キヤノンが、フルサイズミラーレス「EOS R」についての技術説明会を開催。新製品発表会やユーザー体験イベントなどの場でも語られなかった開発秘話や、ミラーレス化が高画質化をもたらす理由、気になる今後の商品展開など、蔵出しの話がいくつも飛び出しました。
キヤノンが10月末に販売を開始したフルサイズミラーレス「EOS R」。一眼レフEOSにはない新たな操作性を採用したことや、マウントアダプターの併用で一眼レフEOSのEFマウント用レンズが使える点、シャッター速度や絞り、感度を自由に変更できる新しい露出モード「Fvモード」(フレキシブルAE)を搭載した点などが話題となりました。
EOS Rの販売開始からひと月半ほどが経った12月中旬、キヤノンが技術説明会を開催。カタログなどでは分かりづらいミラーレス化のメリットなどの話が語られたほか、気になる今後の商品展開が明らかにされました。
レンズマウントの口径が小さいほど画質面で不利に
キヤノン イメージコミュニケーション事業本部 ICB光学事業部長の金田直也氏は「一眼レフに欠かせなかったミラーボックスがミラーレス化で不要になり、センサーより前方のスペースが自由に使えるようになった。交換レンズはEFマウント版と比べて小さく設計できるようになるだけでなく、光学設計の自由度が上がることでこれまでにない大口径レンズなどさまざまな可能性を秘めるようになった」と、ミラーレス化のメリットを語ります。
ICB光学開発センター副所長の加藤 学氏は「30年にわたって発展し続けるシステムを作りたい、我々が思い描く理想のレンズを形にしたい、と考えてたどり着いたのがミラーレスのRFシステム。RFシステムは高画質、コンパクト、高機能の3つの要素を柔軟に調整できる懐の深さを持っている」と語ります。
加藤氏は、レンズ交換式カメラで高画質とシステムのコンパクトさを追求するにあたって、なぜ短いバックフォーカスと大口径マウントが求められるのか、という点を解説してくれました。
レンズマウントの口径が大きい場合、最後部に凸レンズを配置することで、光束を無理に曲げなくても撮像素子の隅まで光が届きます。口径が小さい場合、最後部に凹レンズを用いて光を大きく屈折させなければ隅のほうまで光が届きません。凹レンズの配置によって発生する収差を打ち消すため、前玉をより大きくし、しかもより前方に配置する必要が出てきます。これにより、レンズが大きく重くなってしまうわけです。
開発当初、EOS Mシリーズで使われているEF-Mマウントでフルサイズ機を作ることも検討されたそうです。しかし、EF-Mマウントはマウント径が小さいだけに、前述の理由でレンズの肥大化を招いてしまうことが分かったそう。それを踏まえ、大口径の新マウントを採用する方針になったそうです。
ちなみに、EFマウントの「EF35mm F2 IS USM」とRFマウントの「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」、レンズ性能はほぼ同等ですが、前玉の大きさがかなり異なるのが分かります。一見すると、前玉の大きいEFマウント版のほうが高性能のように思えますが、RFマウント版は前玉に相当する大きなレンズを最後部に配置。これにより光学系の全長を短縮でき、システム全体の小型化と高画質化を両立できたといいます。
さまざまな可能性を秘めるRFマウント
EOS Rで採用されているRFマウント、新製品発表会でも「従来のEFマウントと比べて通信速度は大幅に向上した」というコメントがありました。今回、「RFマウントの通信速度を新幹線の速さだとすると、EFマウントはスクーター程度」という突っ込んだ内容のコメントが飛び出しました。明確にひとケタ違うことになります。「通信速度はまだ向上の余地がある」といい、オートフォーカス性能や手ぶれ補正性能などのさらなる向上が見込めそうです。
EFマウントをEOS Rに装着するためのマウントアダプターは3種類が発表されていますが、これ以外の製品も出していく可能性があるそうです。
さらに、今後の商品展開についても「RFマウントのシステムは、今回投入したEOS Rを一号機と据え、ラインアップをさらに拡充していきたいと考えている。より高性能のハイエンドモデルを望む声がある一方で、エントリーモデルへの要望もいただいている。ミラーレスの特徴を生かし、EOS R以上に小型軽量や簡単操作の特徴を持ったエントリーモデルなど、今後ラインアップを広く展開していきたい」と金田氏はコメント。フルサイズセンサーを搭載した一般向けのエントリーモデルも開発の検討を進めていることを明らかにしました。