『ラブひな』や『魔法先生ネギま!』、『UQ HOLDER!』といった作品を生み出しているマンガ家の赤松健氏。日々、ペンを走らせ、物語に命を吹き込んでいる傍らで、Jコミックテラスの取締役会長として、絶版マンガや出版社から許諾を得た作品が無料で読める「マンガ図書館Z」を運営している。
そのJコミックテラスが2018年8月1日、実業之日本社と海賊版サイトに対抗する実証実験を開始すると発表した。本稿ではその様子を紹介する。
第三者が収益を受け取れる絶版本公開の実証実験
「絶版本がほしい場合、あなたはどうしますか?」
発表会の冒頭、赤松氏が問いかける。
「オークションやAmazonマーケットプレイス、新古書店、海賊版サイトなど、いくつか手段はありますが、残念ながらどれも作者の収益にはつながりません。その問題を何とかしたいというのが私の最大の願いです」
読者側としての感覚では、どの方法を使っても「購入さえすれば一緒」だと思いがちだが、収益の仕組みはそう単純なものではない。海賊版ではなくても、一度絶版してしまえば、中古の作品がいかに流通しようと作者の手元には一銭も入ってこないのだ。
今回発表された実証実験は、2000年以前に実業之日本社で発行・掲載された作品の電子データを「作家本人もしくは第三者」から募集し、マンガ図書館Z上で無料閲覧できるようにするというもの。広告による収益が発生した場合、作者と出版社、そして素材提供者に収益が還元されるという。割合は作者が80%で、出版社と素材提供者は10%ずつだ。
実験のポイントはなんといっても、第三者がデータをアップロードした場合にインセンティブを受け取れることだろう。電子データを保有していれば、誰でも情報を提供することが可能で、さらにお金まで受け取ることができるのだ。通常収益を生み出さない絶版本から少しでも収入を得ることができるのであれば、作者や出版社にとっても悪い話ではない。
公開はすべて作者の許可を得てから実施
第三者が投稿する場合は、まず実証実験の専用サイトにアクセス。作家一覧が表示されるので、自分の投稿する作家名、作品名をクリックし、データのzipファイルをドラッグ&ドロップするだけでアップロードが完了する。
「素材を持つ第三者から投稿があった場合、実業之日本社の作家名簿から著者にコンタクトを取り、必ず電子化の許可を得ます。連絡が取れなかった場合は公開しないので、完全に合法。著作者に無断で公開する動画サイトなどとは異なります。今回はマンガ以外の文芸も対象です」
“完全合法”を謳う赤松氏。実証実験を通じて、将来的にはさまざまな出版社の絶版作品が集まるようなサイトを目指す。
「究極の目標は、トップページに3大少年漫画が掲載され、すべてのマンガを読めるような場所にすること。基本的に海賊版サイトでやっていることは、すべて正当な手段でやっていきたいと考えています。そうすることでようやく海賊版サイトを叩き潰すことができるのです」
また偶然にも同日、出版関連9団体で構成される出版広報センターが「STOP! 海賊版」の特設サイトを開設。『ONE PIECE』や『名探偵コナン』、『七つの大罪』といった人気マンガのキャラクターを起用し、各社Twitterアカウントなどで海賊版サイトを利用しないようにと訴えていた。
「漫画村」が閉鎖されたからといって、コンテンツ産業の海賊版問題が解決されたわけではない。すぐに第2、第3の「漫画村」が現れる可能性もあるのだ。出版各社はまだまだ気が抜けないのだろう。
スマホの無料アプリやインターネット上の無料サービスが増えすぎて、現代では「タダで楽しむこと」があたり前になりすぎたのではないだろうか。マンガ図書館Zのような仕組みづくりは大事であるし、成功してほしいとも思うが、作者に順当な利益が行きわたり、作品が長く健全に継続していくためにも、マンガやアニメの分野において利用者は、今一度「ほしい作品を手に入れる楽しみ」を思い出さなければならないのかもしれない。
(安川幸利)