オンラインコミュニケーションが普及し、仕事でもプライベートでもWebを通じて会話するのは当たり前の光景になりつつあります。一方で、特にオンライン会議などで声を発するときは、周囲への配慮がとても大切。会話の中身が外に筒抜けにならないよう、減音効果を発揮するデバイス「Privacy Talk」をキヤノンが7月に発表し、注目を集めています。

  • Privacy Talkの試作機を装着したところ

今回、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)がPrivacy Talkの試作機を報道陣向けに公開。間近で見る機会を得たので、ファーストインプレッションをお伝えします。

ナゾの多いPrivacy Talk、“独自構造”で減音&遮音

Privacy Talk(プライバシー トーク)は、自分の発した声が周囲に聞こえにくいように減音する装着型デバイス。ぱっと見はグレーの布地を使ったマスクの左右に、一般的なカナル型(耳栓型)の有線イヤホンを取り付けたようなかたちをしています。口や鼻に当たる部分には、集音用のマイクや通気性を高めるファンを内蔵しているそうです。

  • Privacy Talk

なぜ伝聞調かというと、まだ開発段階ということもあって、最大のキモの部分である「声を独自構造の中を通過させる」仕組みが明かされず、実機の口に当たる部分も見せてもらえなかったから。ただ、試作機を装着した係員によるデモを見る限り、高い減音効果があることがうかがえました。

  • Privacy Talkの左右には、カナル型(耳栓型)の有線イヤホンが取り付けられている。耳にかけるひもは長さ調節できる(着脱はできない)

たとえば係員が「私の名前は○○です」とハッキリ話していても、普通に対面で会話する距離(1m程度)だと「モゴモゴ……」としか聞こえず、何を言っているのかほとんど聞き取れません。これだけ短いフレーズでも「え? もう一回お願いします」と聞き返したくなるレベルなので、通常の会話やそこそこ長い発言であればまったくお手上げとなりそうです。

Privacy Talkで採用している“独自構造”は装着者の声を外に漏らさないだけでなく、周囲の音を内部のマイクが拾いづらくする役割も兼ねているとのこと。電気的な処理を行っているものではないそうです。装着したところを見る限り、一般的なマスクのように肌に密着するタイプではなく、通気性が保たれているので装着していてもムレたりはしない、と係員が話していました。

  • 装着者を正面から見るとこんな感じ。普通のマスクと有線イヤホンを着けているようにしか見えない

マスク形状の中で反響する自分の声や鼻息、換気用ファンが発する音など、快適な会話を阻害するノイズ要因に対してどういった処理を施すのか? Bluetooth経由による送話・受話のクオリティは実際どうなのか? 内蔵バッテリーで何時間使えるのか? などなど、興味は尽きません。具体的な仕様や投入時期、どれくらいの価格で販売するのか、という気になる点は、現時点ではいずれも未定です。

  • イヤホン部分

基本はWeb会議用途、ゲームやオンラインレッスンでの活用も

Privacy TalkのメインターゲットとしてキヤノンMJが想定しているのは、「オンライン会議の環境で課題を抱えているビジネスパーソン」です。

自席やオープンスペースといった“個室として仕切られていない場所”や、出先のコワーキングスペースなどでオンライン会議に参加するときは、さまざまな課題が出てくるのはもはや周知の事実。同社の調査によると、「周囲の雑音が相手に伝わって不快感を与えていないか」、「自分の声が周囲の迷惑になっていないか」といったことを気にする人がやはり多いようです。もちろん、「オンライン会議での発言から情報漏洩につながるリスク」を懸念する声もあがっていました。

こうした課題に応える製品として、同社ではPrivacy Talkをアピール。一般消費者向けに加え、働き方改革支援などの観点から、法人向けの訴求も視野に入れているといいます。

  • Web会議で課題を抱えているビジネスパーソンがメインターゲット

また、個人向けでは仕事のみならず、プライベートシーンでの活用も考えられます。同社では、ゲームで遊んでいるときにうっかり声が大きくなってしまう、夜間などの時間帯や家族・近隣住人を気にせずゲームを楽しみたい、ボイスチャットの内容を聞かれたくない、といったニーズに応えられると説明。ほかにも、英会話などのオンラインレッスンの中身を他人に聞かれないようにしたり、カフェなどの出先での受講時に使ったりすることも想定されるとのこと。

  • ゲームやオンラインレッスンでの活用も提案

「オンラインコミュニケーション用のデバイスなのに、なぜマスク型なの?」という素朴な疑問も生まれますが、担当者によると「装着したときに違和感がないデザイン」としてこの形状を採用したとのこと。特に日本では、春先に花粉症対策でマスクを着ける姿が多く見られ、欧米のようにマスクに対する抵抗感が比較的少ないということもあって、マスク型デザインに落ち着いたそうです。

ただ個人的には、たとえばキヤノンMJが想定している「VRヘッドセットとPrivacy Talkの組み合わせ」では、鼻周りでデバイス同士が干渉してしまう可能性があるように思います。Privacy Talkの外部を覆っている布地(アウターカバーと呼称しているパーツ)を取り外したり、用途に合わせて他の装着型デバイスと干渉しにくい形状のものに付け替えたりできれば、こうした懸念も払拭されそうですが……。

いろいろ気になるPrivacy Talkですが、若年層マーケティングの強化と新たな顧客層へのリーチをめざし、2020年4月に設立されたキヤノンMJ初の企業内起業「ichikara Lab」(イチカララボ)が将来的な商品化をめざして開発中。キヤノンMJのWebサイト内には既に特設ページができており、専用フォームに必要事項を記入してメールアドレスを登録すると、プロジェクト情報をいち早く配信するサービスを提供しています。まだまだナゾ多きデバイスですが、興味を持った人は登録してみてはいかがでしょうか。