都会では自動車を所有するにも駐車場の問題などがありなかなか難しくなっています。一方、地方でも1人1台自動車を持つとなるとそれなりに広い駐車スペースが必要になります。大きな荷物を運ぶ必要が無かったり、週末や連休に旅行に行くときに車を使うのでないのであれば、生活の「足」として小型の自動車があると便利です。日本にはそんな用途に向いた軽自動車がありますが、海外では1人または2人乗りに絞った超小型サイズのマイクロカーがブームになろうとしています。なおサイズが小さいことや昨今のエネルギー事情から、今回紹介するマイクロカーはすべてEV(電気自動車)です。
自動車を買うなら大きい方が何かと便利かもしれませんが、日常的な足として使うだけならば割り切ってマイクロカーにしてしまうのは悪い選択ではありません。自宅から駅や高速道路の駐車場までマイクロカーで向かい、そこから電車や高速バスで通勤や旅行に向かう、というライフスタイルにもマイクロカーは向いています。2023年9月にドイツで開催されたミュンヘンモーターショー(IAA Mobility)で最新のマイクロカーを体験してきました。
冒頭に紹介した真っ赤なボディーのマイクロカーはスイスのMicro Mobility Systemsが開発した「Microlino」です。最高速度は90km/h、最大走行距離は230km(14KWhバッテリー搭載時)。充電時間は4時間です。ヨーロッパで販売されており、価格は21,090ユーロ(約345万円)からです。
フロントのドアを開けるといきなり運転席が現れます。シートは2人用でソファのようにつながった形状。ハンドル部分があるものの乗り降りは楽に行えます。狭い駐車場に止めたときも、隣の車との間に隙間の余裕が無くてもこれなら不自由なく乗降できますね。
実際に乗ってみると2名が楽に座れます。本体サイズは全長2,519mm、全幅1,473mm、全高1,501mm。日本の軽自動車規格の最大横幅1,480mmギリギリの大きさであり、シートとシートの間にポケットやギアなどもないので、シート幅は横幅いっぱいに取れるわけです。
マイクロカーは軽自動車をより短くした大きさなので、駐車スペースが少なくて済むというメリットがあります。たとえば道路にある駐車スペースには自動車を縦列駐車させますが、マイクロカーなら頭から駐車して止めれば同じ駐車スペースに2台か3台を停めることも出来るでしょう(もちろん現在の駐車スペースにこのような駐車方法は禁止です)。マイクロカーが普及すれば都市部の駐車場の形状や様相も大きく変わりそうです。
Microlinoには荷物もある程度詰むことができます。トランク容量は230リットルで、週末に郊外のスーパーに出かけて2人程度の食料を買いだしても十分積み込めるでしょう。また1人だけで運転するのならば助手席にも大きめのバッグなどを積むことができます。
X Electrical Vehicle(XEV)が開発した「YOYO PRO」にも試乗してみました。最大速度は80km/hで最大運行距離は150km。なおバッテリーは充電式ですが、街中に設置されたSwapping Stationと呼ぶバッテリー交換ステーションに立ち寄ると、車体後方のハッチバックドアの下の扉を開けて、専用リフトが満充電のバッテリーに丸ごと交換してくれます。つまり電池を入れ替えながら運転できるのです。
本体サイズは全長2,530mm、全幅1,500mm、全高1,570mm。Microlinoと違い普通の自動車のように側面ドアを開けて乗り込みます。こちらのほうが普通の自動車と変わらない感覚で使えそうです。最大乗員はこちらも2名。
車内には10インチのタッチスクリーンパネルも搭載、スマートフォンとの連携も可能で車内の空調の操作やドアロックの開閉、バッテリー残量をアプリで確認できるほか、Swapping Stationの検索などもできます。
YOYO PROは本体カラーが9色用意されているほか、側面に貼り付けるパネル「YOYO Blade」でも車体をカスタマイズできます。パネルは18デザインが用意されており、アーティストがデザインしたものもあるそうです。また後から多数のバリエーションも提供されるとのことです。パネルは3Dプリンターで印刷、注文後約3週間で最寄りのディーラーに届くので、あとはYOYO Proを運転して装着しに行くだけとのこと。パネルは後から交換もできるようなので、気分に応じて着せ替えもできそうです。
この他にもオペルの「Rocks」など大手メーカーや、名前もあまり知られていない中国メーカーの製品の展示もありました。元々ヨーロッパは小型のハッチバック車が人気でしたが、今後はマイクロカーに乗り換える人も増えそうです。
さて今回は実際に道路を走らず展示会場で運転席に乗っただけですが、マイクロカーに乗り込みドアを閉めてハンドルを握ると「自動車を運転する」感覚が変わるように思いました。後ろを振り返れば最後部もすぐに見えますから自動車のコントロールも簡単ですし、余計なスペースがない分「自分の部屋」のような感覚で乗り込めます。日常生活の中に「移動」という動作がそのまま入り込む、そんな親近感をマイクロカーは感じさせてくれました。
日本ではバスやタクシーの運転手不足からシェアライドの導入の議論が始まっています。個人の移動ツールとして「1人1台」あるいはシェア自動車として、マイクロカーを日本でも導入する動きが今後進むかもしれませんね。