2019年11月6日~ 8日、虎ノ門ヒルズフォーラム(東京都港区)で、毎年恒例の「FileMakerカンファレンス2019」が開催された。
今年に入ってから、米国本社のCEOが交代し、社名がFileMaker(ファイルメーカー)からClaris(クラリス)に変わり、FileMakerファミリー以外の製品を今後リリースすることが発表され、クラリス・ジャパンの社長も交代し……と、劇的に変化している同社、そして製品群。
何が変わり、何が変わらないのか。日本市場をどう捉えているのか。クラリスは何を目指すのか。CEOのブラッド・フライターグ氏、本社バイスプレジデントのシュリニ・グラプ氏、クラリス・ジャパンの日比野暢氏に、新しいクラリスについての「素朴な疑問」をぶつけてみた。
(各氏の詳しい肩書きは写真とともに記載。以下、記事中は敬称略)
日本市場に変化はあるのか
-- 初日のオープニングセッションで「新CEOが日本のお客様に直接メッセージを発信するのは初めて」と紹介がありましたが、ファイルメーカー、クラリス社の業務として日本に来るのは初めてですか?
フライターグ 個人的に来たことはありましたが、会社の仕事では初めてです。日本のお客様と直接お話しする機会を得て、たいへんうれしく、光栄に思っています。今後も、例えばテレビ会議システムでコミュニティの皆さんとお話しする機会を積極的に設けるなど、コミュニケーションをとっていきたいと考えています。
-- ブラッドさんは、CEOに就任する前はワールドワイドセールス担当バイスプレジデントを務め、現在ではクラリス・ジャパンの社長でもあります。その立場から、日本市場をどう見ていますか?
フライターグ 当社の世界の市場のうち20%を占める強力な市場であり、素晴らしいコミュニティがあることに感謝しています。GDPの規模と照らし合わせて相対的に見ても、大きな市場です。当社と日本は特別な関係にあると思っています。まず数十年にわたる歴史があり、レガシーがあります。そして明るい兆しもあります。起業するお客様が多いことや、継続率が高いことなどです。
-- 会社の体制や製品が変わりつつあることで、日本市場に今後何か変化はあるでしょうか?
フライターグ FileMakerだけを提供する会社からマルチプロダクトの会社へと変化していますが、日本市場への取り組みという意味では変更はありません。日本市場にコミットし、パフォーマンスの最適化など投資も推進していきます。
グラプ 我々が推進する柱のひとつであるクラウドファースト、カスタム Appやトレーニングコースなどを提供、販売するMarketplace(日本では2020年に展開予定)、Claris Connect(※)など、いずれにおいても日本は重要な市場と認識していますので、市場に合うようにローカライズしていきたいと考えています。例えばClaris Connectは日本のクラウドのサービスともつながるようにしていきます。
※Claris Connect……Clarisが買収したStamplayをベースとして、2020年1〜3月に公開される予定の製品。さまざまなアプリを選んで組み合わせ、トリガーを設定して、アクションを指定することで、業務を自動化できる。
-- 米国では10月29日にFileMaker Cloudの新バージョンが発売されました。日本市場での計画を教えてください。
グラプ 現在、世界中にデータセンターの開設を進めていて、その一環として日本でも新しいデータセンターとFileMaker Cloudを今後提供します。
日比野 日本では2020年春にデータセンターを開設し、新しいFileMaker Cloudを提供する予定です。
-- 日本独自のプロモーションとして、今年5月のFileMaker 18プラットフォーム発売時から「スタートアップ企業応援プログラム」が実施されていますね。反響はいかがですか?
日比野 年間ライセンスが50%オフ、FileMaker Cloud for AWSに関するサポートの提供と、価値の高いプログラムであることから好評です。12月20日にプログラムを終了する予定でしたが、これから利用したいとのご相談もたくさんいただいているため期間の延長を検討しています。
なぜ製品が増えるのか、何を目指すのか
-- カンファレンスのオープニングセッションでは「Claris製品」として3つが挙げられました。これについて改めて説明をお願いします。
フライターグ まず既存の「FileMaker」があります。次に来年リリースする「Claris Connect」。そして3つめの「Claris Next Gen」は将来の製品のコードネームのようなもので、実際の製品名ではありません。ワークフローのための製品を開発していきます。FileMakerはオンプレミスでもクラウドでも使える製品、Claris Connectはネイティブクラウドの製品です。
-- Claris Connectは、FileMakerユーザーでなくても使えるのですよね?
フライターグ そうです。FileMakerありきということではありません。
グラプ Claris Connectはオーケストレーション(※)とインテグレーションのためのプラットフォームです。もちろんFileMakerを使うと、より良い価値を得られます。
※オーケストレーション……語義は、調整してまとめる、組織化する、など。
フライターグ Claris製品の共通のインフラは「Claris Core」という部分で、管理機能、セキュリティ、シングルサインオンなどを標準化するものです。
-- なぜ今、製品を増やすことにしたのでしょうか?
フライターグ さまざまなサービスを統合したいという市場の流れですね。FileMakerではREST APIで統合ができますが、シチズンデベロッパ(※)にはハードルが高い部分もあり、統合のためのアーキテクチャを提供したいと考えました。
※シチズンデベロッパ……専門の開発者ではなく、ユーザーの立場で開発をする人。
グラプ テクノロジーの変化もあります。モバイル、クラウド、IoT、AIなどは、5年前には現在ほど手近に利用できるものではありませんでした。今は、こうしたモダンなテクノロジーを取り入れて、デジタルトランスフォーメーション(※)を目指せる状況になっています。
※カンファレンス初日のオープニングセッションで、デジタルトランスフォーメーションとは「デジタルの力で導かれるインサイトでビジネスプロセスと意思決定を向上させる」ことであり、デジタルトランスフォーメーションにおいて「パワフルなテクノロジーをすべての人が活用できるようにすること」がクラリスのビジョンであると説明された。
日比野 当社はユニークなプラットフォームを提供していきます。Claris Connectにしても、既存の製品のシェアを取りにいくものではありません。
フライターグ デジタルトランスフォーメーションという考え方の浸透度はまだ低いものの、需要は高まっています。健全な市場の競争はウェルカムであり、5〜7年間で大幅な成長が見込めると考えています。
グラプ 競合を意識した戦略ではなく、あくまでも市場の期待に応えていきたいと思います。デジタルトランスフォーメーションによってビジネスの結果を出したいと考えるお客様をサポートするために製品を進化させていくのが、当社の役割です。
こんな懸念があるのでは?
-- 製品ラインナップが増えるとなると、FileMaker製品が言ってみれば「手薄」になってしまうのではないかという懸念もあるかと思います。どのような方針でしょうか。
フライターグ 当社にとってのFileMakerの重要性は変わりません。技術の進化にコミットし、将来的に必要な投資もしていきます。そしてユーザーも一緒にその流れにのれるようサポートし、教育や認定を継続します。ユーザーとコラボレーションしていきたいと考えていますので、安心してください。
グラプ 当社のFileMakerのエンジニアに対する投資は80%を占めます。
日比野 日本のチームはシュリニ(グラブ氏)のチームと連携して製品を向上させています。エンジニアの確保が難しくなっているという社会の情勢もあり、FileMakerだけで閉じるのではなくマイクロサービスのアーキテクチャは重要です。FileMakerの可能性を広げるための投資をしているところです。
-- 「クラウドファースト」をひとつの柱にするとのことで、心配になったオンプレミスのユーザーもいるかもしれません。
フライターグ データのプライバシーなどの扱いに特に厳密な企業や業界があることは理解しています。もちろん、オンプレミスを継続したいお客様をサポートしていきます。
グラプ 「クラウドファースト」であり「クラウドオンリー」ではありません。セキュリティにしてもパフォーマンスにしても、クラウドでもオンプレミスでも最新のプラットフォームを利用でき、同じエクスペリエンスを得られることを大切に考えています。