タニタとタニタヘルスリンクは9月28日、INCJ、イトーキ、SBI生命保険、日立システムズの4社を引受先とする総額35億円の第三者割当増資を実施し、契約締結が完了したことを発表した。
タニタらは「健康プラットフォーム」を構築し、パートナー企業とともに新たなヘルスケア事業を2019年度中に展開する予定だとしている。ここでは、同日、マンダリンオリエンタルホテル東京にて開催された記者発表会の模様をお伝えする。
「いずれは国の健康政策に貢献したい」
今回、タニタらが展開する新しいヘルスケア事業は、各社が持つヘルスケア関連情報やサービス、システムなどを融合させ、東京大学と連携して、誰もが利用できる新たな健康プラットフォームの創出を目指すもの。その第一弾として、2019年度に岡山市で実証実験を始める。
発表会の冒頭では、タニタ代表取締役社長の谷田千里氏が登壇し、今回の増資にあたっては官民ファンドのINCJから多大な支援を受けたことを明かし、「国内における健康サービス産業を創出せよとの大きな期待の表れである」と強く認識したという。
そして「国が推進する公的保険外の領域におけるヘルスケア分野の産業化やデータヘルス計画の受け皿となるべく、産・官・学が連携し、誰もが参加できる健康増進のインフラ作りに取り組んでいく」と意気込みを語った。
また、「国内のあらゆる企業、団体、アカデミアなどその垣根を越えて連携するオープンプラットフォームによって健康課題を解決できれば、この分野で世界を大きくリードすることができる」と断言。「今回構築する健康プラットフォームは、国民の健康データをビッグデータとして、健康寿命延伸に向けた多くの方々のさまざまな取り組みに活用できる可能性がある」とも述べた。
さらに「この健康プラットフォームが日本の公的資産として国の健康政策に役立てていただくことを視野に入れている」と展望を語り、「"生涯現役社会"の実現へ向けた大きな挑戦がいよいよスタートします」と挨拶を締めくくった。
次に、タニタヘルスリンク代表取締役社長の丹羽隆史氏が登壇。今回構築を目指す健康プラットフォームは、検診やレセプト、健康情報などから疾病リスクを可視化し、個々人の生活スタイルや趣味嗜好から簡単・楽しい・続けたいと思えるコンテンツで行動変容を促し、利用者を健康にしていくものであると説明した。
自分に合ったかかりつけ薬局、保険、服、食事などによって、利用者自身の健康を守れるような情報をワンストップで提供するプラットフォームを目指すという。
また、同プラットフォームを作ろうと考えた要因のひとつに、日本国民がこのまま不摂生な生活をし続けることで医療費が増え続け、健康保険制度を維持することが難しくなるであろう状況に危惧を抱いたことを挙げた。
さらに「平均寿命」と「健康寿命」の差(病気や寝たきりの期間=介護を受け生活する期間)が、男性で9年、女性では約13年もあるとし、医療費適正化や健康寿命の延伸のためにはさまざまな世代での生活習慣病予防に向けた取り組みが重要だと述べた。
従来の健康サービスでは、健康診断の結果をもとに指導されるが、楽しくなかったり続かなかったりして、成果が出ないといった課題があった。今回、タニタが提案する健康サービスは、約3割いると言われる「健康関心層」の人々には成果をさらに伸ばしてもらい、残り約7割の「健康無関心層」の人々にはゲームや園芸、旅などのコンテンツ群を入り口にし、楽しみながら健康になる行動をとってもらう。その結果として、自分の体形や体組成は変化し、いつのまにか健康になれるという仕組みだ。
次に、健康プラットフォームの参画法人やアカデミアの役割についての説明に移った。
タニタヘルスリンクは、体組成計や活動量系などのハード、WEBサイトやアプリを用いた健康管理サービスおよび専門家によるセミナーなどのソフト、そしてタニタ食堂の企画・運営などの食事といった側面から、人々の健康づくりを促進する健康サービスをトータルで提供する。
丹羽氏は「健康プラットフォームの解析エンジンやコンテンツを、既に提携している150以上の自治体や企業にに加えて、自治体、健康経営を進める企業など計300以上の団体に提供したいと考えている。地方創生推進交付金を活用したモデルによって、自治体だけで200以上を目指す」とし、「裾野の広い健康領域をひとつの企業集団でカバーすることは不可能だが、多くの企業の賛同を得て手を携えることで領域全体をカバーし、無関心層にも届くサービスを構築していく」と述べた。
最後に「タニタヘルスリンクは"日本をもっと健康に"を目的に、思いを共有いただける企業をつなぐハブの役割を、この健康プラットフォームにおいて担っていく」と説明した。
パートナー企業・大学、参加の動機は
次に、タニタヘルスリンクも参画している、東京大学COI 自分で守る健康社会拠点の機構長・池浦富久氏が登壇。人生100年時代でいちばん大事な"健康の自分ごと化"を達成するために、同機構では自分のリスクをしっかり把握し、それを可視化し、何をすればいいのかをアドバイスするような一連のアプリケーションを開発しているという。
池浦氏曰くこれは「"ドラえもんの健康ポケット"のようなもの」で、「健康の考え方は人によって千差万別で色んなサービスを用意しなければいけないが、健康プラットフォームでこのアプリケーションの"健康ポケット"をさらに増やしていただき、国民の一人ひとりに適したアプリケーションにしていきたい」と述べた。
続いて、東京大学大学院工学系研究科 特任助教・医師の岸暁子氏から、同機構が開発しているプログラム「カラダ予想図」に関しての説明があった。
これは、検診データやレセプトデータ、健康情報から個人ごとの現在・将来の生活習慣病(メタボ、脂質異常症、糖尿病、高血圧症、慢性腎臓病、虚血性心疾患など)のリスクを可視化するとともに、本人の生活習慣や趣向に基づいたアドバイスを自動化するものだ。
同プログラムによってリスクが可視化されることで、自らの気づきによる自発的な動機付けとなり、行動変容を促進するとのことだ。今後はこの健康プラットフォームによってデータ連携の充実を図り、個別化された保健医療サービスの実現を目指すという。
最後に「データを集めることは非常に大変なことなので、健康プラットフォームには期待しています」とエールを送った。
そして、健康プラットフォームに資金・経営面でサポートするINCJのマネージングディレクター・板橋理氏が登壇し、今回出資に至った経緯について説明した。
同社は経済産業省(以下、経産省)と連携して投資活動を行っている。新産業構造ビジョンでは、健康寿命について、2020年までに1歳以上、2030年頃に5歳の延伸を政策目標のひとつとして掲げている。
その実現のために「個人が生涯にわたり健康関連データを経年的に把握できるリアルデータプラットフォームの構築」や「行動変容を促すためのインセンティブ設計」が含まれているとした。
さらに官邸から発表された未来投資戦略の中に、「次世代ヘルスケアシステムの構築」が掲げられ、「自らの健康状態や服薬歴等を把握できる仕組みの構築」や「ビッグデータを個人のヒストリーとして連結・分析できる基盤の構築」が含まれている。
政府の方針において健康寿命の延伸は戦略分野となっており、個人の健康データを活用したプラットフォーム構築の社会的重要性が増加している認識を持ったということだ。今回、タニタヘルスリンクが構築する健康プラットフォームが、政策的な課題に合致していることから今般、23億円の出資を決定した。
続いて、SBI生命保険の代表取締役社長・飯沼邦彦氏が、同社が健康プラットフォームへ参画した理由について説明した。同氏によれば、顧客に対し疾病リスクや生活スタイルから最適な保険商品の提案が可能になること、将来の疾病リスクや顧客の生活スタイル、趣向に応じた保険商品の開発、未病、予防の提供機会を得られることから、同プラットフォームを活用した保険商品やサービス展開を目指せるのが最大の理由だとした。
次に、日立システムズの代表取締役 取締役社長 北野昌宏氏が登壇。同社の役割は、健康プラットフォームの解析エンジンを共同開発するとともに、その拡大にも協力するとのこと。北野氏は「ITの会社なので、ITを使って貢献したい」と述べるとともに、多くの企業では人材不足に悩まされていることから、「大事な社員が病気になると企業としても非常に厳しくなるため、できるだけ多くの社員に健康でいていただきたい」というのが、今回参画したもうひとつの理由であることを明かした。
最後に、イトーキの代表取締役社長・平井嘉朗氏が登壇した。同社は一日の大半を過ごすオフィスでの日常の行動がどのように健康に影響しているのかを、長年研究しており、働き方改革や健康経営の課題分析、効果検証に活用できるWebアンケートサービス「はたらきかた検診」をスタートした。
これは、働き方改革や健康経営をしたいが何から実施すればよいのか知りたい、実施した施策の効果を定量的に測りたい、といったニーズに活用できるという。今回、健康プラットフォームに参画した理由は、「これらの分析結果を提供するとともに蓄積データを我々なりに活用することで、さらに高精度なデータを顧客に提供し、日本の健康に貢献していきたい」からだと語った。
健康プラットフォーム事業の第一号案件には、岡山市が選出された。同市をフィールドに、国保や協会けんぽ、組合健保に所属している岡山市民で、個人同意に承認した人を対象にリスク解析を行っていく。
そして、それらの人々が健康改善に取り組みやすいように個々人の生活スタイルや趣味嗜好に寄り添ったレコメンドを出し、保健士や専門職の人々と連携するサービスを開始する。全国健康増進協議会に加盟する淳風会(岡山市)を軸に、全国440万人が受診する検診機関を通じて、全国に広めていく計画だ。
なお、サービス開始時期については、まず2019年4月から岡山にてトライアルを開始し、2019年10月に今回のプラットフォームの一部コンテンツが加わる形となり、そして2021年度には本格サービスの提供開始を目指しているということだ。
今回、タニタらが発表した新たなヘルスケア事業の展開は、経産省が掲げた政策目標のひとつである「健康寿命の延伸」に向けてのインフラとして、大きな目玉となりそうだ。加えて、働き方改革および生涯現役生活の実現に向けた狙いもあるという。同プロジェクトによって、多くの人々がそれぞれの健康増進のための取り組みに活用できるようになることを期待したい。
(早川厚志)