時間を気にせずどこでも楽しめるケーブルレスヘッドフォンアンプとして以前紹介したBOSS「WAZA-AIR」。練習時にケーブルから解放される感覚や、忙しい合間にちょっとギターを手にしたいといった際に使いやすいアイテムだが、BOSSにはもう一つ同じコンセプトのミニアンプ「KATANA-AIR」(実勢価格43,000円ほど)があるのをご存じだろうか。ヘッドフォンとはまた違い、実際のスピーカーから出てくるダイレクトなサウンドはやっぱり心地よい。今回はこの「KATANA-AIR」を入手したので早速ご紹介しようと思う。

  • BOSS KATANAシリーズの末っ子「KATANA-AIR」。寸法は幅 350 ×奥行き144 ×高さ 181 mm。横長のためか、サイコロ状のアンプと比べると、持ち運びしやすい

気軽に音出しできるミニアンプを求めて

個人的な話で恐縮だが、チューブアンプ派の筆者は練習時にも小型真空管アンプを利用している。毎日弾くことはさすがになくなってしまったが、週に数回、数時間程度電源を入れていると真空管のへたりが早く、1~3年に一度ぐらいのペースで交換することになる。まぁ、それは問題ないのだが、その真空管の生産国として最も有名なのがロシアだ。

毎朝流れる戦争のニュースを見てもわかるように、ロシアはいま経済的に孤立し始めており、日本にあるギターアンプ用の真空管がいつまで供給されるのか先が見えない状況に陥っている。「このままでは、いつメインアンプのメンテナンスができなくなるかわからない」と、勝手に思い込んだ筆者はある決断をした。「なんだ、デジタルアンプでも買えばよいではないか」とね。

ちょっと前段が長くなったが、それは言い訳で本当は単純に新しいアンプが欲しくなっただけ(呆れ)。以前体験したWAZA-AIRの快適さをそのままミニアンプにしたKATANA-AIRに食指が動き、そのままポチっとしたということなのだ。これからはこいつが練習時の相棒になるわけなのだが、こんなに良いアンプを自分の満足のためだけにしておくのはもったいない。みなさんにもこの快適さをご紹介したくなったという訳だ。

  • ヒモなし演奏を可能にするトランスミッターを差し込んだ状態。シールドをアンプにつなぐのがどうも面倒で……という人も、このアンプなら手軽にエレキギター演奏が楽しめるはずだ

信頼のサウンド品質と機能性も死角がない

さて、このKATANA-AIR。シリーズ名からも分かるように、BOSSのデジタルアンプ群の末っ子的な存在になるが、機能は兄弟譲りで文句のつけようがなく、さらには本体内蔵という形でワイヤレスシステムまで搭載しているスグレものになる。

メインのエレキギター用プリアンプはBOSSの兄弟機が得意とし、市場からも高い評価を得ている「ブラウン」サウンドを中心に、クリーン、クランチ、リードの4タイプがある。さらにエレアコも使えるようにアコースティック専用プリアンプも搭載されている。まさに練習用として死角のないところが実にBOSSらしい。

  • サウンドメイクは、各種コントロールノブとボタンで行う。複雑そうに思えるかもしれないが、仕組みを覚えてしまえば簡単に音作りが楽しめる。アンプの種類は一番左のAMP TYPEのノブで選択する

エレキギター用アンプタイプ4つのサウンドと、内蔵エフェクターを併用したサウンド2つをご紹介。使用ギター:チェンバード(くりぬき)ボディのLes Paul Standard 2008。録画環境:KATANA-AIRを録画室に設置して、出力した音をそのまま音声マイクで拾っているだ

もちろんエフェクターも用意されており、その数は50種類を超える。同時使用は3つまでだが、それ以上を使うケースはほとんどないと思うので、こちらも十分な機能が備わっているといえる。アンプとエフェクター群をうまく組み合わせて、自分が欲しいと思うサウンドが簡単に作れるのは非常に魅力的だ。

ちなみにエフェクター全種類を使うには、専用アプリを利用する必要がある。とはいえ、手持ちのスマホにインストールして、Bluetooth接続でコントロールするタイプになるので、準備に手間はかからない。アプリも直感的に操作できるので、よほどのことがなければ操作に迷うことはないだろう。

  • 専用アプリとなる「BOSS TONE STUDIO for KATANA-AIR」。直感的に操作できる使いやすいアプリだ。無償で提供されている

使いやすいワイヤレスシステム

概要は以上として、さっそく準備に取り掛かろう。まずはギターのジャックにセットするトランスミッターを充電する。コンセントに繋いだ本体の上部に専用のジャックがあるのでそこへ差し込んでおけばオーケー。残量にもよるが、最大でも5時間で充電は一回完了する。これはリチウムイオン電池の保護機構で、満充電でなくても充電が停止するので注意。充電の状態は本体のインジケーターで確認できるので、説明書はよく読んでおくように。

  • 充電式のトランスミッター。本体の専用ポートを利用するほか、直接USB経由で充電することもできる

  • 本体に備え付けられたトランスミッター専用ジャック。充電装置も兼ねているが、トランスミッター以外のものを差し込まないように注意だ

充電が終わったらトランスミッターをギターにセットする。ジャックに差し込まれた状態になると自動的にトランスミッターがオンになり、演奏をやめてスタンドなどにギターを置くと自動的にオフになる。次にギターを手に取るとその振動でトランスミッターが再起動してまた弾ける状態になるという、実にオートマティックなシステムになっている。この感覚はまさに“AIR”で、何もストレスなくアンプからサウンドが出てくるのは実に快適だ。

ちなみに筆者の自宅環境での出来事だが、周波性のあるノイズが混ざる現象が出ていたのでショップ経由でBOSSに問い合わせたところ、「もしかしたらアンプの置き場所の問題かもしれない」という回答だったので設置場所を変えてみたところ、やや症状が治まるエリアは確かにあることがわかった。とりあえず、改善できる方法がわかって良かったといったところだが、もし購入後、KATANA-AIRで同じ状況が起きた場合はアンプ側の設置場所を変更してみるのもひとつの方法だということを報告しておこう。

アンプ、エフェクターを専用アプリでセッティングする場合は「WAZA-AIR」でレビューした時とほとんど変わらないのでそちらを参照して欲しい。というか、アプリ的にはほとんど同じものを使うので大きな違いはなく、逆に既存の使用ユーザーは安心して本機も利用できるのはよいところだ。

  • ぜひ試してほしいのが「TONE CENTRAL」のライブラリー「Rock Legend」のシリーズ。時代を彩ったスーパー・ギタリストたちのサウンドが簡単に再現できてしまうので、ビックリするはず

もちろんアプリを使わずとも、本体にデフォルトでセットされているエフェクターのみでよいならセッティングは可能。「BST/MOD」(BST= BLUES DRIVE、OVERDRIVE、DISTORTION/ MOD= CHORUS、FLANGER、PHASER)と「DELAY/FX」(DELAY= DIGITAL DELAY、ANALOG DELAY、TAPE ECHO/ FX= TREMOLO、T.WAH、OCTAVE)、そして「TAP」ボタンと「REVERB」(PLATE REVERB、SPRING REVERB、HALL REVERB)ボタン、それに各ダイヤルを使えば簡単に設定できる。すこしコツ、というか覚えておく必要があるのがつまみ類で、例えば「DELAY/FX」つまみの場合は真上を境に左半分がDELAY、右半分がFXのいずれかの選択と掛かり具合を決めることになる。

  • エフェクターの掛かり具合は3つのノブを使って調整する。ディレイとコーラスなどを一つのノブにまとめているあたり、使いやすさを考えぬいた設計になっている

アンプ側のセッティングはつまみを見れば一目瞭然なのでセッティング方法は割愛する。昨今は、細かいパラメーターでカスタマイズするような機材が多いが、「KATANA-AIR」や「WAZA-AIR」は、あえて機能を省略して、混乱なく快適に使えるようにした配慮を感じる。アンプ、エフェクターで作ったサウンドは6つまでメモリー可能でアプリや本体のCH A、CH Bボタンで呼び出すことができる。ただし、演奏中に瞬時に切り替えるといった使い方はできない。練習用と思えば特に不満はないが、その機能が必須という方は注意しておいたほうがよいだろう。

まさに“AIR”的に使えるミニアンプ

実際に音を出してみるとなかなかの迫力でサウンドが届いてくる。定格はACアダプター利用時で30Wとなっており、自宅環境としては十分すぎる音量といえる。そのほか、単3アルカリ電池またはニッケル水素電池×8本の電池駆動も可能なので、ギターもアンプもケーブルレスという環境も簡単に作れる。場所を選ばないという意味ではまさに製品名通りの仕様だといえる。

また、USBポートも備えており、USBオーディオインターフェイスとしても使えるので、思いついたときにささっとPCで録音しておく、といったことも簡単にできてしまうのも魅力だ。

サウンドの品質についてはいまさら語る必要がないほどだが、クリーン、クランチ、ブラウン、リード、どれをとってもBOSSならではの安定した音質となっている。個人的にはクリーンにBLUES DRIVEを乗せたサウンドが好み、というか実際によくやるセッティングなので個人練習にはぴったりだ。

出てくるサウンドは実際のチューブアンプ+BD-2とはニュアンスというかダイナミズムというか、若干違いは感じるが、アンプのスピーカーがそもそも違うので誤差の範囲ともいえる。弾いていて心地よさは変わらないので、ライブ間近というギタリストでも安心して練習に没頭できるはずだ。