「海洋研究3Dスーパーサイエンスプロジェクト」の一期生による研究発表会が、5月22日に開催されました。昨年(2021年)9月に入学式と第1回授業が行われてから8カ月。9名の中高生たちは、どこまで成長したのでしょうか。
ウニやクラゲを探求、意欲的な研究が続々!
このプロジェクトは日本3D教育協会が主催するもの。最新の3D技術を活用した海洋生物の研究を通じて、将来さまざまな分野で活躍できる人材を輩出することを目指しています。共催には海と日本プロジェクト、協力にはワコム、ミマキエンジニアリング、ボーンデジタルなどが名を連ねています。
冒頭、まずは3D主任講師である吉本大輝氏が挨拶。これまでの一期生の授業への取り組み方を振り返り、「興味を持ったことにはとことん打ち込み、そして飲み込みも早かった。私も毎日、驚かされてきました」と感想を口にしました。
研究発表のトップバッターに選ばれたのは栗山奈月さん(高1)。中1のときに訪れた水産技術センターで魚介類に興味を持ったという栗山さん。なかでも、ムラサキウニにキャベツを食べさせると身が詰まった美味しいウニになるという漁業者の取り組みが今でも印象に残っているそうで、本プロジェクトでもウニの3Dモデリングに挑戦しました。
当初、ウニをヨウ素液に浸してCTスキャンすることを考えました。「ウニの内臓と、ウニの体内に含まれる海水は透過率が同じくらいで、CTを使って読み込むことはできません。そこで内臓を着色してコントラストをつけようとしました」。けれど実際は、内臓も透けてしまいました。
そこで他の方法を検討し、最後は「ウニ学」という書籍を参考にしながらモデリングすることに。自分の頭で考え、トライ&エラーを繰り返しながらも目標に近づいていく姿は、すでに次世代の研究者です。
“アリストテレスの提灯”と呼ばれるウニの口や、薄ピンクの小腸、大腸など各器官を丁寧にモデリングしていったそう。「私たちが普段口にしているのは、ウニの5つの生殖巣です。次に管足(かんそく)を紹介します。ウニは、こちらの青い多孔板(たこうばん)から水を取り入れます。そして放射水管を通って、管足に水が届きます」。詳しい発表内容からは、栗山さんが3Dモデリングを通じてウニの各器官に精通していったことがうかがえました。
最後に、「当初、自分ほど魚介類に好奇心がある子はいないと思っていたのに、このプロジェクトにはもっと研究熱心な子がいて、とても刺激を受けました。またPCは苦手でしたが、いまでは3Dソフトも動かせるようになりました。そして海洋生物と3D技術という、一見関係のなさそうなものを繋げて考えてみる、という柔軟性も身に着けました」とコメント。その笑顔が、この8カ月間の充実ぶりを物語っていました。
続いて、杉本拓哉さん(中2)は兄の凌哉さん(17歳)と一緒に登壇。2人は4年前に岡山県の海岸で新種のクラゲ(オーキストマ属)を採取したことがあることから、クラゲの3Dモデリングに挑戦しました。
「生殖巣がクネクネしているんです。この形をモデリングしたかった。でも内側の構造が分かりません」と拓哉さん。兄弟は東京海洋大学 助教の中村玄氏らに助言をあおぎつつ、クラゲをCTスキャンする方法をゼロから考えていきました。
X線でクラゲの水管を映そうと、ヨウ素を使ってみました。けれどクラゲが入った海水全体が黒く写るだけでうまくいきません。最終的には、海で採取してきた大きなクラゲをサンプルに、目で観測しながらモデリングしていったそうです。
「口腕の構造などは、よくよく観察したら想像と違いました。これまでは観察不足だった。またクラゲのカサには縁に切れ込みがありますが、深い部分、浅い部分が交互に8つずつあることが分かりました」と拓哉さん。3Dモデリングに取り組むことで、対象となるクラゲを隅々まで観察し、新たな発見があったと明かします。
「ヨウ素はクラゲに害がある物質。クラゲがかわいそうです。できれば、ほかの物質も試したい。いつかクラゲのCTスキャンを成功させて、将来の学術研究に活かします」と話していました。
冨田蓮さん(中2)はイトマキヒトデの3Dモデリングに挑みました。丸いフォルムを再現したかった、と冨田さん。小学生のときに訪れたショッピングモールで水槽のヒトデが歩く様子を見て「どうやって動いているんだろう」と疑問に思ったのが、ヒトデに興味を持つきっかけだったと語ります。
「イトマキヒトデは、海の浅いところに生息しています。人が触れることができる水族館のタッチプールによくいますね。普段、私たちが目にするのは背中側ですが、裏は鮮やかなオレンジ色。放射状に白い足があり、これが動くことで歩けるんです」と詳しく説明。CTスキャンを取ったことで、それまで謎だった内臓も表現できた、と話します。
背中に肛門があり、お腹には口、胃袋を外に出してエビや貝などを飲み込んで消化します、と冨田さん。水管によって酸素や老廃物を身体に運び、多孔体を通じて体外と繋がるんですと堂々と説明する姿には、研究者の風格さえ感じさせました。
9名の生徒たちは2時間の枠を使い、研究意欲に満ちた発表を続けました。その大人顔負けの研究成果に、会場からは大きな拍手が送られていました。
2期生募集が決定、一期生の今後にも期待
研究発表会の最後には、1人ずつに修了認定証が授与されました。
また協賛各社より代表が挨拶。このなかでワコム代表取締役社長兼CEOの井出信孝氏は、「今日の発表を聞いて、未来に希望しか沸かなかった。『まだ日本いけるな』と感じました」と絶賛。
続けて、「ワコムでは漫画家、アニメーターなどクリエイターに向けたタブレット端末を開発していますが、皆さんの魂のこもった発表を見せてもらって、ガチオタのスーパーサイエンティストにもぜひ、うちの製品を使って欲しいと思いました。皆さんが3Dモデリングした作品を拝見すると、研究の成果であるとともに、自己表現もできている。研究することとモノを創作することは一緒なんだ、と再認識した次第です」。ワコムでも今後、生徒たちの好奇心に応えられるような製品を開発していきたい、どのようなサポートをしていけるか考えていきます」と語りました。
このあと登壇した東京海洋大学の中村氏は「生徒の皆さんの成果を見て、いかに濃厚な8カ月間を過ごしたかが分かりました。その成長ぶりに感動しています」と挨拶。ここで得た技術と知識を活かして、今後も切磋琢磨して日本国内の海洋に関する取り組みを引っぱってもらえたら、と呼びかけます。
日本財団の海野光行常務理事は「発表の2時間があっという間に感じるくらい、楽しい時間でした。そこには皆さんが積み重ねてきた研究があった。プレゼン内容が深かった。わたし自身、初めて知ることもありました」と総括。そのうえで、今後の展開についても明らかにしました。
海野理事が「皆さんにしかできないプロジェクト」として挙げたのは、いま世界で120頭あまりしか生息していない絶滅危惧種コククジラの全身骨格を3D化する取り組み。また、サンゴ定着のために3Dプリンタでサンゴ礁を再現していくというプロジェクトも紹介しました。3Dスキャン、3Dモデリングの技術を活かして世界を変えるプロジェクトに参加して欲しい、皆さんの知見が活かされる場面がきっと訪れる、と海野理事。卒業生の今後の活躍に熱い期待を寄せます。
そして、2期生の募集についても明言しました。1期生にもサポートとして活動に携わってもらい、海洋研究3Dスーパーサイエンスプロジェクトをより充実した組織にしていく考えです。詳細は、同プロジェクトの公式サイトまで。