インターネットイニシアティブ(IIJ)は6月24日、オンライントークイベント「IIJmio meeting #34」を開催した。MVNOを中心に、主に通信関連のディープな話題で人気の同イベントだが、今回は顧客対応からeSIM、そしてIIJの社内システムの紹介と、MVNOに限らず幅広い話題が扱われた。
回線が遅いのは誰のせい?
ユーザーとIIJのエンジニアらによる交流イベント「IIJmio meeting」。例年、年に3~4回開催されてきたが、今回は前回(2022年9月17日)から約9カ月ぶりと、大分間隔が空いてのオンライン開催となった。
恒例のIIJ Updatesでは、一部の地域で発生している、つながりにくい問題についての報告があった。これはIIJmioタイプD(NTTドコモ回線)を利用しているユーザーの間で発生している問題で、タイプA(KDDI回線)では発生していない。場所や時間帯によるが、主に都内など混雑している地域で、遅いときは1Mbpsを切ったり、接続自体が失敗したりしてしまう(タイムアウト)ような状況になる。
結論から言うと、この問題はドコモ網側に原因があり、IIJmio側の努力で改善することは難しい。どうしても契約対象であるMVNOに批判が集まりがちだが、MVNO側に責任がない状況もある、というわけだ。
ドコモ網側では今夏に解消を目指しているとしているが、それまでユーザーレベルでできる対策はあまりない。タイプDユーザーにとっては歯がゆい状況が続くが、タイプA回線と併用するなどしてうまく回避してほしい。
また、「スマホ用電子証明証搭載サービス」、いわゆるマイナンバーカードをAndroidスマートフォンに統合できるサービスについての注意喚起がなされた。スマホを売却する際だけでなく、修理や紛失したケースも含めて、電子証明書を「失効」するのか、「一時利用停止」するのかがわかりにくい(お恥ずかしながら、筆者もよくわかっていなかった)。特に売却する際など、スマホ自体をリセットしても電子証明書は失効していないといったケースもあるため、注意が必要だ。
ユーザーの声を取り入れる
最初のセッションでは、MVNO事業部コンシューマサービス部の亀井正浩氏から「改善活動の取り組み」として、IIJが顧客満足度向上のために行ってきた取り組みの紹介が行われた。
IIJではユーザーの満足度向上のため、様々な施策を行っている。どのようにユーザーの声を集め、分析し、改善を施しているかが具体的な事例とともに紹介された。
また、ユーザーから寄せられたクレームや要望は全ユーザー数からすると1%程度と非常に少ないが、これを重要な意見と捉えて改善活動につなげているとのこと。
こうして集められた課題に対して、どのように改善してきたかの具体例も多数紹介された。個々の改善内容は小さいものも多いが、全体としては顧客体験を高める効果的なものが多く、感心させられた。
こうした改善の結果、2022年度は4つの顧客満足度調査で1位を獲得しており、着実に成果が現れていることが明らかになっている。
顧客満足度調査と改善は様々な企業で行っているだろうが、実際の事例紹介は大いに参考になるはず。分析から実施まで、さまざまなヒントが散りばめられた、大変見応えのあるセッションだった。
eSIMって結局なんだっけ?
続いてのセッションでは、「eSIMの動向」と題して、IIJmio meetingではおなじみの佐々木太志氏から、eSIMを巡る業界動向についての解説が行われた。
eSIMといえば「書き換え可能な内蔵SIM」という印象が強いが、実際にはOTAで書き換えさえできればよく、必ずしも「内蔵」である必要はない。実際日本で最初に登場したeSIMは抜き差し可能なものだった。
現在は抜き差しの必要がないため、サイズ的にも有利なチップ型のeSIMが主流。OTA RSP(無線によるリモートSIMプロビジョニング、プロファイルを読み込んでSIMを利用できる状態にすること)の手順も標準化され、多くの機器でeSIMが利用できるようになっている。
前述したように、eSIM自体は2017年にドコモから登場し、またApple Watch Series 3に搭載される形で、同じく2017年から市場に浸透し始めた。しかし、これらのeSIMはあくまで特定の機種でしか使えないもので、端末を問わないeSIMの提供は、IIJが2019年7月に「eSIMベータ版」として提供したものが国内初。その後、2020年に本サービスに昇格し、2022年にはデータ通信に加えて音声通話にも対応したeSIMサービスを開始するなど、IIJが本邦でのeSIMサービスをリードし続けている。
佐々木氏はeSIMを取り巻く環境について、「イノベーション」と「レギュレーション」という2つの側面から分析。イノベーションについては、昨年7月に発生したKDDIの大規模ネットワーク障害の際にeSIM契約数が前週の8倍近くにも跳ね上がったことを挙げ、iPhoneをはじめとするeSIM対応端末の増加や、15分程度で契約が完了するeSIMが緊急時の代替回線として向いていたことを挙げ、IIJの先進的な取り組みが利用者の利便性を守れたとした。
またレギュレーションという側面については、総務省が通信事業者乗り換えの円滑化を目指して2020年に設置した「スイッチング円滑化タスクフォース」がきっかけとなって、MNOが2021年ごろからeSIMの本格提供を開始したことを紹介。行政サイドが環境を整えたことでeSIMの普及が加速しはじめたことを明らかにした。実際、筆者が確認している範囲だけでも、MNO、MVNO併せて14ブランドがeSIMを選択できるようになっている。
さて、携帯電話の契約時には本人確認(KYC:Know Your Customer)が必要だ。従来は契約後、本人確認の書類を送るなどの必要があったが、IIJmioでは、音声通話機能付きeSIMのサービス開始時から電子的手段で本人確認を行う「eKYC」を採用した。ネットでの申込時に写真や動画を撮影することで本人確認をして、短時間での発行が可能だ。携帯電話は特殊詐欺事件などに利用されやすいため、KYC自体は絶対に必要な手続きとなるが、利便性拡大のためにeKYCを取り入れたという。ただし、警察庁は更なる本人確認強化を検討しているとのこと。この辺りは利便性と犯罪防止の兼ね合いから、状況が流動的なようだ。
バリーくんのエスカレーション業務
続いて「バリーくんとMVNOの運用」と題して、MVNO事業部コンシューマサービス部の姜鍾勲氏から、同社のエスカレーション業務についての解説が行われた。
エスカレーション業務というのは、「何かが発生したときに」「関係する部署」に「すぐ連絡する」業務のこと。IIJの場合であれば、ネットワークで発生したトラブルなどを、関連する部署·担当者に連絡する業務のことだ。ネットワーク業務は基本的に24時間·365日が対象となるので、まったく機の休む暇がない業務なわけだ。
ただ呼び出すだけであれば誰にでもできそうに思われるが、「その問題はどこの担当なのか」「現在問題はどのような状況なのか」「誰が対応中なのか」といったステータスを把握するのは難しい。まして、災害時などトラブルが複数進行している場合などは尚更だ。
そこでIIJでは「Barry」というエスカレーション業務の支援ツールを作成して対応することにした。Barryはシステムからのトラブル通知と連動して担当グループ全体に通知を発信するだけでなく、対応状況の表示や記録、さらに過去の記録の閲覧なども行えるため、効率よくエスカレーション業務を処理できるというわけだ。トラブル対応専用のグループウェア的なもの、という感じだろうか。
で、このBarryのマスコットキャラが、IIJmioなどではすっかりおなじみとなった「バリーくん」というわけだ。ちなみに「バリー」という名前は、スイスで19世紀初頭に活躍した山岳救助犬の名前から取ったとのこと。バリーは「世界一有名なセント·バーナード」と言われる犬で、40人以上の遭難者を救ったとして知られている(ちなみに東京消防庁のハイパーレスキューも、バリーを題材にしたワッペンを使っている)。
エスカレーション業務というのは気が休まらないわりに目立つことのない縁の下の力持ちであるが、そんな業務がマスコットとして親しまれているというのは面白い。今後もバリーくんを見かけたら、裏ではエスカレーション業務のスタッフがネットワークの平和を守るために頑張っていることに思いを馳せてほしい。
IIJの配信スタジオは本格的!
セッション終了後は視聴者からの質問をTwitterで募集して、本日の登壇者+広報の堂前清隆氏が回答するQ&Aのコーナー。筆者は政府が検討中という、スマートフォンOS、特にiOSに対してApple以外のApp Storeを利用できるようにさせる、いわゆるサイドローディングと呼ばれる問題について質問してみたのだが、アプリ開発者としてのIIJの立場からすると、審査は厳しいが公式ストアのメリットもあるとのこと。堂前氏からは個人的に、電子書籍などAppleと競合するサービスへの扱いが冷たいこと、審査基準がアメリカの文化であり、世界的なサービスがアメリカの基準で左右されるのはいかがなものか、という感想もいただいた。筆者個人的には、ストアは一元化したまま、決済手段の多様化で話が済む問題だと思っているが、果たしてどのような着地点になるのか、大いに注目したい。
最後に、今回の配信が行われた、IIJ東京本社にある「IIJ Studio TOKYO」の様子が紹介された。今回の登壇者は全員がグリーンバックの背景の前で撮影されており、そこにスタジオ入り口の写真やスライドなどが合成されていた。スタジオにはミキサーなどが置かれたサブルームのほか、出演者の待合室なども用意されており、かなり本格的。実はIIJは1990年代から映像配信に関わってきた歴史がある。コロナ禍以降は自社イベントでも配信の機会が増えたこともあり、本格的なスタジオを社内に構築したという経緯がある。ちなみに、設備はいずれもIPベースで接続されているあたりが、いかにもIIJといったところだ。
IIJmio meetingをはじめとする各種イベント配信も、年々スキルアップしていることは感じていたが、設備面でも配信をバックアップする体制がしっかり整っているのが明らかになったのは心強い限り。今後の配信も楽しみにしたい。
次回こそリアル開催?
約9カ月ぶりとなったIIJmio meetingだったが、オンライン開催は参加しやすいというメリットがあるものの、本イベントの魅力はやはり、ユーザーとエンジニアの交流の場という側面だ。次回開催の日程は未定だが、次はそろそろリアル会場での開催を考えたいとの言葉があった。それまでにコロナ禍が一段落しており、安心して参加できるようになっていることを期待したい。