今回のCP+で存在感を高めていたのが、Lマウント採用のフルサイズミラーレス。実機をタッチ&トライで展示しているパナソニックブースが大いににぎわっていましたが、Lマウントでアライアンスを組むシグマも注目を集めていました。そこで、CP+初日に実施した講演を終えたシグマの山木和人社長に直撃し、Lマウントの戦略や開発の詳細を聞きました。

  • Lマウントのフルサイズミラーレスについての質問に答えてくれたシグマの山木和人社長。右は、大判プリントされたDP2の写真で、本物の人がいるかのような立体感と質感が再現されています

センサー開発の遅れでカメラの発売を1年延期

Lマウントは、独ライカカメラとパナソニック、そしてシグマが協業して開発を進めているフルサイズミラーレスカメラの共通マウントシステムです。もともとライカが開発したマウントですが、これをフルサイズミラーレスカメラ向けに拡張したもので、2018年9月にドイツで開かれたカメラ関連イベント「フォトキナ 2018」で発表されました。

パナソニックは、高性能フルサイズミラーレス「LUMIX S1」シリーズの2モデルを発表し、今回のCP+でもタッチ&トライで出展しています。シグマは、CP+ 2019に合わせて既存レンズをLマウント化した交換レンズを発表。さらに、SAマウントやEFマウント交換レンズをLマウントに変換できるマウントコンバーター「MC-21」も発表しました。

シグマは昨年のフォトキナで「フルサイズのFoveonセンサーを搭載したLマウントカメラを2019年に発売する」「SAマウントカメラの開発は中止する」「SAマウントレンズの開発は当面継続する」「SA/EF-Lマウントアダプターを2019年に発売」「Lマウントレンズを2019年から発売」「Lマウントへのマウント交換サービスを2019年から開始」という6つの約束を発表しました。

  • 昨年のフォトキナで発表したシグマのLマウントに対する取り組み

今回のCP+で、シグマはマウントアダプターやLマウントレンズを発表し、それに合わせてLマウントレンズへのマウント交換も開始しますので、約束に応えた形です。しかし、最も期待度が高かったと思われるLマウント採用フルサイズミラーレスの発売延期を発表しました。

  • フォトキナで発表した上記の取り組みのうち、Lマウント採用カメラの発売のみ2019年から2020年へと延期になってしまいました

  • 今後のLマウントレンズのロードマップを公開。2020年以降の3本はAPS-C用レンズです

山木社長は、その理由を「センサー開発の遅れ」と話します。Foveonセンサーの製造を担当するTSI SemiconductorのBruce Gray CEOは、「センサーの開発はほぼ完了しており、性能の追い込みや製造工程の最適化を進めている」としています。

実は、今回のフルサイズFoveonセンサーの開発・製造にあたって、製造工場を持たないFoveonの製造パートナーとしてTSI Semiconductorが初めて選ばれました。製造パートナーの変更にともなって技術の移管などでも時間を取られ、Foveonにとっても初めてのフルサイズセンサーの開発ということも重なって、山木社長は「当初予想よりも時間がかかってしまった」と説明します。

製造パートナーとして「いくつかの候補から選んだ」というTSI Semiconductorは、米国に工場を構える会社。とはいえ、NECの子会社から始まった会社であり、日本的な「カイゼン」「カンバン」といった考え方が根付いている点を1つのメリットとして挙げる山木社長。製造パートナーの移転という大きな決断ですが、開発が終わって製造がうまく軌道に乗れば安定してセンサーを供給できる、と山木社長は見ています。

山木社長は、2020年のどの時期に発売を目指しているのか、具体的な時期は明らかにしませんでしたが、早期の開発完了に向けて取り組んでいく意向を示しました。

山木社長は講演の中で、開発しているフルサイズFoveonセンサーの一部の仕様を公開しました。センサーサイズは36×24mmのフルサイズです。3層構造のFoveon X3センサーであることは当然として、Quattro向けに開発された1:1:4のFoveon X3センサーではなく、山木社長が「オリジナル」と呼ぶ、初期の構造である1:1:1の仕様を選択したそうです。

  • 開発中のFoveon X3センサーは、約2000万画素×3層の構造になります

このFoveon X3センサーは、3層のフォトダイオードでRGBそれぞれを色分離するダイレクトイメージセンサーです。1:1:4では、3層の一番上にあるフォトダイオードが、ほかの2層の4倍という画素数となっており、色(青)と輝度の情報を取得します。ただ、3層が同じ画素数のオリジナルを求める声は根強かったそうで、今回は約2000万画素のフォトダイオードを3層重ね、合計6090万画素となる1:1:1のFoveon X3センサーを採用しました。

「1:1:4の構造は、限られたダイ面積の中で解像度を上げるのには非常に適したものです。しかし、Foveonはピクセルピッチを詰めていくと構造が複雑になり、コスト的にも開口効率としても難しくなります」(山木社長)。

これを回避するための1:1:4という構造でしたが、センサーサイズがフルサイズになるとピクセルピッチに余裕ができるため、素直な設計ができるとのこと。また、Foveon搭載カメラを以前から使ってきたユーザーは1:1:1の構造に慣れているため、そうした構造への支持率が高かったそうです。

Foveonセンサーは「特性的に高感度には強くない」(同)ため、フルサイズになっても「設計を根っこから変えない限り特性は劇的には変わらない」(同)そうです。ただ、細かい部分での改善を積み上げることで、高感度での画質向上を目指す考えです。

山木社長は、現在開発しているLマウント採用カメラを「クラスレスのカメラ」と位置づけているそう。「プロ向け」「写真愛好家向け」などという特定のカテゴリーに入らないカメラ、という考え方です。「ユニークなテクノロジーを使っているので、クラス分けはしません。値段も、あまりバカみたいな高価格にならないように努力しています」と山木社長。

会場内には参考として、Foveonセンサー搭載のレンズ一体型モデル「DP2」で撮影したポスターが掲載されていました。アップサンプリングやシャープネスをかけているものの、「1つ1つのピクセルデータの素性がいいので、拡大したりしても実物のような質感が出せます。むやみやたらとピクセルを増やすより、しっかりと光をキャプチャーするのが重要」と山木社長は強調しており、こうした考えでシグマが作るLマウントミラーレスへの期待が高まります。

ブースで実施した講演で、山木社長はSAマウントレンズのユーザーに対して、マウントアダプターやマウント交換を安価に提供することを表明。どちらも1万円前後を想定しているそうで、「正直なところ両方とも赤字」(同)といいます。それでも、システムとして販売してきたマウントからの移行を求めることに対して、「メーカーとしての最後の責任としてやるべき」という考えで提供を決めたそうです。

  • SAマウント用のマウントアダプターは、できるだけ抑えた価格で提供すると表明しました

  • マウント交換サービスも、SAマウントからの交換は料金を低く抑えるとしました