テストその2:クーラーの違い

ところでRyzen 7 3800XT/Ryzen 9 3900XTには、先に書いた通りCPUクーラーが付属していない。なので自身で何かしら調達する必要があるのだが、これに関してAMDは、「280mm以上のラジエターを持つAll-in-1タイプの簡易水冷タイプを推奨」と説明している(Photo16)

  • Photo16: 赤枠は筆者。ちなみにこのページ、この下に推奨CPUクーラーがずらずらと並んでいる。

実はテストその1では、表1にも入れてあるがCorsairの120mm水冷クーラーのH60(2018)を利用している。筆者の経験では、このH60でもWraith Prismより温度が安定しており、それもあってこれまでのベンチマークも全部このクーラーを利用しているのだが、AMDの言う通り280mmを超えるラジエターを使ったら、何かしら性能に差が出るのか? という事は検証しておきたいと思う。

ということで、今回DeepcoolのGAMMAXX L360 V2を入手、これとCorsairのH60で性能が変わるのかの比較を行ってみた。

テスト環境はそんな訳でクーラー以外は表1と同じで、CPUはRyzen 7 3800XTとRyzen 9 3900XTに限らせていただいた。グラフでの表記は

3800XT :Ryzen 7 3800XT+Corsair H60(2018)
3800XT360:Ryzen 7 3800XT+Deepcool GAMMAXX L360 V2
3900XT :Ryzen 9 3900XT+Corsair H60(2018)
3900XT360:Ryzen 9 3900XT+Deepcool GAMMAXX L360 V2

となっている。

◆PCMark 10 v2.1.2177(グラフ23~28)

6つもグラフを並べておいてこういうのも何だが、明確に性能差があると言うのは難しいと思う。認められた結果は無いと思う。実際Overall(グラフ23)を見ると、Ryzen 9 3900XTではほんの僅か、スコアが上昇しているのが判るが、逆にRyzen 7 3800XTでは逆にスコアが落ちているといった具合だし、絶対的な性能差が非常に少ない。実アプリケーション(Office365)を使ったApplication Detail(グラフ28)でもやはりほぼ同等といったところで、クーラーの違いによる明確な差は見出しにくい結果となった。

◆CineBench R20(グラフ29)

後述する消費電力を見ると、Ryzen 9 3900XTではほぼ変わらない感じで、多少ゆとりがあるRyzen 7 3800XTのみ若干消費電力の上乗せがあるが、それを加味してみても差は本当にごく僅かである。とはいえ、All CPUの5107→5112あるいは7199→7212は大きな差とは言いにくいが、One CPUの538→540/532→534は相対的に大きな向上とは言えるかもしれない。といっても、これも率で言えば0.3%ほどの向上でしかないのだが。

◆TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.15.17(グラフ30)

処理時間で言うと

Ryzen 7 3800XT:3855秒→3840秒
Ryzen 9 3900XT:2792秒→2720秒

であり、1分も変わっていない(Ryzen 7 3800XTに至っては15秒!)。消費電力そのものもあまり変わっているとは言えず、クーラー交換のメリットがあるか? と言われると「?」である。

◆Sandra 20/20 2020.6.30.45(グラフ31)

こちらもグラフからお判りの通り、「殆ど変わらない」である。

◆3DMark v2.12.6949(グラフ32~34)

Overall(グラフ32)とgraphics Detail(グラフ33)を見る限り「差は殆ど無い」し、一番性能差が出そうなPhysics/CPU Detail(グラフ34)も大きな性能差があるとは言えない。まぁもっとCPU性能差が出そうなここまでのテストで差が皆無だったわけで、当然ここも皆無である。

◆Metro Exodus(グラフ35~36)

最小/平均/最大フレームレート(グラフ35)に殆ど差が無いが、フレームレート変動(グラフ36)を見るとほぼ1本の線になってるわけで、それは差が無くて当然であろう。

◆Shadow of the Tomb Raider(グラフ37~38)

Metro Exodusよりは多少バラつきがあるとはいえ、最小/平均/最大フレームレート(グラフ37)にCPUクーラーの差を見る事は難しい。フレームレート変動(グラフ38)でも、80秒あたりか乱れてはいるが、ただ本当に乱れているという感じで、360mmクーラーならフレームレートが上がるとかそういう感じになってないあたり、やはりあまり関係なさそうである。

◆消費電力測定(グラフ39~43)

Dhrystone/Whetstone(グラフ39)を見ると、意外に360mmクーラーだと消費電力が増えている感じである。要するにThermalの状況が改善され、若干であるが動作周波数が上がったことで消費電力が増えた、という話である。これはCineBench(グラフ40)も同じである。TMPGEnc Video Mastering Works(グラフ41)に関しては、平均という意味ではあまり変わらないが、120mmクーラーの時より消費電力の変動が少ないのは、Thermalの許容量が増えて、温度による変動がやや減ったということだろうか。FireStrike Demo(グラフ42)に関しては、違いが見いだせないというか、単に暴れているだけに見える。

平均値をまとめたのがグラフ43であるが、確かに全般的に360mmクーラーにすることによって、2~4Wほど消費電力が増えている事は確認できた。問題はここまで見てきた通り、消費電力増に伴う性能改善があまり確認できないことである。