浜松は知る人ぞ知る楽器の街。古くは徳川家康がこの地に町を拓き、そこへ腕の良い細工大工が集まったことから、楽器の製造が盛んになったと言われている(と、某テレビ番組でやっていた)。そんな浜松に降り立ったのは、我らがマイナビニュースチームの3名。今回は私ライターの中山と、同じく本誌ライターの御徒町晴彦、それに編集氏でここに拠点を構える超有名ブランドの製品を取材に来たのだ。まぁ、敏感な人にはすぐに分かると思うが、タイトルにある通り、発表されて間もないBOSSの新製品「EURUS GS-1」について、BOSSのボス、つまりBOSSカンパニー社長 池上嘉宏氏に直接お話を伺う機会をいただいたのである。では、さっそく取材の模様をお届けしよう。
BOSSブランドから発売されたエレクトロニック・ギター「EURUS GS-1」
2021年9月、ローランドのギター関連ブランド「BOSS」から新コンセプトのエレクトロニック・ギター「EURUS GS-1」が発売された(市場想定価格は242,000円前後)。様々な特徴を持った製品だが、このニュースが飛び込んできたときに、個人的には「ギターとしての完成度が高い」と、とても気になっていたのだ。そんなこんなで数日が経ったある日、ライター仲間であり、ギタリスト友達でもある御徒町晴彦から連絡が入り「BOSSに行って新しいギターシンセを弾かせてもらいましょう」と企画を持ち掛けられた。ちょうどアンテナがビンビンしていた私は当然二つ返事でやるやる!とあいなったわけだ。
連絡を取ってみるとローランド/BOSSの広報担当も快く企画に応じていただき、いざ出発!となった直後にコロナの第5波が来襲。緊急事態宣言が発令され、取材も延び延びになってしまったのである。9月の発売なのに取材が11月って遅いじゃないか!とお叱りの貴兄諸氏、こういった事情があったのでもろもろご了承願いたい(関係者のみなさまには改めて仕切り直しに応じていただいた御礼を述べさせていただきます。ありがとうございました)。
取材当日、広報の方と浜松駅で合流し、ローランドの基幹技術を研究開発している「ローランド浜松研究所」へと向かった。浜松広いね~、うなぎ食べたいね~、などと話しつつ車を走らせる。市街地を抜けると周囲の景色が変わり、正面に浜名湖が見えてきた。湖畔まで行くとそこには「Roland」のロゴが輝く建物が!いよいよ浜松研究所が目の前に迫ったのだ。
なんという絶好のロケーションにあるのか。政令指定都市ならではの都会の雰囲気と大自然が隣接している環境だからこそ、素晴らしい製品が開発できるのかなどなど、想像を巡らせていると入館準備ができたというお知らせが……。
いよいよ中へと入ってみるといきなりローランド・BOSSの歴史が詰まった「ローランド・ミュージアム」がそこにはあった。一般には非公開となるが、今回は特別にこちらも観覧させていただく許可をもらっている。こちらの模様はまた後日お知らせしたいと思うので気長に待っていただきたい。
とにかく、本日の目的はエレクトロニック・ギター「EURUS GS-1(以降、GS-1)」だ。用意してもらった席でしばし待たせていただいていると、池上氏とGS-1が登場。ご挨拶させていただき早速インタビューに応じてもらった。はよ、話を!という声が聞こえてきそうなのでさっそくご紹介しよう。
ギターシンセというジャンルを拓いていったローランド
――ローランドが開発してきたギターシンセの歴史について教えてください。
世界初となるギターシンセ「GR-500」が発表されたのが1977年ですね。ですから40年以上の歴史があることになります。私がこの会社に入社したのが1978年ですから、私よりも古いんです(笑)。
ギターそのものに様々な機能が備わっていたのですが、面白いのは弦の響きって段々と減衰するのが普通ですけど、振動が続くように電流を流す仕組みが搭載されていました。いまでいうサスティナーがこの当時からあったということになります。
――画期的ですね。
でもその分とても重くなっちゃいましたけどね(笑)。
次のモデルが「GR-300」ですね。これも様々なミュージシャンが使ってくれたモデルです。最も特徴的なのはギターシンセでは初となる複数の音が同時に出せるポリフォニック対応になったことです。6音ポリまで対応しているのでコードが弾けるということもあって、いわゆるギターらしさが表現できる製品でした。
実はこの当時のギターシンセは、ピアノの音をギターで出すというのが目的ではなく、あくまでもギターの表現力のひとつとしてシンセサイザーの音源を使うというスタンスだったのです。
その後も正統に進化していくのですが、GR-1というモデルからPCM音源が使われるようになりました。実はこれがとても革新的で生ピアノの音がギターで出せるようになったのです。例えばアメリカのチャーチ音楽をやろうとしたとき、キーボディストがいなくてもギタリストがいれば生ピアノやオルガンの音が出せます。そういう意味でギターシンセが実用的な楽器として広がっていったのがこの頃です。
――それも時代の要請だったのでしょうね。今回のGS-1はどちらのコンセプトを受け継いでいるのですか?
今回のGS-1に関しては原点回帰をしようということで開発が進められました。ギターの表現力をどうやれば広げられるのか。それを考えたときに、音源ユニットを足元に置いてコントロールするのではなく、ギター一本ですべてを完結させたい。それを実現するために試行錯誤を重ねたのが今回の製品です。
ローランドからBOSSへギターシンセの系譜は受け継がれた
――ギターにユニットを埋め込んだのはそんな想いがあったからなんですね。ギターの形はどのようにして決めたのですか?
GR-500ではレスポール風のデザイン、「V-Guitar」ではフェンダーとのコラボレーションでストラトキャスターのボディに組み込みましたが、これには理由がありました。ギターシンセという抵抗感を無くすためにあえて見た目を伝統的なフォルムにしたかったのです。
今回、私たちがBOSSブランドで発売するにあたり、ギターの形状には悩みました。伝統的な印象がありつつも先進的で、音を大切にする方々が好んで使っているシェイプ。その方向性で現在の形へとデザインが固まっていきました。
――今、お話にも出ましたが、ローランドではなくBOSSで出したのには理由があるのですか?
もともとギターアンプの「JC-120」という超ロングランの製品があって、こちらはローランドで出しています。しかし、実際の開発はBOSSが行っていましたから、そもそもローランドのギター関連製品はBOSSの開発チームが手掛けていたという背景があります。
5年前にBOSSではギターアンプの「KATANA」シリーズを発表したことをきっかけに、ギター商品はBOSSにまとめてもよいのではないか、という議論が始まっていたのです。賛否はありましたが、結局BOSSでまとめていこうということになりました。
しかし、JCのような伝統的なものはローランドで続けていきます。逆にギターシンセに関してはBOSSに引き継がれることになったということです。
――そのようなブランディング戦略があったのですね。GS-1はギターとしてもとてもこだわりが感じられますね。
このモデルに関しては回路を持たない状態でもきちんとしたギターでなければダメだと最初から決めていました。ですから、国内のあるギターメーカーにクオリティの高いものを作ってもらっています。
ただし、彼らはギターづくりのプロですが、電子は我々の得意分野です。ですから半完成品を送ってもらい、最終工程の電子部分組込み工程はBOSSの開発拠点がある都田工場でおこなっています。
――日本の匠の技とローランド・BOSSの最先端テクノロジーがうまく融合した形ですね。
そうなりますね。ですから、あらゆる意味で日本の良さが詰まったこの製品の名前は「EURUS(ユーラス)」すなわち「東から吹いてくる風」としたのです。
実はこれまでもギターの演奏性を大切にする気持ちから専用のピックアップをギターに取り付ける方法を取ってきましたが、ギタリストのメンタリティとしてそこに障壁があると考えていました。ギターアンプにケーブルを繋げば音が出る。このシンプルさがとても重要なのだと思います。
――私もそうですが、ギターシンセに慣れていない人は1台でいつものギターの音もシンセの音も出せるというのであれば試してみたいという気持ちにはなりますね。今回の音源には何か特徴はあるのですか?
6音ポリフォニックであることは必須で、サウンドの面ではアナログシンセのような音にこだわりました。ですからPCM音源のような生ピアノと同じ音というのは狙っていません。例えば、パット・メセニーのような音とか、キーボードで言えばハモンドオルガンをレスリースピーカーで鳴らしたジョン・ロード(ディープ・パープル)のような音ってギタリストはみんな好きじゃないですか。ですから、そういった趣向のシンセサウンドを入れていますね(笑)。
――わかりやすい例えですね(笑)。要するにギタリスト魂が揺さぶられるようなサウンドが詰まっているということですね。
ギターシンセはこれからどうなる?
――近年のギターシンセに対するニーズってどのようなものなんですか?
40数年の歴史を経てかなりのモデルが出そろいました。今回初めてギター単体で完結できるギターシンセができたので、様々なプレイスタイルのギタリストに個別に対応できるようになったと思っています。
ただ、ギターもそうですけど、ギターシンセという楽器が好きな人もとても多いので、実に多くの意見が来ていますよ。例えば、歴代の音を全部このギターに入れてくれという方もいらっしゃいます。ですが、モデルを変えるとなかなか同じ音にはならない。結局、その方は歴代のギターシンセを全部足元に置いて使い分けているそうです(笑)。
――自分が出したい音によってシステムを選ぶ。GS-1もその選択肢の一つなんですね。このモデルはどんなタイプのギタリストにおすすめですか?
以前のギターシンセはシンセサイザーの音が出したいから購入するという目的のものだったと思います。GS-1は、ギターの音はもちろん、他のサウンドも選びたいという方に向けての製品になります。
GS-1をメインギターとして使っていただいて、そこから出るサウンドの一つのバリエーションがシンセの音、ということです。オリジナルのサウンドも大切にしながら、ここぞという時にはシンセの音も使いこなしたい、そんなギタリストの方々にぜひ手にしてもらいたいですね。
――BOSSの今後の展開を聞かせてください。
BOSSでは「技-WAZA CRAFT-」というブランドを立ち上げて、既存の製品に現代的なアレンジを加えたり、過去に作ってきた商品を現代的によみがえらせるような取り組みをしています。この新しいチャレンジはかなり多くの人に受け入れていただいております。
私たちには約半世紀の歴史があって、昔からの愛用者の方もいらっしゃれば、若いミュージシャンもいます。さらに先進的な商品が良かったという人もいれば、ビンテージが良かったという人もいます。そこからいえるのは、決して過去を否定するのではなく、良いものは良いと認識したうえで、それを超えるものを作り続けていくことが大切なのです。
「技-WAZA CRAFT-」がそうであるように、皆さんが期待されているのは技術のローランド、技術のBOSSの製品なのですから、どのような趣向の方々にも楽しんでもらえるものづくりをしていきたいですね。
―ありがとうございました!
「EURUS GS-1」を中心にBOSSとしての今後の取り組みまで大いに語っていただいたが、時間はあっという間に過ぎ去ってしまい、インタビューの終了の時間が来てしまった。と、通常ならここで退席となるのだが、今回は特別に研究所の録音スタジオをお借りしてEURUS GS-1の試奏をさせてもらう機会までいただいた。実は初回出荷分も早々に売れてしまい、現在残っている試奏可能なGS-1はこの1本のみ。実に貴重な体験だ。では、さっそくスタジオへ移動しよう!
軽量で弾きやすさ抜群のモダンギター+シンセの音も出せる!=EURUS GS-1
撮影のためにインタビュールームに移動させていたGS-1をマーケティングスタッフの面々が準備してくれている。そしてギターが手渡され早速弾いてみる!と思ったら、やっぱり先に手を出したのは御徒町。当然のように弾きまくる彼の音をBGMにスタッフに聞いたポイントをまとめてご紹介しよう。
本体には6つのサウンドをメモリーでき、スマホアプリ『GS-1 Editor』によって現時点で140種類以上の音源をカスタマイズすることができる。音源はGS-1本体にはBluetoothで転送できるので、かなりの自由度があると思っていい。オプションのワイヤレスMIDIエクスプレッションペダル「EV-1-WL」(市場想定価格は16,500円前後)を活用することで演奏中に任意のパラメーターを足元で変えられるので、シンセ音のピッチやデプスなどを演奏しながらコントロールすることも可能。効果を加えることも可能。これらを併せて考えれば、アイデア次第で無限ともいえるサウンドメイキングが楽しめることになる。
早速、シンセの音を出して「おー!すげー!」と少年のようにはしゃぐ御徒町。ギターサウンド、シンセサウンドの切り替えは手元のモードスイッチで簡単に変更できる。ちなみにGS-1にはアウトプットが2系統あって、ギター用、シンセ用が選べる。なので、アンプを2台用意すればそれぞれのセッティングも可能ということになる。う~ん、これは宅録でもかなり遊べるぞ。
さて、御徒町が満足したらしく、いよいよ私の番。手にしてみると「か、軽い!」。普段は4kg越えのレスポールを抱えているので、とても軽量に感じる。正式に公表されてはいないが3kg台であることは間違いないだろう。
ネックを握るとコンパウンドラディアス指板ということもあり、どのポジションもしっくりと良く馴染む。ハイフレット周りは計算されたデザインなのであろう、とても弾きやすい。スィープ、タッピングを多用するテクニシャンには好みのセッティングだと思う。
ギターのみのサウンドをチェックすると、とても素直で自分のタッチが出しやすい印象。この日は試していないがオーバードライブとの相性がすこぶる良さそうな音だ。
モードスイッチをいじってシンセサウンドを出してみる。「おー!すげー!」と、奇しくも御徒町と同じ感嘆符を発してしまった。アンプにケーブル一本挿しただけでこのクオリティのシンセサウンドが飛び出してくるのは確かに驚きだ。
ギターシンセというと、私のように古いギター弾きには「遅延があるんじゃなかろうか」という心配をする向きもあると思うが、GS-1に限ってはまったく感じない。ピッキングの瞬間に音が立ち上がるので、いつものプレイスタイルのままサウンドだけがシンセの音になる感じだ。
もちろん、和音もオッケーだし、アーミングにもシンセ音は追従する。実際に弾いた感覚では、足元のコンパクトエフェクターのパッチの一つがシンセ音になったようなナチュラルな使い勝手がある。ペグはロック式だし、2点支持のトレモロブリッジなのでアーミングをしてもチューニングは安定している。これ、実際に購入して各種調整を自分好みにしたら、どれだけ弾きやすくなるのだろう。まさに池上氏が「メインギターとして使える一本」と言っていただけある完成度の高さだ。
自分的に試奏させてもらった感想はと聞かれれば、「これは買いである」だ。今までのサウンドだけでは満足いかん!という方はもちろん、新しいギターが欲しいなぁ、とカジュアルに変化を欲している人にもオススメの一本といえる。とにかく、何らかの理由でギターの買い足し、買い替えを考えているギタリストはぜひEURUS GS-1を候補に入れていただきたい。それだけの価値があると個人的には思っている(断っておくが、これは編集記事なのでタイアップではない。あくまでもライター中山の本音として記述している)。
さて、この楽しい試奏の時間もあっという間に過ぎ去り、感動さめやらぬうちにスタジオを後にする我々取材チーム。次回はシンセサイザー1号機や初期エフェクターなどが目白押しの「ローランド・ミュージアム」探訪記をお届けしたいと思う。それではしばしのお別れだ。さらば!