10月1日に販売が始まったリコーの「GR IIIx」。伝統の28mm広角レンズを搭載したこれまでの「GR III」から一転し、40mm相当のレンズを搭載したのが特徴です。どちらを選ぶかが悩ましいところですが、鹿野カメラマンは「レンズの画角がちょっと狭くなったら守備範囲がグッと広がった」「2台を使い分けると楽しさも2倍どころか2乗になる」と評価します。

それぞれのレンズはそれぞれの魅力がある

いきなり本題とは関係があるようでないような話ですが、GR IIIxが発表された途端、GR IIIが売れているそうです。もしや、IIIxが発売されるとIIIがなくなる…と勘違いした方々が、あわてて買いに走ったのでしょうか? 皆さんあわてないで! リコーイメージングさんは、IIIとIIIxのコンビで混沌としたカメラ市場に挑むとのことです。

実際には勘違いというより、GR IIIxの発表でGR IIIの存在感がクローズアップされたのでしょう。まだ持っていなかった、あるいは古いモデルを持っていた人たちが買われたのだと思います。GR IIIxの40mm相当は万人に使いやすい画角だと思いますし、実際僕も一番多用する画角です。というか、プライベートの撮影ならこれだけで十分です。一方で、28mm相当の画角に根強いファンがいるのも事実。遠近感が強調されるので使いこなしが難しい気もしますが、うまくハマるとカッコいい写真が撮れる画角でもあります。

  • 10月1日に販売が始まったリコーイメージングの「GR IIIx」。実売価格は13万円前後で、多くの大手カメラ量販店では即納の状態になっている。左のいささか使用感強めは私物のGR III。発売直後のキャンペーンでいただいたブルーのリングキャップに変えているが、それでも間違えてしまうほどそっくり。ちなみに両者のリングキャップに互換性はなく、GR IIIxではパープルのリングキャップをプレゼント中(なくなり次第終了)

というわけで、どちらか片方で勝負するのもいいですが、2台を使い分けると楽しさも2倍どころか2乗になるのではないかと思います。実のところ、画角や遠近感はそこまで大きく違うわけではないのですが、でも近いかというと近くもない。前回は、左右のポケットにそれぞれGR IIIxとGR IIIを…なんて書きましたが、2台の外見上の違いといえばレンズ部分の厚みと、フロント銘板に記された焦点距離ぐらい。よく見れば分からなくはないけど、女優のマナカナさんくらい見分けがつかないのです。今回、2台そろって持ち出すにあたり、僕はストラップで区別することにしましたが、案の定撮影に熱が入るとどっちがどっちか分からなくなりました。

まあ、そういう忙しい使い方よりも、1台は手に持って、もう1台はバッグの中に待機。繁華街や大通りから、細い路地に入り込んだときにチェンジ…みたいな使い方が粋じゃないでしょうか。GR IIIxを広いところと狭いところ、どっちで使うかはその人の思想が現れるところですが。え、おまえはどっちなの?と聞かれると……うーん。思想がないのがバレそうだ。

ひとつのアイデアとしていいますと、広いところでGR IIIを使いつつ、狭いところでGR IIIxを使えば、組み写真を作ったときにメリハリをつけやすいと思います。たとえば尾道なら海沿いはGR IIIで背景を広めに撮って、路地はGR IIIxでやや遠近感を詰めると、ほら迷路感が……なんて作例を、できればマイナビさんに交通費を出していただいて撮りに行きたかったのに。コロナウイルスめ。

GR IIIxでの撮影のポイント

話題を変えると、GR IIIxには新たに顔認識が搭載されました。GR IIIのオートエリアAFは何を基準に測距点を選んでいるのかが分かりにくく、広角とはいえ被写界深度もそこそこ浅いので、狙った部分のピントが甘かったこともしばしば。僕は、大抵タッチパネルでAF測距点を指定していました。その手間がかなり軽減され、GR IIIxでは片手で撮ることが増えました。AF測距点をカメラに任せることができれば、起動から撮影、再生まで右手だけで完結するのです。ちなみに顔認識は近々GRシリーズの得意技であるファームアップでGR IIIでも可能になるそうです。

ただし、手ブレ補正が内蔵とはいえ、できれば両手で構える方がベター。GR IIIxは2424万画素という数字以上にキレが鋭いので、ブレた写真とブレていない写真の差が大きいのです。これがGRシリーズの強みでもあり、同時に難しい点でもあるような気がします。GRシリーズのISOオートは画質を優先させたいのか、はたまた焦点距離が短いんだからシャッター速度もそんなに上げなくていいでしょ?という考え方なのか、暗くなってもわりと低めの感度で粘ります。片手でガンガン撮るぞという人は、ISO感度を日中でも400~800あたりに設定してもいいかもしれません。画質的にはISO1600でも全然実用範囲ですし、GRシリーズの高感度ノイズはフィルムの粒子な乗り方で、絵に力強さが加わるように思います。

また、こうした記事では、作例はあくまでそのカメラ本来の仕上がりをお見せするのがお約束。ですので、写りに関する部分は初期設定のまま撮影せよ……と編集部から指示はされませんが、日本作例写真家協会の不文律となっています。そんな協会はググっても出てきませんが、ともかくメーカーさんが貸し出してくださったまま、せいぜいAF補助光と電子音をオフにするくらいで撮影しております。今回の割とフリーダムなレビューでもそれは同じで、絵作りをつかさどるイメージコントロールも初期設定の「スタンダード」のまま撮影しました。

しかし、個人的にGRシリーズではずっと「ポジフィルム調」を選択しています。最終的にはRAW現像することも多いのですが、そこで仕上げていく調子がおおよそ「ポジフィルム調」に近いのです。ほかに、多彩なモノクロ設定や、以前から人気のある「ブリーチバイパス」「クロスプロセス」も、GR IIIxでさらに魅力を引き出しやすくなりました。というわけで、今回はそれらの設定で撮った写真も載せています。

  • イメージコントロール/「スタンダード」

  • イメージコントロール/「ポジフィルム調」

  • そのキレを絵づくりにも反映させたくて、個人的にGRシリーズを使うときはイメージコントロールを初期設定の「スタンダード」ではなく「ポジフィルム調」にしています。両者を比較してみましょう GR IIIx・絞り優先AE(絞りF8・1/400秒)・WBオート・ISO200・JPEG

これまでのGRでは、遠近感の強さが視覚効果として先にあり、状況によって合う設定と合わない設定がありました。もちろんGR IIIxでもそれは同じなのですが、遠近感が見た目に近い分、より多くの設定が合うように思います。それぞれの設定は細かくカスタマイズもできるので、ぜひ自分好みのトーンを作ってほしいと思います。僕は、先に書いた通り「ポジフィルム調」が好みですが、季節や天候でコントラストを微調整したりします。

とまあデモ機をお借りして以降、出掛けるときは必ずGR IIIxを携行して感じたことをつらつらと書いてみましたが、本当によき相棒です。GR IIIでは28mm相当という画角のせいか、撮る写真は作品というよりライフログ的なものが多めでしたが、GR IIIxは作品としての写真が撮りたくなります。前回書いた「GR=28mm相当という感覚が抜けなくて近寄りすぎちゃう症候群」もだいぶ克服され、自然と目の前の光景を切り取れるようになりました。というわけで、GR IIIxは近所の散歩から長旅まで、しっかりと期待に応えてくれそうです。嗚呼、これを持って旅に出たい。

  • 近所の公園で息子を撮りました。いきなり親バカですみません。見たままを切り取れる40mm相当だから撮れた写真かなと GR IIIx・絞り優先AE(絞りF2.8・1/1600秒)・WBオート・ISO200・JPEG

  • 仕事で移動中、ふと目にしたカフェの壁。標準レンズは街角を切り取るのも本当に気持ちがいい。拡大するとペンキの質感が繊細に描写されています GR IIIx・絞り優先AE(絞りF4・1/125秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • じゃあGR IIIの28mm相当で街角を切り取るとどうなのよ? というわけで、こちらはGR IIIで撮影したもの。強めの遠近感が効いています GR III・絞り優先AE(絞りF3.5・1/2000秒)・-0.3補正・WBオート・ISO200・JPEG

  • 広めの画角と強めの遠近感をさらに生かせるのが、地面に落ちる影かと思います。これからの季節はぜひ狙ってほしい被写体です GR III・絞り優先AE(絞りF5.6・1/500秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • 再びGR IIIx。F2.8のボケ味を生かすのも楽しいですが、絞ったときのキレこそGRレンズの真髄ではないでしょうか GR IIIx・絞り優先AE(絞りF8・1/400秒)・WBオート・ISO200・JPEG

  • 原色が鮮やかになる「ポジフィルム調」に加えて、ホワイトバランスを「太陽光」に。これでよりポジフィルムっぽさが感じられる描写になります GR IIIx・絞り優先AE(絞りF2.8・1/125秒)・-0.7補正・WB太陽光・ISO200・JPEG

  • モノクロのトーンが美しいのもGRシリーズの特色。とくにイメージコントロールの「ハードモノトーン」が適度にメリハリがあり、銀塩のプリントに近い印象があります GR IIIx・絞り優先AE(絞りF7.1・1/200秒)・WBオート・ISO200・JPEG

  • 「ハードモノトーン」よりさらにコントラストが強く、ザラッとした粒子も乗ってくる「ハイコントラスト白黒」もおすすめ GR IIIx・絞り優先AE(絞りF4・1/400秒)・-0.7補正・WBオート・ISO100・JPEG

  • 被写体によって向き不向きがありますが、ハマるとうれしくなってしまうのが「クロスプロセス」です GR IIIx・絞り優先AE(絞りF4・1/125秒)・-0.3補正・WBオート・ISO200・JPEG

  • 高コントラスト・低彩度の「ブリーチバイパス」も被写体を選びますが、無機質な光景やメタリックな質感を写すとハマりやすいです GR IIIx・絞り優先AE(絞りF5.6・1/500秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • 再び親バカ。顔認識が便利というのを見せたかったのですが、後で見ておおーっ!と思ったのが黒の再現性。グレーに近い明るめの黒から漆黒までが狭い範囲に同居していますが、とてもリッチに再現しています GR IIIx・絞り優先AE(絞りF2.8・1/160秒)・-0.7補正・WBオート・ISO200・JPEG

  • 最後に近寄ってボケ味を引き出した写真を。収差を見事に抑えており、ピントが合った部分は繊細と、しかし力強く描写しています GR IIIx・絞り優先AE(絞りF2.8・1/125秒)・WBオート・ISO100・JPEG