4月1日に解禁される資金移動業者への送金による賃金の支払い、いわゆる“賃金のデジタル払い”について、MMD研究所が認知や利用意向の調査結果を公表した。内容まで理解しているという人は就業者の34.9%と約3人に1人で、利用意向は「利用したい」「やや利用したい」をあわせて29.8%ということだった。

“賃金のデジタル払い”の概要

賃金の支払い方法は、通貨による支払いが原則。そのうえで、労働者が同意した場合には金融機関の銀行口座/証券総合口座への振り込みによる賃金支払いが認められるというのがこれまでの運用だった(労働基準法施行規則第7条の2)。これに加え、資金移動業者の口座への賃金支払いを認めるようにしようというのが、2023年4月1日に施行される改定、いわゆる“賃金のデジタル払い”の解禁だ。ここでいう“資金移動業者”というのが「PayPay」「楽天ペイ」「d払い」などのキャッシュレス決済サービスで、こういったキャッシュレス決済サービスのアカウントへの送金という形での賃金支払いが認められるようになる。

賃金のデジタル払いについては使用者(=雇用側)と労働者の同意が必要で、使用者が労働者にデジタル払いの利用を強制しないことが前提となる。現金化できないポイントや仮想通貨での賃金支払いも認められない。また、資金移動業者には口座残高が100万円を超えて滞留することのないようにする措置を講じることが求められるため、給与支払いによりアカウントの残高が100万円を超える場合、銀行口座への送金などが行われることになる。

なお、4月1日に賃金のデジタル払いが解禁されるといっても、この日から資金移動業者が賃金支払先としての厚生労働大臣の指定の申請が可能になるということであり、即座にデジタル払いが利用されるようになるわけではない。申請後、資金移動業者が厚生労働大臣の指定を受け、一般事業者が給与支払い先とする資金移動業者を選定し、労使協定の締結と労働者からの同意書の提出を経て、はじめてデジタル払いが利用されるようになる。

理解度が高いのは30代、男女差は目立たない

以上のような賃金のデジタル払いについて、全国の就業している男女の内容理解/認知を調べた結果が次のグラフ。「知っており、理解している」は34.9%で2022年から10.4ポイントのアップ、「言葉を聞いたことがあるが、内容は知らない」も含めた認知は71.2%で19.2ポイントのアップ。約3割が「知らない」と答えているものの、理解・認知は前年より広がっている。

  • グラフ:給与デジタル払いの認知度(2022年との比較)

    給与デジタル払いの認知度(2022年との比較)

これを性別/年代別に分析したのが次のグラフ。全体として男性のほうが理解度は高い傾向だが、認知度では男女差はあまりない。年代別では30代以上の認知度が高く、理解度は30代がトップ、それに次ぐのは20代と40代が同程度、ちょっと差があって50代、10代という結果だった。

  • グラフ:給与デジタル払いの認知度(性年代別)

    給与デジタル払いの認知度(性年代別)

10代はデジタル払いに前向きだが、40代/50代は消極的

同じく全国の就業している男女に、賃金のデジタル払いについて説明したうえで、その利用意向を聞いた結果が次のグラフ。全体としては「利用したい」が10.3%、「やや利用したい」が19.5%。前向きなのは合計29.8%という結果だが、10代では男性の51.5%、女性の44.4%が前向きな反応。男性20代(39.5%)/男性30代(37.5%)/女性20代(39.6%)/女性30代(39.1%)と前向きな人が4割近くになっているが、40代になると男性27.0%/女性25.1%と大きく数字が落ちる。さらに50代で「利用したい」という人は男性4.7%/女性4.3%と、10代の約4分の1となっており、世代間のギャップは大きい。

  • グラフ:給与デジタル払いの利用意向(性年代別)

    給与デジタル払いの利用意向(性年代別)

賃金のデジタル払いのメリット/デメリットは?

続いて、賃金のデジタル払いのメリット/デメリットを複数回答で聞いている。

メリットとしては、「キャッシュレス化が促進される」を挙げた人がもっとも多く、30.3%。続いて「銀行口座から現金を引き出す必要がなくなる」23.4%、「銀行口座から現金を引き出す手数料が不要になる」21.3%、「銀行口座がなくても給与を受け取れる」20.4%と続く。ただし、「わからない/特にない」という回答も29.8%あり、具体的なメリットが思い浮かばない人も少なくなさそうだ。

  • 給与デジタル払いが解禁された場合のメリット(グラフ)

    給与デジタル払いが解禁された場合のメリット

デメリットはメリットよりも具体的。「デジタルマネーが使える店舗でしか買い物できない」34.4%でもっとも多く、「銀行口座への資金移動が面倒」32.8%、「停電やシステムエラーが起こった時どうなるのかが心配」31.4%と続く。デメリットとして挙げられている内容を大別すると、スマホ経由のキャッシュレス決済に依存してトラブルが発生することに対する不安と、現金化/銀行口座などの面倒さの2つを懸念する人が多いようだ。

  • 給与デジタル払いが解禁された場合のデメリット(グラフ)

    給与デジタル払いが解禁された場合のデメリット

調査概要

  • 調査名:2023年3月給与デジタル払いに関する調査
  • 調査期間:2023年3月7日~3月14日
  • 有効回答:6,034人 ※人口構成比に合わせて回収
  • 調査方法:インターネット調査
  • 調査対象:18歳~59歳の就業している全国の男女
  • 設問数 :5問