米国ラスベガスで開催されているエレクトロニクスの祭典「CES」に、2020年もソニーが出展しています。筆者も話題を呼ぶコンセプトカーに試乗して、360 Reality Audioの立体サウンドなどを体験してきました。
ソニーがCESに出展するブースは2019年から雰囲気がガラリと変わり、テレビやオーディオなどのコンシューマ向け製品とテクノロジーを並べるだけでなく、ソニーの映像・音響に関わるクリエイターが必要とする業務用の機器やテクノロジー、あるいはソニーが強みとする領域のBtoB向けのセンサーや技術などにもスペースが割かれるようになりました。
2020年ソニーがCESの出展テーマとして主眼に置いたものは「次世代ビジネスの種」を提案・創出することだと感じました。また、5Gネットワークを活用したライブスポーツ配信やオートモーティブ関連のスペースが大きくなっていたことも印象的でした。
テレビのブラビアシリーズは変わらず元気。今年もブースの正面を高精細な8K/4KのHDR映像が彩っていました。テレビの新製品に関連する詳細レポートは別途記事でお伝えします。
ソニーのコンセプトカーに試乗してきた
日本でも話題を呼んでいるソニーのコンセプトカーは、ここラスベガスのCES会場でもやはり一番の注目度。試乗して360 Reality Audioのサラウンドが体験できることもあって、展示スペースには常時長い行列ができています。
このコンセプトカーには、次世代モビリティの安心・安全走行を実現するためにソニーが開発を進めるイメージングセンサーやソリッドステート式のLiDAR(光・レーザーで測距、画像認識を行うためのセンサー)、車内の人や物体を認識・検知してジェスチャーコントロールを実現するためのToF(Time of Flight)など、合計33個のセンサーが搭載されています。
また、CESでソニーが発表した、モビリティ内での快適なエンタテインメント体験を実現する「VISION-S」のコンセプトを紹介するため、ソニー独自のオブジェクトベースの立体音響技術360 Reality Audioによる再生環境に加えて、フロント側のダッシュボードには複数のタッチ液晶によって構成されるパノラミックスクリーンを搭載。直感的に楽しめるさまざまなコンテンツを統合した、ソニーらしい次世代モビリティのプラットフォームを、CES来場者にお披露目するショーケースとして、コンセプトカーは存分に役目を果たしていました。
筆者もコンセプトカーに試乗して、360 Reality Audioを体験してきました。ドライバーシートに座ると、前面のダッシュボードと足下方向から、そしてヘッドレストに内蔵されているスピーカーから、リスナーの全天球方向をぐるりと取り囲むように心地よい音楽が聴こえてきます。
今回のCESでは、家庭用のスピーカーシステムやヘッドホンで360 Reality Audioを体験できるコーナーも設けられていましたが、車で聴くサウンドのほうが音の密度が濃く、オブジェクトの立体感や精細感が生々しく伝わってくるような手応えがありました。ソニーの360 Reality Audioの技術担当者も「密閉されている車内空間は、この技術の醍醐味を味わうのに最も適している」と話しています。
筆者は長年コンシューマーエレクトロニクスの製品やテクノロジーを取材してきたので、やはり360 Reality Audioが今年のソニーのブースで一番刺激的な体験でした。今後国内でも“クルマのなかで楽しむ360 Reality Audio”を体験できる機会が設けられることを期待しましょう。
プロフェッショナル向けにソニーの最先端映像技術をアピール
4K×2K/220インチの「Crystal LED」ディスプレイシステムの紹介もありました。映像制作現場向けの試写室を模したシアタースペースを作って、優れた画質を紹介していました。
ソニーが独自に開発する微細なultrafine LEDデバイスを使った超高精細Crystal LEDは、複数のディスプレイユニットを継ぎ目のなく敷き詰めて大型のディスプレイシステムにスケールできることから、大型のデジタルサイネージやパブリックシアターなど業務用途の引き合いが順調に伸びているそうです。
Crystal LEDの特徴を活かした業務用アプリケーションとして、3D空間キャプチャによるバーチャル製作技術の展示も行われていました。スタジオセットの背景にCrystal LEDディスプレイシステムを配置して、手前側にある実車をカメラで撮影した映像とリアルタイム合成するという技術です。
カメラの動きに合わせて背景映像との間に適切な視点と奥行きの情報を反映させながら合成する映像は、モニターに映し出されると、被写体の後ろに本物の背景が存在しているようにしか見えないほどリアルに感じられます。
ソニーはこのようなバーチャル制作のスタジオソリューションを提供しながら、天候の影響を受けやすい屋外でのロケや、さらに煩雑になりがちな役者のスケジュールブッキングの課題などが一気に解消できることをアピールしていくそうです。
筆者がもうひとつ興味を持ったのは、ソニーが独自技術として開発を進めている視線認識型ライトフィールドディスプレイにより、高精細な裸眼立体視を実現する「3D空間ディスプレイ」の技術展示でした。
従来の裸眼3Dディスプレイの技術をベースに、高速ビジョンセンサーや顔認識アルゴリズムを組み合わせることによって、ディスプレイを見つめているユーザーの視線を追いかけながら、視差による立体視のブレを解消。頭を前後左右、奥行き方向に動かしても視野の向こう側に、被写体がきれいなまま立体的に浮かび上がります。
こちらの技術はVR/AR系コンテンツとの親和性が高く、既存のコンテンツを3D空間ディスプレイで見るために変換することも容易にできるそうです。ソニーでは今後この技術をさらに練り上げてから、エンタテインメント用途やプロダクトデザイン等に関わるクリエイター向けに提供していくそうです。