ドライな関係が増えた「選手」と「チーム」
――賞金やプロゲーマーという職業が話題になることも増えました。もともとゲームタイトルが好きでコミュニティからプロになった選手と、eスポーツが確立されてからプロになることを目的に始めた選手では、ゲームに対する向かい方は違うのでしょうか。
太田:特に違いはないと思います。チームのなかには、ゲームを楽しみたいと思っている人もいれば、トップを目指したいと取り組んでいる人もいます。それでも、ゲームや大会への熱量はそんなに変わらないでしょう。ただ、結果が出たときに、以前の選手は「よっしゃー、勝ったー」で終わっていたところ、今では「よっしゃー、勝ったー。結果出したからお金ください」ってなるだけだと思います。
梅崎:昔からいる人はお金を求めないことが多いですね。「強さ」や「世界での活躍」が先にきます。今の選手はお金をもらえるのが当たり前という印象です。もちろん、お金の話は重要なんですけど。面接のひと言めから「いくら出します?」はちょっと……。
友利:うちも似たような感じですね。強い選手は勝つことを最重要に考えています。「勝ちたい」「結果を出したい」と頑張っている人には、こちらからサポートしたいと思うもの。そこは情の部分になってしまいますけどね。
梅崎:情は大事です。なかなか結果を出せない選手がいると「うちと契約続けるのは難しいな」とならざるを得ないのですが、本人とその話をするときに「もう少しだけ頑張らせてください!」と懇願されてしまうと「そうかぁ」って判子を押してしまうんですよね。
太田:たぶん、梅崎さんも長いことやっていらっしゃるので、どうしても選手を切らなきゃならない場面に遭遇して、涙を流しながら契約解除した経験ってあるんじゃないですか?
梅崎:そりゃありますよ! 泣きましたね。
太田:そうですよね。私も経験があります。選手と泣きながらお別れしたことがありました。できることなら契約継続したかったですし、選手もSunSisterで続けたいって思いがあったわけですから。
もちろん、今もそのようなケースはゼロではないですけど、契約に関してはわりとドライな関係が多いですね。内容に不満があったら辞めますし、こちらから切らざるを得ない場合でもあっさりと辞めていきます。
ただ、プロとしてお金をもらえることが当たり前になった時代に生まれたので、対価を求めること自体は悪ではありません。
――今年LJLは大きくレギュレーションを変え、売上が5000万円必要であったり、資本金が1000万円以上であったりと、リーグに参加できるチームの条件も変わりました。また、2部リーグを廃止し、1部リーグのチーム数を8に増やすなど、さまざまな改革を行っています。ほかのタイトルでも一定数の資本金額や売上額を満たしていないと、リーグへの参加申請ができなくなっていますが、この状況についてどう感じますか。
梅崎:LJLに関して言えば、6チーム制から8チーム制にしたのは大賛成ですね。ただ、2部制をなくしたのは早すぎたと思います。現状でも地域密着のフランチャイズ体制がまともに機能していないなかで、2部制をなくしてしまうと、東京の一極集中になりますし、これからLJLを目指そうとする若者の活躍の場が少なくなってしまいます。
リーグとしても2部との入れ替え戦があるからこそ、成績下位チームも最後まで緊張感を持って試合できるわけです。今の状態だと優勝を見込めなくなったチーム同士の試合はただの消化試合になってしまいますから、観る方もつまらなくなるのではないでしょうか。
友利:うちのチームは1部と2部を行ったり来たりしていたので、落ちたときの悔しさ、昇格したときの感動が得られなくなったのは残念ですね。
梅崎:リーグ側からすれば、資金不足が原因でチームが解散してしまうリスクを懸念して、ある程度資金力、実力のあるチームを選定していると思います。なので、2部リーグに関しては、その売上や資本金の規定を1部よりも低く設定するなどの処置で継続していただければうれしいですね。
友利:チームの売上を求めるのであれば、エコシステムも同時に作ってほしいですね。放映権を作って、チームに分配するとか。もちろんチーム自体が考える必要もありますが、さまざまな面でリーグに協力していただけるとうれしいですね。
たとえば、海外から有力選手を招聘すると、入国管理局から「厳しい」と言われることがあるんです。なぜかというと、プロリーグとしてのシステムが確立していないケースが多いためです。LJLはそこをクリアしているので、ガンガン海外の選手が入ってきています。日本の『LoL』が飛躍的に伸びたのは、韓国人選手が入ってきたことが大きいんです。「実力がはるかに上の韓国人選手がこれだけ練習しているのに、日本人選手はそれでいいのか」という雰囲気になって、日本人選手の意識が変わってきました。
選手としての実力の高さが国内のリーグのレベルを引き上げてくれるだけでなく、海外の常識、特にeスポーツ先進国の韓国のやり方が入ると、国内の選手やチームの意識改革ができるんです。Jリーグの関係者も同じことを話していましたね。
星:LJLの2部廃止は我々の決定というわけではないのですが、まず1部リーグに注力してLJL自体を広めることが目的だと思います。もっと競技人口が増えてから、2部リーグの話が再び出てくるのではないでしょうか。
梅崎:若手発掘という位置づけであれば、参加希望者によるトライアウトの「スカウティング・グラウンズ」がありますけど、狭き門のうえ、参加するのは選手単位。即席チームでのプレイを数試合観ただけで選手の実力を判断することは無理ですよ。
友利:スカウティング・グラウンズで新しい選手を獲得したとき、現存の選手の誰かを切る必要が出てきます。2部があれば、そこでの活躍次第で1部への復帰も見込めますが、現状だと1度1部を離れてしまうと、復帰は難しいでしょうね。
太田:主催者側の観点から考えると、チームが安定して運営されているかどうかの担保は必要だと思います。ただ、それをされるとうちは辛いかな。まあ、レギュレーションで出られないのであれば、それは仕方ないこと。こちらはあくまでも出させていただいている立場なので。
友利:大会自体もっと増やしてもらえればうれしいですね。せめて年間スケジュールは早めに出してほしい。スポンサーさんからスケジュールを聞かれるんですけど、決まってないから言えないんです。下手すると1カ月前にならないと出ないところもあって。
太田:IPホルダーが簡単に大会を主催させてくれない点も、なんとかしてほしいところです。権利を持っているところほど何もやらず、お金も出してくれない。それでいて、大会を開こうとしても許諾が降りないのでは、タイトルが盛り上がるわけがありません。
友利:そういう点で『カウンターストライク:GO』はすごいですね。さまざまなところが開催できるので、年間700回くらい大会がありますし。選手は休むヒマがないんですけど、今の日本のように「大会がない!」という状況よりはいいのではないでしょうか。
――今後eスポーツに求めることやチームとしての目標は何でしょうか。
星:リーグ運営はもっとしっかりしたいと思っています。選手に還元できるエコシステムの構築やスタッフの育成、また、セカンドキャリアの構築なども進めていきたいですね。よしもとクリエイティブエージェンシーはスポーツ選手のセカンドキャリアを支援しているので、eスポーツ選手にも対応できると思います。
友利:日本チームが世界を取るところを見てみたいですね。そのためにも、チームとして、選手はもちろん、スタッフの育成をしていくことが重要だと思っています。フィジカルやメンタルのケアができる環境も整えていきたいですね。ファンの方々にも選手を見て喜んでいただくためにも、大会で活躍できるだけでなく、人としてしっかりとした選手を輩出していきたいと思います。
太田:せっかく多くの人にファンになっていただいたので、もっと喜んでもらいたい。見ていて、「このチームおもしろいね」って言ってもらえるようなチーム作りをしたいと考えています。ファンが増えれば、それだけチームや選手にも還元されるわけですから。チームとしては、世界中から「SunSisterすげえな」と言われるようになりたい考えています。それが一番ファンも喜んでくれると思うので。選手の意識改革をし、ファン重視で運営していきたいですね。
梅崎:今、チームの主要タイトルは『LoL』なので、昨年以上の成績を残していきたい。また、実行するまでにしばらく時間がかかりそうですが、地方に根付いたチームにしていきたいと思っています。地盤を築き、その土地のファンや地元の企業と一緒に何かやっていければいいですね。選手中心での運営するスタンスは変わりませんが、ファンのための施策もいろいろ考えていきます。ファンクラブを作ったり、グッズを増やしていったり、そんな感じですね。
――ありがとうございました!