今回は、富士フイルムが5月末に発売したXシステム用のXFレンズ「XF18mm F1.4 R LM WR」の実力をチェックしてみたいと思います。35mm判換算で27mm相当の画角を持つ広角単焦点レンズ。XFレンズには同じ画角の「XF18mm F2 R」がありますが、それより1段分開放値が明るいことが本レンズのポイントとなります。

  • 35mm判換算で27mm相当の画角が得られる広角レンズ「XF18mm F1.4 R LM WR」。開放F1.4の明るさも魅力のレンズです。実売価格は128,000円前後

操作性や撮影性能など手抜きのない設計が光る

鏡筒は、XF18mm F2 Rが小型軽量なパンケーキタイプなのに対し、本レンズは開放F1.4らしくしっかりと持てる大きさ、重さとしています。具体的には、最大径φ68.8mm、長さ75.6mm、質量370gです。とはいえ、同じ画角を持つフルサイズ用の焦点距離28mm開放F1.4の単焦点レンズと比較した場合、大きさも重さも一回り以上軽量コンパクト。Xシリーズのミラーレスに装着したときも、大きさや重量的なバランスは悪くありません。作例撮影では、Xシリーズでも軽量な「X-E4」を用いましたが、首からカメラを下げたときなどレンズヘビーに感じることはなく、快適に撮影が楽しめました。フィルター径はφ62mmです。

  • 同じ焦点距離の「XF18mm F2 R」(右)と並べた様子。XF18mm F2 R(左)のコンパクトさが際立ちます。XF18mm F1.4 R LM WRは、余裕のある光学系を採用したことで、開放F1.4の明るさと圧倒的な写りを確保しています

レンズは絞りリングを備えており、こちらもアナログ操作を楽しみたい写真愛好家には見逃せない部分。クリックも節度ある感触で、操作感も良好です。近ごろのXFレンズに装着されるようになったAポジションのロックボタンも、もちろん装備。シャッター速度優先AEやプログラムAEで撮影することの多いユーザーは、絞りリングが勝手に動くことがないので重宝することでしょう。

  • 絞りリングに備わるボタンはAポジションのロックボタン。絞りリングが不用意に動くことを防ぎます。最近のXFレンズには必ず装備されている機構です

  • プラスチック製の花形レンズフードが付属。ロックボタン式ではないものの、着脱はスムーズにできます

余談となりますが、絞りリングは本レンズのように鏡筒の短いレンズでは操作しやすい反面、望遠レンズなど鏡筒が長く、重いレンズでは操作しづらく感じることが多いものです。そんなときは、絞り優先AEの撮影の場合でもAポジションにセットしてカメラのコマンドダイヤルで絞りを設定すると操作しやすくなります。

レンズ構成は9群15枚。このなかには非球面レンズ3枚とEDレンズ1枚が含まれます。少し古い話となりますが、2013年に「XF14mm F2.8 R」が発売された際、ディストーションなどの収差が良好に補正されていることに驚かされましたが、開発者からは「デジタルでの補正はやっておらず、光学系のみの補正で達成した」という話を聞きました。本レンズに関しては不明ですが、同様に非球面レンズとEDレンズを潤沢に使っていることから、光学系のみで諸収差の発生を抑えている可能性もありそうです。実際、ディストーションの発生は皆無と述べてよく、画面周辺部の解像感も絞り開放から上々。色のにじみもよく抑えられています。ワイド系のレンズというと、ネガティブな光学特性がダイレクトに描写に反映されることが多いのですが、本レンズではそのようなことはまったく気にしなくてもよいと感じます。

最短撮影距離は0.2m。被写体にグッと寄って広角レンズ特有の遠近感を生かした撮影も得意です。ボケ味については、全体的にナチュラルな感じです。画角的あるいは焦点距離的に大きなボケを得ることは難しいのですが、それでも近接撮影時などに絞りを開いてボケを積極的に楽しんでみたいと感じさせます。レンズの名称に“WR”が付いているように、レンズは防塵防滴構造としています。要所にシーリングが施され、雨天や強風でもカメラを取り出すのをためらうことなく撮影が楽しめます。

18-55mmの標準ズームレンズとの描写の違いは?

今回、Xマウントの標準ズームとして人気のある「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」との比較も行ってみました。18mm時の開放絞り値はF2.8なので、XF18mm F1.4 R LM WRよりも2段分暗いことになります。その焦点距離での最短撮影距離は0.3mで、同様にXF18mm F1.4 R LM WRよりも0.1m及びません。

  • X-E4に装着しているのが「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」。Xシリーズのキットレンズとして知られるレンズで、所有している人も少なくないでしょう

単焦点レンズはズームレンズに比べ解像感が高く、ヌケがよい(=コントラストが高い)とよく言われますが、今回の比較でもそれは例外ではありませんでした。XF18mm F1.4 R LM WRで撮影した画像は、ピントの合った部分のエッジのキレがより高く、わずかですがクリアですっきりとした感じです。XF18-55mmF2.8-4 R LM OISで撮影した画像も、それだけを見ると十分な解像感、コントラストであるように思えるのですが、XF18mm F1.4 R LM WRで撮影した画像と比較すると分が悪く感じます。同じ絞り値でボケの柔らかさと大きさを見た場合、XF18mm F1.4 R LM WRに軍配が上がります。もちろん、これらの違いはわずかなので、通常撮影を楽しむ分ではXF18-55mmF2.8-4 R LM OISでも不足を感じることはないでしょう。しかしながら、少しでも写りを追求する写真愛好家にとって見逃すことのできないものであり、ズームレンズがありながら単焦点レンズをわざわざラインナップする証といえます。

  • XF18mm F1.4 R LM WR

  • XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS

  • 被写体との距離は、XF18-55mmF2.8-4 R LM OISの最短撮影距離である0.3mとしました。絞りはF2.8に設定。拡大するとよく分かるのですが、ピントを合わせた雌しべの解像感や立体感はXF18mm F1.4 R LM WRがより際立っています 共通データ:X-E4・絞り優先AE・WBオート・ISO160・JPEG

  • XF18mm F1.4 R LM WR

  • XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS

  • こちらも被写体との距離は、XF18-55mmF2.8-4 R LM OISの最短撮影距離である0.3mとしています。同様に絞りはF2.8としました。合焦面からデフォーカスとなるまでのボケの大きさや滑らかさは、XF18mm F1.4 R LM WRに軍配が上がります 共通データ:X-E4・絞り優先AE・WBオート・ISO160・JPEG

  • XF18mm F1.4 R LM WR

  • XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS

  • 絞りはどちらもF8で撮影。XF18mm F1.4 R LM WRのほうがエッジのキレやヌケがよいため、コンテナに書かれた文字もよりくっきりとしたものになっています 共通データ:X-E4・絞り優先AE(絞りF8)・WBオート・ISO160・JPEG

  • XF18mm F1.4 R LM WR

  • XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS

  • こちらも絞りF8で撮影したものです。ピントは手前の黄色い船に合わせています。船の細部の写りなど比較するとわずかですが、やはりXF18mm F1.4 R LM WRの写りが上回ります 共通データ:X-E4・絞り優先AE(絞りF8)・WBオート・ISO160・JPEG

私個人の話となりますが、ズームは仕事での撮影で用いることが多く、単焦点は作品撮りなどプライベートの撮影で持ち出すことの多いレンズとなっています。単焦点レンズは、画角が固定されるため不便なこともあるのですが、自分にとって写真を始めたころの原風景と言ってよく、撮る楽しさもズームレンズより大きく感じます。今回紹介したXF18mm F1.4 R LM WRも、単焦点レンズの魅力が存分に味わえるレンズに仕上がっています。単焦点レンズで作品撮りを楽しみたいXユーザーには決して高くない買い物ではないと思いますが、いかがでしょうか。

XF18mm F1.4 R LM WRの作例

  • ちょっと意地悪に逆光で狙ってみました。掲載した作例を見る限り、太陽の周囲を除けばフレアはよく抑えられており、ゴーストの発生も見受けられません。9群15枚と多くのレンズで構成されていますが、内面反射をよく抑えている証です X-E4・絞り優先AE(絞りF5.6・1/3200秒)・WBオート・ISO160・JPEG

  • 絞りは開放から2段絞ったF2.8。アウトフォーカスとなった部分のボケは小さいながらも柔らかく感じます。ボケのにじみは偽色の発生のようなものはなく、ナチュラルであることもこのレンズの特徴です X-E4・絞り優先AE(絞りF2.8・1/125秒)・WBオート・ISO160・JPEG

  • 開放絞りでの撮影。周辺減光はわずかに発生していますが、解像感やコントラストなどは開放絞りとは思えないものです。こちらもデフォーカスとなった部分のボケは自然な感じに思えます X-E4・絞り優先AE(絞りF1.4・1/4000秒)・WBオート・ISO160・JPEG

  • 被写体にぐっと寄って撮影しています。ピントの合った部分は立体感のある写りが得られました。背景のボケも美しく、実焦点距離18mmのワイドレンズで撮ったとは思えないほどの柔らかさです X-E4・絞り優先AE(絞りF1.8・1/1250秒)・WBオート・ISO160・JPEG

  • 画角的にスナップ撮影にも適したレンズです。ちょっと絞ればパンフォーカスあるいはそれに近い状態となることも、このレンズの魅力と述べてよいでしょう。もちろん写りは文句の付けどころがなく、高品位なスナップ写真が得られます X-E4・絞り優先AE(絞りF5.6・1/900秒)・WBオート・ISO160・JPEG

  • クリアでヌケのよい写りです。色のにじみや周辺減光など見受けられず、全体的には諸収差は良好に補正されています。Xマウントのビギナーユーザーが最初に購入する単焦点レンズにふさわしい1本といえます X-E4・絞り優先AE(絞りF5.6・1/1600秒)・WBオート・ISO160・JPEG

  • 絞りは開放F1.4となります。ワイドレンズとして見た場合、前ボケも嫌味のないナチュラルな印象です。なお、文字の書かれたボードにピントを合わせていますが、若干解像度が低く感じられるのはカメラとの間にショーウィンドウのガラスがあるためです X-E4・絞り優先AE(絞りF1.4・1/750秒)・WBオート・ISO160・JPEG

  • こちらも絞り値は開放F1.4で撮影しています。ピントの合った部分から滑らかにボケが大きくなっていくことが分かります。ピントの合った部分の解像感や画面全体のコントラストも上々です X-E4・絞り優先AE(絞りF1.4・1/4000秒)・WBオート・ISO160・JPEG

  • 背景に空のハイライトが入っていますが、フレアの発生などなく良好な写りです。XFの広角単焦点レンズとしては大きな部類に入る鏡筒ですが、それでも同じようなスペックを持つフルサイズ用と比べれば軽量コンパクトに仕上がっています X-E4・絞り優先AE(絞りF5.6・1/420秒)・WBオート・ISO160・JPEG

  • 絞りF4まで絞ると解像感はさらに向上。周辺減光もほぼ完全になくなります。手ブレ補正機構は搭載されていませんが、ブレが気になるような条件の撮影では感度を積極的に上げて臨むとよいでしょう X-E4・絞り優先AE(絞りF4.0・1/550秒)・WBオート・ISO160・JPEG

  • 立体感のある写りです。露出をアンダー側に切り詰めていますが、ヌケがよいこともあり、ちょっと雰囲気のある仕上がりが得られました。使用するカメラに依存するところもありますが、AFも迅速でストレスを感じることはありません X-E4・絞り優先AE(絞りF5.6・1/1700秒)・WBオート・ISO160・JPEG