくるはずです」(京師さん)

声や顔が同じだからといって、本人とは限らないというわけです……。京師さんは対策として、家族だけでしか共有していない合い言葉を使うほか、電話機のナンバーディスプレイで対応する方法を挙げています。

「特殊詐欺が出てきて20年、ビジネス化して細分化されています。犯人グループの個人個人が匿名アプリを使って連絡を取り合っているため、グループ全体を捕まえられない点が(最近の)特徴だと思います。AIを使った犯罪が増えてきたことで、顔や声だけで判断するのは危険です。特殊詐欺対策機能が付いた電話機を使って常に確認するか、必要がない電話は受けない必要があります。信じられなかったら、実際に会って確認するのが間違いないですね」(佐々木さん)

  • 最近は地方でも特殊詐欺の被害が増えています。例えば、地域名が入った闇バイトの求人。これは、その地域の方言を話す人を探しているからとのこと

  • ナンバーディスプレイ機能のほか、通話の録音機能、電話を切るきっかけをつくる機能を備えた電話機もあります

  • 迷惑電話防止機能付きの電話はディスプレイの文字が大きめです

  • FAXにも迷惑電話防止機能を備えているものがあります

このほか、電話番号の検索や、迷惑電話・SMS対策アプリの使用も有効とのこと。京師さんは迷惑電話・SMS対策アプリ「Whoscall」、佐々木さんはトビラシステムズの迷惑電話フィルター「トビラフォン」をそれぞれオススメに挙げていました。

特殊詐欺では高齢者、特に女性が狙われることが多く、その理由として親切心からつい話を聞いてしまう、家にいる時間が多い――などが考えられます。

  • 特殊詐欺では 女性が狙われることが多くなっています

【動画】電話を切りたいのになかなか切れないときに、チャイムや音声を流して電話を切るきっかけを作る機能を活用する方法もあります(音声が流れます。ご注意ください)

「特殊詐欺の被害にあった人のうち、ほとんどの人が特殊詐欺を知っていました。手口が増えていく中で、高齢の方々は手口などの情報を積み上げていくことが難しいんです。そうした中で、犯罪の形態に沿ったセキュリティグッズはとても必要」(佐々木さん)

「セキュリティグッズをそろえることで、心に余裕ができます。これはまさしく防犯意識を上げる攻め方の1つだと思います」(佐々木さん)

情報格差が生まれやすい防犯対策。高齢者には対策アイテムのプレゼントもあり

AIを使った犯罪はまだ先の話かと思っていたら、もう既に起きているんですね。我が家はスマート家電を使っていますが、地方に住んでいる親や親戚はまだまだ。ディープフェイクのことも知らないに違いありません。次に帰省したときは、防犯用のスマート家電をそろえて、使い方や特殊詐欺の傾向などを話し合おうと思いました。帰省のお土産に、迷惑電話防止機能が付いた電話機を用意してもいいかもしれませんね。

  • 70歳以上の契約者、または70歳以上の人と同居している契約者の回線が対象なら、ナンバー・ディスプレイが無料に