4日間にわたって「写真の町」北海道東川町とその周辺で繰り広げられてきた、全国高等学校写真選手権大会「写真甲子園」。記念すべき30回大会は、6回目の出場となる昨年の覇者・大阪府立生野高等学校が2連覇を達成しました。
7月27日のファースト公開審査会では「あふれる」という各校共通テーマに対し、「ひととき」というタイトルで、陰影が印象的なカラー8枚組を発表。翌28日のファイナル公開審査会では「えん」という各校共通テーマに対し、「紡ぐ」というトーンの美しいモノクロ8枚組を発表しました。
生野は、本戦に挑む選手3名が決まってから、1カ月半ほど本番を見据えた練習を繰り返していたそう。その内容は、3時間撮影をしたあと、1時間を使って8枚組のセレクトをするというもの。テーマも人物や自然などいろいろで、昨年の優勝メンバーでもある主将の白石琴乃さんは「とにかく暑いし、写真を撮らせてくれる人はいないし……。でもこんなにキツいことはない、と思ったら、それが自信になりました。今まで撮ったことがないものを撮ったり、キツかったけど楽しい時間でもありました」と振り返っていました。
撮影時は3人が分かれ、ほぼ単独で行動したのも特徴。吉田監督もいろいろ考えたものの、厳しい練習を積んできた選手を信じ、撮影もセレクトも好きなようにやらせたそうです。公開審査会でも立木義浩審査委員長がそこに注目し、「選ぶときにそれぞれが“私の写真がいい”“私の写真を入れろ”ってケンカにならないの?」と質問していました。
意見の対立はほとんどなかったそうですが、その理由を白石さんは練習でお互いの個性や良さを知り尽くしているからではないかと分析。「キヤノン・スピリット賞」を受賞した山本さんの作品は、撮影した本人はセレクトから外していたものの、白石さんとチームメイトの辻みなつさんが「この写真いいよ!」と発表作品に取り入れたそうです。「他の2人が自分の気付かないところに気付いてくれることで、1人ではできないような質の高い組写真ができます。それが3人でチームを組む写真甲子園の良さだと思います」(白石さん)。
ちなみに、生野は大阪有数の進学校として知られていますが、部活動が盛んな文武両道の高校でもあります。写真部だと文文両道かもしれませんが、実はその写真部、2011年に吉田先生が生野へ異動してきたときは廃部から数年が経った状態。かつて写真甲子園に応募した記録が残っていましたが、吉田監督ご自身は応募したことがありませんでした。そこで本戦出場を目指し、同好会の立ち上げから始めたそう。そこから現在では部員36名の大所帯に。写真甲子園に行く3名の枠は、その部員全員にチャンスがあり、複雑で厳しい部内選考を経て決まるそうです。正直なところ、写真甲子園で優勝するよりも、生野高校の中で本戦メンバーに選ばれるほうが難しいかもしれません。
そんな生野は、2回の公開審査会とも質の高い作品を発表し、頭ひとつ抜けていた感がありますが、全体を見ると実力は拮抗していたようにも思います。写真甲子園では、組写真を発表するという仕組み上、撮影と同じかそれ以上にセレクトが結果を左右します。準優勝は城北埼玉(埼玉県)、優秀賞は翔凜(千葉県)、総合芸術(東京都)、富山東(富山県)、八代白百合学園(熊本県)、浦添工業(沖縄県)の5校ですが、いずれも8枚の構成力が高く、表現意図がしっかりと感じられました。
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表彰式の後、審査員を務めた写真家各氏(左から浅田政志氏、鵜川真由子氏、須藤絢乃氏、中西敏貴氏、公文健太郎氏)が総評をコメント。最後に立木義浩審査委員長(右端)が「これからの時代、写真と関わらずに生きていくことはできないと思う。フィルムがデジタルに置き換わるようなことはまたあるかもしれないけど、世の中のおもしろさは伝えられると思う。そんな写真をもっと周囲に勧めてください。そして写真甲子園のことも広めてください」と締め括った
30回という節目の大会でしたが、初回から審査を務めてきた写真家・立木義浩氏が今回をもって勇退。公開審査会での“立木節”や選手との掛け合いが大会の華でもあっただけに、来年の公開審査会がちょっと想像できませんが、それでも7月末にはまた高校生が東川町に集まり、カメラ片手に熱戦を繰り広げるはず。生野の吉田監督も「2年生はもう準備を始めている」とおっしゃっていました。高校写真部の1~2年生の皆さん、そして顧問の先生方、来年の写真甲子園はもう始まっていますよ!